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領主生活初日 ハヤト、竜王と戦う

 本部の執務室の机には本が山積みになっている。

 本のタイトルは領地とは……統治とは……等領主に関することばかりだ。

 領主の仕事について勉強しているのだが、成果は芳しくない。

 というかこういうのって本で勉強するより、実際やった事のある経験者に教えてもらうのが良いんじゃないかね。


「ん~……分からん」

「やっぱ無理なんじゃねえか」


 けらけらと笑いながら茶化しに来るのはデフだ。

 リア様とリヒトがヒューネルにいるというのにこいつだけは変わらずノーザンラントの街にいる。

 理由としては余計な仕事を増やされない事と、この街の方が楽しくて居心地がいいかららしい。

 こいつはなんだかんだで器用で役に立つから、帰れとは言わない。


「ハヤト様、何か助力できることはございますか?」


 机の隣で畏まっているのはフェイルだ。


「ねえフェイル、竜族って街の統治はどうやってるんですか?」

「そうですね。竜王が適当にやっていました」

「そうですか。竜王が統治を、いや待てよ……」


 良い事考えた。


「フェイル、お願いがあるんですけど良いですか」

「はっ、何なりと」

「竜の住処へ案内してください」


 統治方法が分からなければ教えてもらえばいい。

 そう思った俺は早速竜と竜人の住処へと向かうことにした。




 山を越え、谷を越え……。まあフェイルの背中に乗っているだけだけど。

 そうこうして向かったのは竜人や竜が住む山頂。


「降ろして貰えますか」

「は!」


 目の前に現れたのは前の世界の世界遺産マチュピチュ遺跡のようなそれこそ石で作られた遺跡だ。

 高くそびえる壁は山頂だというのになお先が見えない。

 山の上から見る下は雲があり、よく見えない。


「こちらへ」

「分かりました」


 フェイルの案内で奥へ進んでいく。

 中に入るとフェイルに似た格好の人が行き来している。

 ノーザンラント程人はいないがそこらの街位はいそうだ。

 ちなみに俺の事を凄い見てくる。


「なんか俺、見られてませんか?」

「それはもう、純粋な人族がこの里に来るのは数百年ぶりですからね。皆興味津々なのでしょう」

「へえ……」


 まあ、こんなところにわざわざ登ってくる酔狂な人間はいないだろうしね。何より下からはこんな遺跡があるって分からないわけだし。

 歩いて行くと目の前に大きな扉が見えた。


 フェイルは門を守る人と軽く挨拶をしてから中に入る。

 なんとなく思っていたのだが、中は案の定というか王の間だった。

 そういうのは先に言ってくれよ。心の準備とかあるだろう。


 広い王の間、奥の玉座に綺麗な女性が座っているのが見えた。

 浅黒い肌に髪は後ろ一本にまとめている。

 傍には付き添いの老人が立っている。


「フェイルか」


 立ち上がって歩いてきた。

 大きな胸がたゆんと揺れる、身長は高く、それでいて細い。随分とスタイルの良い女性である。


「竜王、久しぶりだな」

「よく戻った。ゆるりと休むがいい」


 にい……と笑う。

 やっぱりこの人が竜王か。


「ん、そいつは誰だ?」

「俺はハヤトです。最近、街の領主になりました」

「ふーん、我はシュテン。竜王だ」

「はい、よろしくお願いします」

「ふむ、礼儀正しいな。よし、よろしく……」


「そしてハヤト様は俺の主だ」

「……どういう事だ?」


 フェイルが説明すると竜王の顔がみるみる険しくなる。

 あれ、なんか急に不機嫌になったけど。嫌な予感がする。


「なるほど、ハヤトと言ったな」

「はい」

「勝負だ」

「はい!?」





 移動してきたのは王の間から少しの距離にある闘技場だ。

 真ん中に舞台があり、観客席まである。

 ちなみにどこから聞きつけてきたのか竜やら竜人がわらわらと観客席に集まってきた。


「なんですかこれ」


 困惑している俺の隣でフェイルが当然のように腕を組んでいる。


「竜族は元々戦闘好きですから、戦闘を見るのが好きなんです。人間と竜の戦いなど神話でしかないから、興味を持つのも当然でしょう」

「いや、俺が聞きたいのはどうして俺が竜王と戦う事になったのかという話で」


「ハヤトとやら! 聞こえるか! ルールを説明する!」

「はい」


「ルールはただ一つ、ブレスオンファーストだ!」

「ブレスオンファーストか……なるほど」

「「おおおお! ブレスオンファーストだ」」


 あのブレスオンファースト!?

 ……どのブレスオンファーストだよ。


 フェイルはにやりと笑ってないで内容を教えてくれ。


「えっと、それはどういうルールでしょうか?」

「む?」


 腕組み口を半開きにしているシュテン、その傍にいた老人がぼそぼそとシュテンに言う。

 あ、老人が蹴られた。


「竜族に伝わる伝統的なルールだ。今から我がブレスを吐く。貴様が我のブレスを受けきれれば貴様の勝ち、何でも願いをかなえよう。ただし貴様が消滅したら貴様の負けだ! だが特別に竜に戻らずこの姿のまま戦ってやろう、特別な」


 何じゃそりゃ。

 消滅したら負けっていうか復活できないだろうそれ。


「これって本当に戦いなんですか?」

「いえ、厳密には竜族式の処刑です。ハヤト様何かやりました?」

「何かって何をですか?俺あの人に会ってから十分も経ってない内から勝負になったん

ですけど」


 会って十分で戦闘とか何かのタイトルかよ。

 でも処刑と聞いてなんとなくわかった。

 処刑は庶民の娯楽と聞くが確かに数百年ぶりに来た人間が竜王によって公開処刑にされるって聞いたら見にも来るよな。

 ていうかフェイルは心配してくれないのかな。


「勝てますかね」

「俺に勝ったくらいですから余裕でしょう。心配するまでもないです」

「あ、そう」


 信頼してくれてるのね、大丈夫……かなぁ。


「そろそろ良いか!」

「ご武運を」


 言いながらフェイルが下がっていく。


「では互い舞台の真ん中へ……始め!」


 言った瞬間、シュテンは空気を吸い始める。

 竜王だよな、どれくらい防御に使えばいいだろう。前回は咄嗟の七重でギリギリだったからな、今回は同じ七重でも質を高めるか。

 

 シールドを強化し終えた直後。

 虹色のブレスが炸裂した。

 長いそれはゴリゴリシールドを削っていく。


「く、くははっはは! フェイルよ見たか。これが我の力よ!」


 煙の向こうでシュテンが叫んでいる。とっても嬉しそうだ。

 ここでなんとなく理解した。

 

 多分この竜王、フェイルの事が好きなんだろうな。

 だから俺に取られて怒ったのだろう。

 理不尽この上ない。俺は男なんだから、そういうのはそっちで好きにやってくれればいいのに。

 会場からは歓声が上がる。

 

 煙が徐々に晴れていく、

 後ろではふふ……というフェイルの笑い声。


「すいません。なんかすいません」


 勝利の笑みを浮かべていた竜王と目が合う。

 無傷の俺を見て、竜王の表情が固まった。

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