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ガレリア追放

【アイスニードル!】


 氷の棘が水平に飛んでいく。


【ファイアヴェール】


 突如現れた薄い炎の膜によって簡単に絡めとられる。


「まだまだ行くよ!」


 少女は手を下から振り上げる。


【ファイアピラー】


 瞬間、地面から生えてきた炎の柱が俺の左右に現れた。


【アクアヴェール】


 ハヤトも魔力を練り唱える、水の膜で身体を覆い後方へ逃げるが追撃は止まらない。


【ファイアランス】


 少女の肩の上、虚空に現れた三本の炎の槍が飛んで来る。


【アクアランス】


 同じく俺も一瞬の溜めがあってから同じように水の槍を出すが一本の上、一回り小ぶりだ。


『パンッ』


 乾いた音と共に水の槍はかき消されてしまう。

直後、俺は倒れてしまった。

 魔力の喪失。

 飛んできた炎の槍は俺に当たる前に解除された。共に炎の柱も消えていく。

 相手をしていたレナはポニーテールを揺らし、腰に手を当てながら仰向けに横たわる俺を見る。


「もお、魔力の枯渇早すぎ! こんなんじゃ練習にならないじゃない」

「はぁ……はぁ……ごめん……」


 戦闘を見ていた周囲からは乾いた笑いが起きる。


「レナ、無理だよ。ハヤトは限界なんだから」

「そうそう、誰にも適正ってものがあるから仕方ないんじゃないの?」


 失笑である。

 現在ガレリア帝国内のアカデミーと呼ばれる学校にて教育を受けている。

 異世界人のほとんどがガレリア国内に転生した結果。

 ここで生活しながら、この世界の知識を深めたり戦闘技術を鍛えたりしている。

 ちなみに異世界人は皆魔力量がどんどん伸びていくのだが、俺は最初だけで以降は全く魔力が伸びなかった。


「ほら、立って。早く行くよ。次はガレリア国史の授業なんだから」


 レナは俺の戦闘技術の相棒なのだが、俺の魔力がすぐに尽きてしまうため魔力制御ばかり上手くなり、魔力の放出に関してはあまり練習できていない為伸びは少ない。

 それを教官に指摘されているというのを最近聞いた。

――とは言っても自分よりは遥かに伸びているのだが。


「ごめん、俺が魔力あんまりないから」

「大丈夫だよ、きっとすぐに魔力なんか伸びるよ。努力は報われるんだよ。死んだおじいちゃんもそんなこと言ってたし」


 レナは笑うが申し訳ないという気持ちでいっぱいだった。



 アカデミー内講堂。

 広い空間には厳かな空気が漂う。

 低く力強い声が聞こえる。


「サクマ、先ほど説明したガレリア帝国の国史を踏まえ、現在置かれている状況下を簡潔にまとめろ」


「現在大陸には大小合わせて百を超える国が存在しており、戦争もありいまだ大陸が統一されることはない。


 しかし、二十年前に北部諸国連合を率いた強国カナリア国の攻撃を防ぎきり勝利へと導いたガレリア帝国の名将ベックス、また軍師イトナの活躍により大陸西部の三分の一をガレリア帝国の領土としており、国の疲弊はあるものの未だ大陸随一の軍事力を持った大国である。


 今後上国出身者が成熟すれば戦力は更に上がり、あと数百年はかかると言われていた大陸統一も大幅に短縮されると推測されている」


「よし、では座ってよい」


サクマが座ると同時にレブナント教官は、教卓に手を付く。


「君たちは上国出身者である。将来は有能な魔法使いとして潤沢な魔力を持ってこのガレリアの大陸統一という悲願を果たして欲しいと思っている。正直言い伝えを信じアカデミーの体裁だけ整えていた王家の判断には誰もが疑問符を浮かべていたのは事実だ。勿論私だって例外じゃない。しかし――」


 レブナントは広い講堂に座る沢山の上国……もとい日本からの転生者達をゆっくりと一瞥して頷く。


「私は君たちの魔力の伸び、素質、驚くべき逸材達であると納得し、君たちこそがガレリアの悲願を達成させるために遣わされた使者に間違いないと確信している。君たちの努力、研鑽、成長に期待している。――以上だ。講義はこれにて終了する。……それと生徒ハヤトはこの後私のところへ来るように」


 教官室に入るとレブナントは俺を一瞥し、次に手に持っている一枚の紙に視線を落とした。


「上国出身者のハヤト」

「はい」

「君達上国出身者がここに来てから数か月、これは戦闘技術担当の教官から渡されたデータでもあるのだが……」


 溜息と共に机の上に紙を置く。

 それには俺の能力値の変化が書かれていた。


「我々が君たち上国出身者を優遇しているのは決して善意の心からだけではない。我々は戦力になるであろう君たちの為に国家の費用を使い育てている。一大戦略であるのだ。理解はしているのかね?」

「……はい」


 レブナントは思い切り机を叩く、机の上に乗っていた沢山の書物が揺れた。


「君は努力をしているのか?」

「勿論です、ガレリアの戦力になる為に日夜魔力の研鑽を続けています」

「これでか……」


 押し殺したような非難交じりの声が教官室に響く。

 俺は何も言えずにうつむく。


 嫌な予感はしていた。前回呼ばれた時も別の教官に責められたのだ。

 現在俺の年齢は十一歳だ。


 どうしてこの年齢でこの世界に送られたのかと思っていたが、この世界の魔力は十歳から十五歳までの五年間で急激に伸びてそれ以降はあまり伸びないそうだ。

 成長期、だからあの神様は俺らをこの年齢でここに送り込んだのだ。


 だが俺の魔力は一向に伸びなかった。

 伸びる速度は人それぞれとはいえこれはおかしい。


「こんなことは言いたくなかったが、恐らく君の魔力の総量はもう限界だ、今後伸びる可能性は極めて低い。しかもここの生徒と比べて低すぎる」


 レブナントは冷ややかな目で俺を見る。


「ハヤト、魔法について出来る限り説明してみろ」

「……魔法はこの世界に生きる人間のほとんどが使える物です。属性は火、水、風、雷、木、光、闇、また様々な状態異常や回復、非常に高い集中と長大な詠唱が必要な禁呪や古代魔法も存在しており未だに確認されていないものがたくさんあると言われていますし増え続けているとも言われています。地域や種族によっても魔法は違います」


「あとは?」


「魔法には規模や威力、消費魔力、難易度の総合力から級分けがされており、初級魔法から中級、上級、最上級、とあり。また古代魔法(エンシェントスペル)に至っては最上級より消費魔力も多く、制御が難しく今では唱えられる人間はほとんどいないと言われています」


「で、君はどこまで唱えられる? どこまで使いこなせる?」

「使いこなせるのは少々の中級までだけです」


 はぁ……と深い溜息をつく。

 そしてもう一枚の紙を今度は机に置かずに俺に直接渡してくる。紙にはこう書かれていた。


『 辞令 魔法使い候補生上国出身者ハヤト。貴君をアカデミー追放とする』


「追放って……ちょっと待ってください」


「今日で君とはお別れだ。これはアカデミーの総意であり、国の決定である。私個人としては君のような魔力のない人間を育てるためにこれまで国が支払った費用、また君の為に使った時間、君の戦闘技術相手の成長阻害を考えれば国家の損失であり損害賠償を請求したいくらいだが、元々ガレリア国民でない君がアカデミー追放となればいわば国家追放とも同義語であるから若干の同情を禁じ得ない。……という声もある。まぁ、私は同情する気もないがね」


 レブナントは足を組みなおす。


「以上だ。来月から私の代わりの教官が来る。私も本職は軍人だ、将として各地に行かなければならない為、準備に忙しい。……ん? 何をしている? さっさと寮に戻り荷物をまとめたまえ、一応言っておくがここにお前の居場所はない」

「そんなっ! レブナントきょうか……」


 言葉を言い終える前にレブナントは目を細めてこちらを睨む。


「何をしている。最後位さっさとしないか、使えない愚図め」

「…………っ!」


 はっきりとした拒絶の言葉を吐き捨てレブナントはそのまま机に向かった。


「レナ……」

「なんの話だったの?」


教官室を出ると廊下でレナが待っていた。

 廊下を歩きながら説明するとレナは顔を真っ赤にして踵を返そうとしたため、咄嗟にレナの腕を掴んだ。


「放して! レブナント教官に私から話してみる。酷すぎるよ、ハヤトがどんなに魔力を伸ばそうと頑張っていたか、どうして努力をする人間をそんな簡単に切り捨てられるの!」

「でも魔力が伸びなかったのは確かだし。ただでさえ俺らはガレリアの国民じゃないし」

「だからって今日で追放なんてあんまりすぎる。私も付き合うから、もう少しやればきっと伸びるよ」

「そんなわけないだろう」


 階段の上から低い声が聞こえてきた。


「サクマ……」

「こいつの魔力が上がらないのは限界だからだよ。いくら頑張ったって無駄だ、レナ。君がこいつに付き合っても何も得られない。異世界人のくせに限界魔力値が低いんじゃ何の役にも立たないじゃないか、情けない」


「そんな言い方ないと思う、ハヤトは頑張っているのに」

「才能がないやつの頑張りなんて無駄なんだよ、横で見てるほうがイライラしてくる。ただでさえガレリア国民でない僕らの優遇を疑問視している人間もいるんだ。一緒にされるとこっちの評価が下がる」

「ちょっと、そんな言い方って……」


 サクマはレナを無視し俺を見る。


「なあ、追放で良かったじゃないか。これからは成果の出ない努力をする必要もない、笑われる事だってプレッシャーを感じる事だって無いんだ。せいぜいガレリアの、僕たちの活躍を祈っていてくれ」

「…………っ!」

「ハヤト!」


 俺は無我夢中で寮へと走った。

 胸が張り裂けそうだった。


 熱くたぎった心臓に相反して脳は冷える。

 サクマの言葉はたぶん本当だ。


 俺の魔力成長はもう限界を迎えているんだと思う。

 でも……じゃあ、だからってこれから僕はどうすればいいんだよ。


 涙が出そうになるがこらえた。

 泣いても何も変わらない、すぐに荷物をまとめてここから出て行かなきゃ……。


 アカデミーの校門から振り返る。

 やはり大きい建物だ。


 きっともう二度とここに来ることはない。

 続いて町を見た。

 石畳の道と石造りの家々、大きな教会に活気のある商店街が見える。

 不安な気持ちいっぱいで歩き出した。


 ガレリアの帝都は二層の壁と複数の町並みで形成されている。

 最も内側には城があり、白い尖塔が見える。

 その隣にアカデミー、そして兵士の詰め所。

 そしてそれを覆う内壁、次に貴族層、中流層、下流……いわゆるスラム層が暮らす街があり最後に外の城壁が存在している。


 外側に行くにつれて町の治安も人種も悪くなっていく。

 歩きながら財布を取り出す。

 財布の中にはいくらか金はあったが増やさなきゃ減る一方だ。

 とりあえずご飯でも……。


 パンを買おうとしたら店員に怪しまれ紋の提示するように言われた。

 紋とはガレリア国民なら身体にあるものらしい。

 初耳だ。

 アカデミーじゃそんなものがあるなんて教えてもらわなかった。

 

 ともかく、それが無ければパンすら売ってもらえず、仕事の斡旋所も門前払い。

 結局俺は食べ物も食べられないままガレリア帝都を出ることとなった。

 

 とぼとぼと歩きながら考えてしまう。

 アカデミーの俺らは誰一人紋の事を教わらなかった。

 国の為に頑張れと言いながらレブナント教官にしろ何も言わなかった。

 

 いや、あえて言わなかった?

 もしかしたら彼らは俺らを利用するだけ利用して使い捨てる気だったんじゃないだろうか。

 

 ……早くここを離れよう。

 他所の国から来た行商人に頼み込み、有り金全てを使ってとにかく東へと送ってもらった。

 しかし、途中でお金も尽き、近くの街で降ろされた。

 

 これだけ離れればと思ったが、ガレリアの影響下にあるのか、その街でも仕事は受けられず、俺は街から出された。


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