『ノーザンラント』
北の山の採掘場はヒューネルから一日で行ける距離にある。
貴重な鉱石……というのは現代でも非常に魅力的な資源の一つだ。
しかも北の山にはいくつか採掘場が存在しており、取れるものは銀と鉄鉱石がある。
ルグナ王国で使われている銀貨の一割がここの銀が使われているらしい。
最も本当ならばこの鉱山の開発具合によっては十割ここで使える位の可能性を秘めているそうなのだが……。
「大したものですね」
リア様が呟く。
現在北の山の採掘場を商人であるケルンが指揮を執って動かしている。
本来これは商人であるケルンが動かせるものではないのだが、どうやら彼はなんでもできるようだ。ついでに採掘に必要な人夫達の手配もしてしまったくらいだ。
連れてきた兵士は、警備として周囲を警戒しており、問題が無いかを視察している。
ちなみに今のところ問題は全くない。
「はい、ケルンさんは凄いと思います」
「いえ、私が言っているのはケルンだけではないのですが……」
「…………?」
ケルンが精力的に働いている中、俺は何をやっているのかというと。
「こんなもんで良いですかね?」
「は、はい。ありがとうございます」
俺は土木作業をしていた。
魔力で石を用い、施設を作っていたのだ。
要塞……ではないが、人が住むに便利な住居と採掘場自体を囲う石壁、兵士の見張り台。リア様が使えるような本部建物など。
「うーい、扉持ってきたぞー」
そして扉など細かな所は石で作ると重くて不便な為、木を削ったりした扉を作ってもらった。主に やっているのはデフ率いる工作部隊だ。
デフは戦いも出来ないし政務も出来ない、こいつ何が出来るんだろう……とちょっと思っていたのだがどうやらこういう作業が得意らしい。
というかデフはヒューネルに待機って話だったらしいのだが向こうにいてもやる事が無いらしくこっちに着いてきた。
「ありがとうございます、大きな物は作り終わったので設置していってください」
「了解、にしても魔法って便利だな。こんなの出来るもんなのか」
「魔力は使いようですからね」
自分で言うのもなんだが結構な出来だと思う。
これ時間さえかければヒューネルの街以上の街が出来るかもしれない。
昔日本にいた頃にやったゲーム、シムシ〇ィやマイ〇クラフトじゃないが、案外街や何かを作るというのは楽しいかもしれない。
俺に新しい趣味が出来たな……。
腕組みうんうんと一人で頷いているとふとリア様からの視線を感じた。
その瞳はどこか憂いを帯びていて綺麗だ。
それにしてもリア様は数年前に比べて更に綺麗になった。
前に見た時から金髪碧眼美少女だったが四年前より身長も伸びたし胸も大きくなった。縁談の話も来るよなそりゃ。
今のところは縁談は全て断っているそうだが、もし縁談となったら相手が羨ましい事だ。
まあ、きっと俺には関係ないが。
「ハヤトさん」
不敬な事を考えていたら声を掛けられた。
見透かされたかと思わずびくりとするがリア様の声音からは敵意は感じられない。
「はい、何でしょう?」
「これは……魔力なんですか?」
そういえばリア様は魔法が使えるらしい。
――とは言っても簡単な状態異常魔法と小さな火の玉を何個か放つ位だそうだが。
ついでに剣も少々使えるらしくて何かと万能だなと思う。
「そうですよ、魔力で石を作って石の形状を変えて硬度を上げて設置していくんです」
「えっと……魔法って詠唱してそれを出すだけで形を変えられるものなんですか?」
「勿論です」
俺はあの日、ミスミさんにされた説明をリア様にした。
魔法の概念に似た奴だ。
説明を受けたリア様はうんうんと頷き納得したようだ。
凄いね、初日に説明を受けた俺はさっぱりわからなかったってのに。
早速リア様は詠唱して火の玉を出したのだが、そこから小さくなったと思ったらそのまま火の玉は消滅してしまった。
「……これは私には難しいかもしれませんね」
「そうですか? 出来ていたじゃないですか」
「いえ、多分ですがこれは形状を変えて硬度……内部構造を変える事、それぞれ非常に多くの魔力を消費しますので、私の実力もそうですが普通の魔法使いで出来る人はなかなかいないような……」
言葉途中でリア様は再び憂いを帯びた瞳で俺が作った石の創造物を見た。
そんな時だ、デフが一人走ってきた。
「リア様、至急本部まで来てください、客人です」
「…………?」
「私は商人のハーゲン・バーグと申します、今日はお願いがあってこちらに来ました」
石で出来た応接室で一人の中年商人が恭しく礼をした。
「お願いですか?」
「はい、ここに街を作りたいのですが……」
「街ですか」
「はい、失礼ながら見させていただきましたところ採掘場だけで五か所、しかも土地は広く近くに川もあり、作業している人だけでも千人規模と見受けられます。ですが食料などはどうしているのでしょうか?」
「ヒューネルから輸送しています」
「やはりそうでしたか、食料も人件費もかさんでいるのでは?」
「そう……ですね」
思案顔のリア様を見てハーゲンはにこりと笑みを浮かべる。
「ではそれらを私の商会が代わりに行いましょう。街作りも手伝います。その代わり」
「この街の利益に噛ませて欲しいと?」
リア様の言葉に商人は首を振る。
「ローファス家傘下の商会として協力させていただけたらと思っています」
「かの有名なハーゲン商会が? どうして私に力を?」
「ふふ……分かるでしょう?」
有名なのか。
見ていると隣で立っていたデフが俺に説明してくれた。
「ハーゲン商会ってのは、東のいくつかの都市にそれぞれ店を構えているでかい商会だよ。大体商人てのは国とかと繋がってたりするんだけど、この商会はいくつか声がかかってもどこにも属さない中立だったんだ。ちなみに過去レイル様も断られてる」
へえ、そうなのか。ならどうして今回ここに来たんだろう。
リア様の問いかけにハーゲンは表情を緩ませる。
「それは……」
途端、扉が開くと立っているのはケルンだ。
何か問題でもあったのかと思えばケルンはハーゲンの傍に来ると深々と礼をした。
「お久しぶりです師匠!」
どうやらこのハーゲンという男はケルンの師匠なんだそうだ。
ケルンはハーゲンにとって優秀過ぎる弟子であり、その才覚溢れる弟子が仕えたと聞いて試しに見に来たんだそうだ。
そして今後の発展を確信し、他が手を出す前にここに力を貸すことを決め、理由に納得したリア様はそれを受諾した。
そして半年が経過し、狼藉に現れた一部見覚えのある盗賊達を俺が倒し、リア様がそいつらを人夫として組み込んだ頃。
「さあさあ、安いよ!」
「お兄さん今日はここで飲んでいかない?」
ハーゲン商会とその傘下の商会、更に行商人が居ついたりして、街はすっかり賑わいを見せていた。
人はどんどん増え、街部分はどんどん広がっていき、広さだけならもうすぐヒューネルを超えそうな勢いだ。
そんな中、ハーゲンがやってきて進言する。
「そろそろ街に名前を付けましょう」
『ノーザンラント』
名前が付き、ローファス伯爵領に一つ街が増えたのだ。




