北の山開発
「はい、街と街の道を整備してはどうかと思います。商人は効率を重視しますから安定した日付が約束される道があるなら基本的にそちらを使うかと。それと宿が少なすぎます、街はもちろんですが道の整備と共にすれば旅人も来ます……」
「ではそれを進めていくとして先ほど言っていたこの……」
「あー……そうですね。知人の子爵がやっていた事ですが……」
執務室に響くのはケルンとリア様の声だ。
最初は遠慮していたし品定めしていたのだろう。
興味なさそうにリア様の話にはいはい頷いていたケルンだったが、ある時から徐々に口を挟みだし、今ではケルンの舌は止まることなく次々にリア様へと良案を献策していく。
リア様が懸念を言えばケルンが色んな知見から意見を言っていった。
デフも言っていたがこのケルンという商人は本当に優秀なのかもしれない。
でもそんな優秀な人が何で俺の下で……なんて言うんだろう。
経済に関してはよく分からないから後ろでぼんやり聞いている。
窓の外はもう真っ暗だな……なんて考えていると扉が開いた。
「失礼します」
リヒトさんが羊皮紙を片手に入ってくる。
「リア様、まとまりましたのでこちらにお目通しを」
「分かりました。それとハヤトさん」
「はい」
「そろそろ仕事も終わります。リヒトも来ましたので交代してください」
「畏まりました、では失礼します」
☆☆☆
羊皮紙には北の山開発の件が書かれていた。
「問題……ですか」
「はい、やはり危険があると……あの辺りは盗賊が出没しますし、それ以上に危険な他種族の情報も……」
北の山開発。
ローファス家は伯爵という位の割に広い領土を持っている。
住んでいる人自体は少ないが使えそうな資源は沢山ある。しかし、それをうまく活用できないでいるのには理由がある。
他種族問題だ。
過去魔王の城があった西と違い東は歴史的に争いは少なく、それでいて西から逃げてきた種族も多いため、山や森に隠れ住んでいる人以外の種族は多い。
かくいう北の山もそれに含まれるのだが。ローファス家は内政の力はあっても外部との戦いにおいてはあまり有名ではない。
よって他種族を刺激しないような立ち回りを強要されていた。
「北の山は非常に質が良い鉱石が採れますね」
「危険があります。いかがしますか?」
「警備の兵を多めに取りましょう。何かあれば迅速にこちらへ連絡を。人事については明日にでも」
「分かりました」
「それにしても盗賊は何人いるでしょうね」
「百人位だったと思いますよ」
リヒトとの会話にケルンが割って入ってきた。
「ご存じなのですか?」
「はい、私は街道ではなく北の山に近い森を通ってきましたので、いやー……参りましたよ。雇った腕利きの傭兵が全滅しちゃいまして。数の暴力って怖いですよね」
「それでどうしたんですか?」
「ハヤトさんですよ、彼がふらっと現れたと思ったら瞬く間に倒しちゃって、凄いですよね。傭兵の中にはA級の魔法使いもいたっていうのにハヤトさんに比べたら全然大したことなかったですよ。私感銘を受けてしまって。途中宿で降ろして欲しいって言ったので、もしかしたらこの辺にハヤトさん意中の主がいる? ならまたハヤトさんに出会えるかなぁ……と思ってたんですよ。そしたら会っちゃいまして、運命感じちゃいますよね!」
相槌のつもりで聞いたのだが思った以上にケルンはよく喋る。
しかもその言葉の節々に私に対しては感じられない敬意が感じられた。
「ハヤトさんをかっているのですね」
「勿論ですよ! あの年齢であの強さは異常です。それに彼と共にいればきっと上手くいくと思ってます。……リア様はそう思っていないのですか?」
「どうでしょう、期待はしています」
小さな笑みを浮かべるとケルンは嬉しそうに頷いた。
ケルンが去り、現在部屋でリヒトと共に北の山開発における人選を考えている。
しかし、任せられる者がいない。
「ケルンを担当にしたいところですが彼は優秀過ぎてもしも……があるのが怖いです」
「ふむ……北の山に派遣した時に盗賊や他種族の襲撃で失うには惜しいですな。兵士を送ると言っても盗賊はともかく他種族相手となれば私でも難しいですし、だからと言って経済が停滞している今、打開策の一つである北の山開発を諦めるわけには」
少し考えこれしかないと思う。
「分かりました。では私が行きましょう」
「お嬢様自らですか?」
「はい、リヒトはここを頼みます」
「しかしお嬢様とケルン殿では流石に」
「最強の魔法使いがいるでしょう?」
「……ハヤトですか」
「先日ケルン登用の件で彼の有能さと忠誠心の片鱗を見せてもらいました。しかし、彼の本領である強さに関してはまだ見ていません、好都合です」
「分かりました」
私は見てみたいのです、皆が言う彼の最強と呼ばれる実力を……。
☆☆☆
「北の山ですか」
朝、執務室に入るや否やリア様に言われた。
「はい、私とこちらにいるケルン。そして護衛としてハヤトさんとです。勿論兵士も連れて行きますが準備を始めています」
北の山か、帰りに通ったくらいであんまり行った事ないな。
「盗賊と他種族がいると聞いていますがハヤトさんがいるなら大丈夫ですよね? このケルン、ハヤトさんと一緒に仕事が出来ると聞いて胸が躍る思いです」
ケルンがキラキラした目で俺を見てくる。
そんな目で見られてもどうせ俺はリア様の護衛だから一緒に仕事することは無いんじゃないかな。
「護衛お願いします、頼りにしていますね」
「は、はい。命に代えても」




