後始末
「無理やり集められた兵士達はほとんどが元々配置されてた場所に戻され、あの二人はそれぞれ牢屋行きだそうだ、近々処刑されるってよ」
「そうですか」
デフが拾ってきた情報を俺に教えてくれた。
「なんだよ、元気ねえな。せっかくいい宿を用意してもらったってのに」
デフが言いながら窓の枠に手をかける。
あれから一週間が経過した。
現在俺は街でも一番立派な宿の一室を与えられている。
内門の中に城があるが、その中に俺の部屋は存在していない為だ。
まあ、そもそも配下じゃないんだから当たり前なのだが。
一応客人の扱いを受けている。
「まだリア様に声かかってないの拗ねてんのか、おめえもガキな所あるじゃねえか」
「うるさいですよ」
事実である。
あの時リア様は俺を一瞥した後、リヒトにいくつか指示してからそのままディーナス・ロウとエムロ・ディスカープを捕らえさせ内門に入っていってしまった。
俺はデフを睨むが、怯んだ様子もなくけらけらと軽薄そうに笑っている。
「そもそも何で毎日の様に俺の部屋に来てるんですか、ノックしたかと思えば返事も待たないで扉開けて入ってきて。仕事があるんじゃないですか」
「大した仕事はねえよ、上役のリヒト様も今はリア様と色んな場所を見に行ってて忙しいし。良いじゃねえか、一緒に前線で戦った俺とお前の仲だろう?」
「デフさんは何もしてなかったじゃないですか」
「そりゃ俺は元々後方仕事の方が本職だからな、おめえみたいに強くないからそれでいいんだよ。それより、敬語はともかく呼ぶときはデフで良いって。俺とお前の仲だろ?」
にやにや笑う姿は出会った時に舌打ちをしていた姿とは全く違う。
話していると馴れ馴れしすぎて時折イラっとするが、まあ能力を認められたって事だし根は良い奴そうだしと納得した。
「にしてもこの部屋は良いよな、大通りが見える一等地の最上階。こんな部屋に住みてえもんだ」
言ってデフは振り返った。
窓に寄りかかりながら真剣な顔をする。
「そうそう。王都からの使者が着いた、昨日な」
「ああ、噂の」
「結局リア様が伯爵領を継ぐことに決定した、王都の手紙にはリア様が跡を継ぐならば構わないって書かれてたらしいからな」
「そうですか」
「だがこれから大変だぜ」
「というと?」
デフは肩を竦めながら苦笑いを浮かべる。
「人がいねえからな。父君のレイル様もナフタ様も内政が非常に得意な方だったしディーナス・ロウもなんだかんだ言って内政……特に経済方面では要だった。そしてエムロ・ディスカープは軍をまとめていたからな。柱石とも言える四人がいなくなったんだ。隠居してた元内政担当のシグ爺を引っ張ってきたがもう歳だからな、経済に明るい奴が欲しいってリヒト様が嘆いていた」
言いながらデフは首を振りこっちに来いと合図する。
窓に近づくとそのままデフは窓の外を指さす。
「大通りとか見てみろよ、一応活気は出てきたけど昔と違うだろ?」
言われてみると確かにそうだ。
四年前はもっと人が沢山いたし、パレードの時なんて人で溢れかえってた位だ。
「レイル様が死んだときでさえ人が大分減ったのに更に今回の件だ。どうすんだろうな」
ぼんやりと見ていると部屋をノックする音が聞こえた。
扉を開けると兵士が立っている。
「ハヤト様でいらっしゃいますね」
「そうですが」
「至急城へ、リア様がお呼びです」
内門の中に入るとそこはやはり城だった。
広い中庭に石造りの建物。入り口から中に入ると石で出来た床にそこらに鎧の甲冑姿の置物が置かれていて、兵士や召使いっぽい人達がうろうろと歩く。
まず間違いなく俺一人で来たならば迷っていた事だろう。
「おいおいどうしたきょろきょろして、田舎者か? けひひ……」
隣でデフが軽口を叩いてくる。呼びに来た兵士から案内役を代わってもらっていた。
「ここに入った事無かったですからね、新鮮なんです」
「ふーん。っと応接間はここだな。俺がハヤトを連れてきたって伝えてくれ」
「分かりました」
扉の前にいた兵士に言うと兵士は中に入ってからすぐに出て来る。
「入って良いそうです」
「じゃあ行くか」
俺はデフに促されるまま中に入った。
広い応接間だ。
壁際には棚と火のついていない蝋燭の刺さった燭台、交差された剣が壁に配置されている。
上にはシャンデリアがあり、地面には赤い絨毯が敷かれていた。
そして真ん中には柔らかそうな椅子と机がある。
椅子の後ろにリヒト、そして椅子の前にリアが立っていた。
「突然お呼び立てして申し訳ありません、どうぞこちらへ」
リアに促され、デフに背中を押され前を歩く。
リアの前の椅子を促され、俺はどうもと言いながら座り、リアも続けて座る。
デフはその後ろに立とうとして。
「デフ」
リヒトに睨まれすぐにリヒトの後ろに立ち直した。
リアはくすりを笑ってから真剣な表情で俺を見る。
「リヒトに聞きました。今回の件、ハヤトさんが尽力してくれたと。感謝いたします」
「い、いえ。こちらこそ勝手に力になってすいません」
緊張して変な日本語になってしまってデフがにやにやしている。
リアは目を細めてから話を進める。
「ご存知とは思いますが、私は長い間軟禁状態でその間人脈を広げることも根回しをすることも出来ない状態での伯爵就任です。人も時間も足りません。ここにいるリヒトや隠居していたシグを連れてきましたがまだまだ人材を求めています。聞くところによるとハヤトさんは非常に優れた魔法使いというではありませんか」
「それは……どうですかね。比べるものが無いと優れているかは……」
そう言っておいて俺に今まで声かけてくれなかったじゃないか……という不満から少し濁したかったのだが。
言葉の途中でリアは俺の手を持ち、柔らかく微笑む。
「ハヤトさん、どうか私に力を貸してもらえませんか?」
真っすぐ目を見てくる。
ずるい、そんなの断れるわけがないじゃないか。
俺は考えることなく、
「喜んで、リア様の為ならば死地にも向かいます」
気づけば即答していた。
こうして俺はリア様付きの護衛魔法使いとなった。




