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テオドールの顛末②

 どうすれば悠希に会うことができるか。それからは、心の片隅にいつもそのことを考えながら時が過ぎていった。アインヴェルトの記憶を手に入れたからか、あれからあの世界の夢はほとんど見なくなり、人格としても今の俺の方が強く、当時は未成年で出来る行動も限られていた。

 『ヨゾラにユメを、キミにヒカリを』のゲームは、一応買ってプレイしてはみた。人物や世界以外違っている、とルカは説明していたが、確かにそれぞれの設定や最後に闇の神を倒すという大筋意外は『俺』の記憶にあるものと全く違っているといってもいいものだった。少なくともあの世界はゲームなどではなく、ただ似ているだけなのかもしれないと思うことができたので、それは良かった。……『父上』も、このゲームの中では助からないはずだったのだ。もう自分には思い返すだけの出来事だが、あの時悠希がいてくれたことに改めて感謝した。 

 そのうちに大学も卒業し、働き始めた。知らない場所へ出掛ける度、何処かで悠希とすれ違ったりしないかと目的もなくうろついたりした。フルネームがわかるのだからそれなりの方法で探し出すこともできただろうが、それは抵抗がありできなかった。もしかしたら、向こうで悠希と出会った歳になるまでは会えないのかもしれない。もし偶然にでも出会えないのなら、それはそういう運命なんだと、臆病な俺はそう思っていた。あの世界で悠希と出会った年齢を迎え、きっと今年が最後のチャンスになるんだろうと本能的に感じていた。

 そして雪も降りそうに寒いある冬の日、ついに悠希に出会うことができた。



 今、名前を呼ばれたような気がした。足を止めると背中に軽い衝撃がくる。俺が急に立ち止まったせいで後ろを歩いていた人がぶつかってしまったようだ。

「ごめんなさい!」

「いや、こちらこそ申し訳……」

 振り返り、ぶつかったその人物に謝ろうとして……息を飲んだ。

「……悠希。」

 この国では珍しくない、黒髪黒目。あの世界で、そして夢の中で、いつもこの角度で見下ろしていた、懐かしい顔。悠希は眼鏡をかけていたんだな。

 つい名前を呼んでしまったが、悠希は思わずといった風に返事をしてくれた。怪訝そうな様子を隠さずこちらを見上げる瞳が段々に困惑の色になり、唯一あの世界の俺と同じ色のこの目を覗きこんで、驚きと期待の表情へ変わっていく。

「やっとみつけた。」

 万感の思いを込めてそう呟くと、悠希は泣きそうな顔になる。やはり、あの冒険が終わってからでないと会えなかったようだ。

「テオ………なの………?」

「ああ。……その記憶を持っている。」

 あの世界とは髪の色も、顔も違う。こんな俺を、悠希はどう感じているだろう。

「あのときテオは、助からなかったということ……?」

「俺はあのあと、光の神にお前の世界に行く方法を聞いたんだ。今の俺は、この世界の人間として生まれた。あの世界の記憶を手に入れたのは十年ぐらい前だ」

「そうなんだ……」

 確かにあの世界の『俺』も俺自身ではあるが、あからさまにほっとした様子の悠希があちらの『俺』を心配をしているのが、なんだか面白くなかった。

「えっ、あ、つまり、テオは……あれ、テオ?でいいの?」

「都合のいいことに、今のファーストネームもテオドールだ」

 そっか、と安心したように呟いた声音は嬉しそうだ。懐かしいその声に名前を呼ばれただけで、一気に心音が早まった気がする。

「えっと……テオは……私に会うために……来てくれたの?」

「ああ。……なんで疑問系なんだ」

「だって…………私なんかを選んで、良かったの?」

 アインヴェルトでも思っていたけれど、悠希は自己評価が低い。あの世界であんなにたくさんの人を救ったのに、それでも自分の存在意義をずっと探していたように思う。絞り出すようにそう言ってうつむく悠希に、俺は言葉を尽くすしかできない。

「お前がいいんだ、悠希。だから来た。それに、俺は向こうの世界を捨てたんじゃなくて、後を任せてきたんだ。バルトもいるし……レオンハルトたちもいるからな」

 今はただ懐かしい、しっかりものの『俺』の弟。それに甘えて、本当に全てを放り出して、あいつに押し付けてきてしまったな。

「光の神は、二人が同じく望んだ時に扉は開くと、言っていた。だけど……」

 悠希には、聞かなくてはいけないことがある。口に出すのが躊躇われたが、これは聞かないわけにはいかないことだ。

「今の俺はもう、お前の望んだあの『テオドール』じゃない。

 ……それでもよければ、側にいてもいいか?」

 記憶を手に入れてからずっと、このどうにも出来ない事実が怖かった。幼いころからずっと、夢の中の悠希を見てきた。見てきただけだ。記憶があっても、実際に今の俺が体験してきたとは、言い難い。もしかしたら、俺の声は震えているかもしれない。同じ世界に生まれていれば、という望みは叶ったのだから、その後の選択は俺一人では決められない。

 困ったように少し下がった眉に、一体どんな言葉が出てくるのかと思ったら。

「テオ……えっと……その……は、ハグしてもいいですか!」

 勢いよくそう口にした顔は一目でわかるほど赤くなっている。

 ──ああ、そうか。これは、最後の戦いに赴く前のあのときの再現のようだ。あのときは俺が、抱き締めていいかと聞いた。

 広げた俺の腕の中に悠希が飛び込んで、背中にしがみつくようにして力を込めてくれる。待ち望んでいた温もりに、悠希も俺のことを思ってくれていた。それを感じることができて、嬉しくて。ぎこちなくその柔らかい髪を撫でると、悠希は噛み締めるように深呼吸をした。

「テオ。」

「……ああ。」

「ねぇ、テオ、今のテオのことも、いっぱい教えてね」

 ああ、お前はそうやって、俺の欲しい言葉をくれるんだな。

「……お前にずっと、名前を呼んでもらいたかった。ありがとう、悠希」

 ありがとう、今の俺を受け入れてくれて。


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