3.アイドルは養いたい。その1
申し訳ございません。
不具合により、1話文をこの回と次回の2話分に分割しました。
読みづらいかもしれませんが、ご了承ください。
「あの〜。中野さん?色々勘違いしてるんですけど…」
まさかの展開であった。
流石の龍成でもこの自体は予測できるはずがない。
中野アリサの斜め上の発言に龍成は口をポカーンと開くことしかできないでいる。
「勘違いですか?
なんの話ですか?
龍成様ができちゃった婚の方がいいと言ったではありませんか。」
「言ってねぇ!断じて言ってねぇ!
どんな耳してんだよ!あんた!
俺は何でお前と婚姻関係を結ばなきゃならねぇんだって言ったんだ!」
「え!もしかして龍成様は私のことが好きではないのですか!私がこれほどあなたを愛してるのに!?」
まるで龍成が中野アリサの事を好きであるという前提が当然であるかの様な言い草だ。
確かに彼女は美しいし、多くの男が彼女に一目惚れしているという事実もある。
だが、だからと言って龍成が彼女のことを好きになるということはない。
「…まじか……そこからかよ。」
龍成は中野アリサの発言に驚きを隠せなかった。
お金持ちで若干常識が欠落しているということは風の噂で聞いたことがある。
だが、これほどまでとは思っていなかった。
自分が誰かを好きになったからといって、その人が自分のことを好きになる保証はない。
恋愛初心者でもわかることだ。
「いいか?中野。
確かにお前は可愛いけどな。
だからと言ってお前のことを好きになるはずがないだろ?
話したのも今日が初めてだしな。」
そう、龍成は中野アリサと話したことがなかった。
たまに彼女の姿を見るくらいで、別に彼女には微塵も興味がなかったのだ。
それに彼女は陽キャである。
龍成の一番苦手なタイプだ。
「私のことが……可愛いだなんて……龍成様って意外と…だ・い・た・ん…なんですね。」
頬を赤らめてクネクネとさせる中野アリサ。
日頃、光の女神と称えられて、凛々しい彼女の姿はそこにはない。
龍成には心を許しているということだろうか。
「お前……大丈夫か?……頭が良くなる秘孔、ついてやろうか?」
「だ、大丈夫です。秘孔はつかないでください……」
中野アリサはクネクネとさせていた体を瞬時にピンと正して龍成に向き直る。
"プルン"
彼女が動くたびに揺れる豊かな胸は陰キャの龍成には少々刺激が強い。
龍成は中野アリサの胸から視線を外す。
「それで?…ちょっといくつか聞きたいことがあるんだけど?」
すると中野アリサが赤面したままで小悪魔の様な笑みを浮かべ、
「へへ〜。龍成様。私のお胸を見て照れてる。」
と言いながら龍成の顔を覗き込んできた。
谷間が見える。
谷底が見えないほどの大きな……それでいて艶のある……魅惑的な谷底が!
(!?…な、なんだからこの女!
全然女神じゃねぇじゃねぇか!悪魔だ!
陰キャを殺す大悪魔だ!!
……まずいこの……谷間から目を離さなければ!……食われてしまう!!)
だが、釘付けになった視線は彼女の胸から離れない。
「龍成様って…意外と……綺麗なお肌してるんですね❤︎」
龍成の体に自らの身体を擦り付けながら、中野アリサは龍成の顔を顔を覗き込む。
その距離、数センチ。
ほぼゼロ距離だ。
(こいつ!……ビ○チか!…なんて野郎だ!
……だが、何故だ!…抵抗ができん!
こいつ、俺に一体何をしやがった!
全く体が動かん…ぞ。)
もちろん彼女は何もしていない。
ただ、龍成にまとわりついているだけだ。
運動神経抜群の中野アリサと言えども、彼女は女子である。
龍成が少し力を入れて抵抗すれば、簡単に彼女の呪縛は解けるだろう。
「私……龍成様だったら。何されても……」
中野アリサはそう言いながら龍成の目が隠れるほどの長い前髪をかき分け、潤いのある唇を少しずつ、少しずつ龍成に近づけて行く。
その瞬間。
「…………え?」
彼女の動きが止まった。
(今だ!!)
一方、龍成は彼女の動きが停止したタイミングを見計らって、両手の人差し指で自分のコメカミを強く押さえた。
それと同時に"ピキーン!"と龍成の身体に電気が走ったような感覚が全身をめぐる。
そして閃光の如く中野アリサから距離をとった。
(5分間、賢者タイムになる秘孔を押した。
反動は大きいが、もうあいつの色仕掛けはきかんぞ!!)
心の中でキリッとドヤ顔をする龍成であったが、何故だろうか。
全然かっこよくない。
「中野!俺はお前と婚姻関係を結ぶことはしないぜ!」
「………」
中野アリサは龍成の言葉が聞こえていないのだろう。
何故か、目を大きく開いて驚いている。
その姿に龍成は疑問符を浮かべつつも
「?……だが、一つ聞きたいことがある。」
と切り出して見た。
「…………あ。……え?……何ですか?」
ボーと惚けていた中野アリサが我に帰り、あたふたとする。
「……単刀直入に聞くが、どうして俺のことが……その……す、好きになったんだ?」
「……………。」
中野アリサは龍成の言葉に何も返さなかった。
代わりに、
「もう時間が遅いので、帰りますね。
お迎えに来ているメイドが心配してしまうので………
龍成様もお気をつけてご帰宅ください。」
と言った。
「…………え?」
中野アリサは何事もなかったかのように、龍成に背を向けて、屋上を去って行く。
「……あいつ。……急にどうしたんだ?
頭、おかしいんじゃねーの?」
夕焼けが照らす校舎の屋上で、一人になった龍成のはそう独り言つのであった。