表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
陰キャの主人公を養うアイドルがメインヒロインなんですか?  作者: ホイップは硬めの方がうまい。
1/8

1.陰キャ

どうも始めまして。

選んでいただき光栄です。

誤字・脱字があれば、教えていただけると嬉しいです。

コメント、待ってまーす。





(恋する乙女のワンダーランド〜〜♪)


そんな歌詞の曲が六畳一間の部屋に設置されたテレビから流れてきた。


そして、それを聴きながら、おかずのない白米を頬張る少年がいる。


黒髪は目が隠れるほどまで伸ばされており、垣間見える瞳はまるで死んだ魚のようだ。




「この人って……確かこの前、賢治と一緒にライブに行ったアイドルだよな。……

Mステにも出てんのか。すげー人気だな。」


その少年は箸を止めることなく、そう独り言を漏らした。


ちなみに、Mステとはミュージックステーションの略ではない。

マゾチックステーションの略なのだ。


マゾチックステーションは毎週月曜日の朝に週間人気歌手ランキングで1位を取った歌手が30分間、ひたすら歌い続けるというシンプルな歌番組だ。


その番組で今、フリフリの白ピンクの衣装に身を包んだ美少女アイドルがパフォーマンスをしている。

薄ピンクの綺麗な髪は彼女がジャンプをするたびに滑らかに揺れる。

大きな目で彼女がウインクをするたびに会場のオーディエンスがワッと騒ぎ立てている。



一目見ただけで、彼女がかなりの人気を誇っているのは明確だ。



キラキラと光る満面の笑みの彼女。


少年はその姿を、真っ暗な部屋から傍観していた。


「陽キャか………俺のような陰の世界で生きる陰キャとは関わり合いのない存在だな。」


少年はその一言を呟き、"ごちそうさまでした。"と箸を置いて、テレビの電源を消す。


パッと壁にかかっている時計を見ると、すでに時刻は7時40分を指していた。


「ちょっと早いけど、行くか。………

学校。」


憂鬱に肩をがっくしと下げて負のオーラを発する。


そう。陰キャにとっての学校とはまさに地獄。……いや、煉獄と言ってもいい。

授業を受け、女経験のないイカくさい友人たちとアニメの話で盛り上がり、陽キャに陰口を言われ、陽キャのヤンキーにパシられ、陽キャにカツアゲをされ、陽キャにいじめを受け、部活もせぬまま帰宅する。


「はぁ……」


少年は深いため息を吐き気怠げに椅子から立ち上がった。


その時。


"ピーンポーン"


少年の家のインターフォンが鳴り響き、

「山猫ヤマトの宅急便でーす。」

という男の声が聞こえてきた。


「?宅配?」


少年は疑問符を浮かべる。

ヤフオクやアマゾンで何かを購入していないし、親から何が送るとのことも聞いていない。

つまり、一人暮らしの彼の元に何かが届くはずが無いのだ。


それでも、少年は玄関に行き、鍵を外して戸をそっと開いた。


「あっ。結城龍成さんでよろしいでしょうか?」


茶色の帽子を被っている配達員の若い男の人は少年……もとい結城龍成に笑顔を向けてきた。

手にはかなり大きな段ボールの箱がある。


龍成はこういう陽キャが嫌いだ。

そのため、引きつった笑みを浮かべて

「はい。間違いありません。」

とだけ返事を返した。


「それではここにサインをしていただけますか?」


「はい。」



宅配サービスの一連の流れを終え、配達員の爽やかな男から段ボールの箱を受け取る。


(!?重っ!!一体、何が入ったんだ!)


20キロぐらいはあるだろう。


龍成はその重量箱を室内に持ち込みドスンと床に置く。


そして、"ふぅ"とため息をつき、送り手の名前を見てみる。


「星宮……春亜?誰だ?」


全くもって、龍成には馴染みのない名前だった。


親戚にも、友人にも、もちろん家族にも。

そのような名前の人はいない。


とにかく、龍成はその段ボールを開封してみることにした。

手元にあったカッターを掴み取り、梱包された段ボールに器用に切り込みを入れ、それを開き中を確認する。



そして、龍成は驚愕した。


「ま、ま、松坂牛にこ、これはトトトトリュフ!?しかも色が白い!!

こっちはアワビか!まだ生きてやがる!!」


そう。段ボールの中身はありとあらゆる高級食材に埋め尽くされていたのだ。


松坂牛に白トリュフ、生きたアワビ、キャビア、大きな松茸などが所狭しと並べられている。



龍成は興奮した様子でそれらを凝視した後、ポツリポツリと涙を流し始めた。


「……こ、これで俺は……やっとおかずが食べれるのか。……」


もうなんにためになるだろうか。

龍成が白米以外を最後に食べたのは……数週間前の昼休みの時。

友人の佐江内(さえない)賢治からお弁当の卵焼きをおすそ分けしてもらって以来だ。


炭水化物の毎日からようやく脱却できると考えると彼の涙腺は誰よりも緩く、涙もろくなった。


「さぁ。誰だか知らないけど、サンキュー。ぐへへへへへ。今日の晩飯が楽しみだぜ。」


ジュルリとヨダレを垂らし、頬を緩ませる龍成。


至福の瞬間とはまさにこの時のことを言うのだろう。


龍成は一つずつ丁寧に冷蔵庫にしまいこんで行くと、いつの間にかすっからかんだったその中身が一杯になっていた。


「壮観だねぇ〜。」


龍成はそこをじっくりと眺めていると、"ピーピー"と冷蔵庫が悲鳴を上げ始めたので急いでその戸を閉めた。


「夕食……何つくろっか。ぐへへ。」


龍成は浮き足立って舌を伸ばしている。

まぁ、久しぶりにおかずが食べられるのだ。

そうなるのも無理はないだろう。



「よし。気合い入れて学校行くぞ!」


その言葉に憂鬱感は一切感じられない。

先ほどとはやる気が違うようだ。


龍成が学生カバンを持ち上げ、勇ましく歩を進めようとしたその時。

ふと段ボールの方を見ると、まだ中には何かが入っているように見えた。


「ん?何だろう。」


それは保冷用の保冷剤や新聞紙の中に埋もれている。


龍成はそれらをかぎ分ける、撮り忘れていたものを手に取った。


「これは……CDか。」


龍成が先ほどまで見ていたMステに出演していたアイドルの最新のCDだった。







































教室に入ると、そこにはいくつかの集団がある。


1つ目は陽キャ男子グループ。

ワイワイとはしゃぐ煩わしい奴らで、自分より弱いものをいたぶることが好きなのだとか。

実際、このグループにいじめられている生徒は多いと聞く。


2つ目は人生を舐め腐っているエンジョイガール達のグループ。

まぁ、いわゆるギャルだ。

短いスカートが特徴的で、色々と危険な香りがする。

女経験のない陰キャにとっては目に毒の存在だ。


3つ目のグループはヲタクグループ。

いわゆる陰キャだ。

一日中、アニメやアイドルやゲームの話に明け暮れ、青春の生活をイカくさいまま過ごす連中。

さらに、そのグループには4天皇と呼ばれる真のヲタクが存在しているのだとかいないのだとか。

詳細は不明だが、現実の世界での戦闘能力は皆無だろう。


この3グループが龍成の教室に存在する派閥だ。


しかし、龍成はそのどれとも交わる事なく、無言で自席に着く。


窓際の最後尾。

そこが龍成の席である。



"よいしょ。"と小さな声を出して、学生カバンを机の横に掛け、そのまま眠りにつこうと腕枕をつくる。


そして、龍成は自分の腹部に何か違和感を感じた。


確認するとそこには一冊の本が机の中からはみ出しているのがわかった。

ピンク色の本だ。


よく見ると"ゼクシィ"と書かれている。


「!?」


龍成は声を出さずに仰天した。


(な、なぜ、ゼクシィ!?)


困惑を隠せない。


新手のいじめか?とも思ったが、普通に考えてそれはないだろう。

ゼクシィを机の中に入れていじめをするなんて、コストパフォーマンスが悪すぎる。

てか、全然傷つかない。


龍成はあれこれと考えを巡らせるが何も思い浮かばなかった。


「龍成氏。おはようでござる。」


龍成がゼクシィについて思考している最中、不意に何者かが彼に話しかけてきた。


「お、おお。賢治か。おはよう。」


どうやらその男が龍成の友人である佐江内(さえない)賢治なのだそうだ。

見た目は豚と相違ない。

違うところといえば、アニメの服を着て、丸メガネをかけているというぐらいなものだ。

ただ、金髪で蒼眼という見た目なだけに、デブでなければモテるかもしれないというポテンシャルは持ち合わせている。


「龍成氏〜。今朝のテレビ見たでござるか?」


「ん?何のテレビだ?」


「ハルりんのMステでござるよ〜。」


「あぁ。お前が推しているアイドルか。

この前、ライブにも行ったな。」


「そうでござる。かわいいでござるよ。

たまらんでござる。」


デブが恋する乙女のような目をして頬を赤く火照らしている。

まるで女の顔をしたユバーバ。

とにかくホラーでしかない。


「おい。その顔はやめろ。ヘドが出る。」


「辛辣でござるなぁ〜。龍成氏は。

恋する少年を応援するでござるよ。」


賢治はそのアイドルの写真に頬ずりをして体をクネクネさせる。


友人ではあるが、友人になってしまったことを龍成は後悔していた。

流石に気持ち悪すぎたのだ。





「おはよー。龍成君。賢治。」


その時。再び誰が龍成達に声をかけてきた。


「おお。天乃(あまの)。おはよー。」


「うむ。天乃氏。おはようでござる。」


見た目は小さな女の子で、クリッとした大きな黒色の目。

その目を保護するように細長く揃えられたまつ毛。

彼女………いや、彼の名は南 天乃 と言う。

見た目は完全に女の子だが、制服は男子用。

彼自身もまた性別的には男の娘なのである。


「うぉー。天乃は今日も可愛いなぁ。」


龍成は天乃を溺愛している。

理由は至極単純。


「守ってやりたくなるから!」だそうだ。


「龍成君。やめてよ。僕は大の男だよ〜!

(クズ)扱いしないでよ。」


プンプンと怒っている天乃。

女に対しては妙に口が悪いが、そんなの気にならないほど天乃は美少女であった。


(嗚呼、かわゆい。……好きだ!!)


龍成の鼻の下はびろーんと伸びている。


「ふふふ。龍成氏もまだまだでござるな。

天乃氏がかわゆいなどと……片腹痛いでござるよ。」


「何だと!!」


賢治の言葉に顔を赤くして怒る龍成。

これほどブチギレている彼はなかなか見ることがない。


「これを見るでござる!」


「何だ?」


賢治は龍成の眼前に本を差し出した。

天乃も龍成の背後からピョコっと顔を出して

それを確認する。


「お前の好きなアイドルじゃねーか。」


そこには、賢治が好きなアイドルが満面の笑みで写っている写真が、

"楽しみだね!

次のライブも

納得できるくらい一生懸命頑張るよ!

凛々しく、キュートに頑張るよ!

好きになってくれたみんなの

気持ちに応えてみせるよ!"

という言葉とともに掲載されていた。



「そうでござるよ。ハルりんの写真でござる!天乃なんかとは比べ物にならないほどビューティでござる!」


「ふざけるな!このハゲ!!天乃の方が100倍は可愛いぜ!」


「煩わしいでござる。天乃氏などハルりんと比べれば腐った食べ物に湧いているウジ虫と相違無いでござるよ!」


天乃は

(その例えだと、そのハルりんさんが腐った食べ物ってことになるんだけど……)

と心の中でツッコつミをしていた。


「何だと!取り消せよ!今の言葉!

俺の天乃をバカにすんじゃねぇ!

この時代はなぁ!天乃だぁ!!」


渾身の叫びだった。

二人の言い合いにクラス中の視線が龍成と賢治に集まる。


その間、当の天乃もあたふたとしていた。


"キーンコーンカーン"


二人の争いに終止符を打つように大きなチャイムの鐘が鳴り響く。


「チッ。ここまでか。…おい賢治。今日はここまでにしといてやる。」


「こっちのセリフでござるよ。龍成氏。

この借りはいつか返させてもらうでござるよ。」



賢治はその一言だけを言い残して、龍成に背を向け歩き出した。


それはさながらかっこよく見える別れのシーンだ。


天乃はその光景を見ながら

(何の借りなの〜。意味わかんないよ。二人とも〜。)

と心の中でぼやいていた。







































朝の会が始まった。

担任の美人な先生が教壇に立ってあれこれと何かを話している。


しかし、龍成の耳にはそれらが入っていなかった。


それも仕方のないことなのだ。

今現在、龍成は目の前にあるゼクシィのことを考えるのに必死だった。


(考え直しても分からねぇ。

何故、ゼクシィなんだ!)


週刊ポストでもなければ、週刊少年ジャンプでもなければ、たまごクラブでもない。


(何故、ゼクシィ何だ?

ゼクシィじゃなきゃならねぇ理由でもあるのか?)


考えれば考えるほどドツボにはまって行く。

まるで底なし沼に引きずり込まれているような感覚。


だが、それでも龍成は頭を抱えて唸りながら考えた。


考えに考えを重ねて、考え抜いた。



そして、活路が見えたのは5時間目の半ばごろのことである。


5時間目の授業は数学の授業で、伊藤(いふじ)誠というこの学校1の不人気先生が担当していた。


そんな授業の中で龍成は一つの考えに至った。


(そういえば……確かゼクシィには婚姻届が同封されていたはずだ。)


たまごクラブや週刊少年ジャンプのような他の雑誌ではなく、何故ゼクシィが入っていたのか。

その理由がとうとう分かりかけてきた。


(あまりしっかりチェックしてなかったが……婚姻届に何か秘密があるのか?)


龍成はゼクシィを開き婚姻届を取り出し、ざっと目を通す。


そして、彼は目を見開いた。


(!?!?!?!?!?!?)


彼の目には"中野アリサ"という名前とともに印鑑まで押された婚姻届が写っていたのだった。












不定期です。

ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ