第八十一話 笑顔のお茶会――終
ヴァスティの診察をするも、すっかり健康体で何よりだ。
ヴァスティは定期検診を面倒くさそうにしていたが、真剣な顔をして側にいる婚約者どののお願いには敵わないようだった。
「完全に普通の人間だ、ただ魔力が莫大だから定期的に魔力は解放したほうがいい」
「もう予言もできなくなったみたいなんだ……」
「それは何よりじゃん。お前嫌がってただろ」
「なんでばれてるんだよ、キャロしゃべったか!?」
「私じゃないわ! ……本当に、旅に出るの? また。リーチェ」
「ああ。この国での役目は終わったから」
「旅に出たら何をするの?」
「ひとまずは……イミテとシルビアが仲良くなるよう、努力するしかないかなあ……」
庭先から見える、姑と嫁のような小競り合いが。
窓から見下ろせば、お茶会の準備をしながら、二人はけんかをしていた。
「あら、イミテ様、そちらのお菓子より此方のお茶の方がリーチェは好みですわきっと」
「いやいやシルビアよ、このお菓子はな、絶品でな。是非とも我が主殿に食べさせてやりたいのだよ、まぁ分からないであろうなぁ長く側にいなかったお前には」
「……ふふふふふふふふふふふふ」
「……ほほほほほほほほほほほほ」
二人して冷戦を繰り広げているものだから、怖い怖い。
今から旅立つ前の最後のお茶会というわけだ。
ディスタードたちも手伝っていて、目が合うなり「どうにかしろ!」とジェスチャーをされた。
ディスタードは働きの功績が認められ、無事騎士見習いになれそうだった。
アッシュたちももうすぐ国へ帰り、王位を継ぐ話もでているようだ。
「皆いなくなっちゃうの寂しいなぁ」
「キャロラインにはヴァスティがいるだろ」
「そうだけど! 懐かしいね、悲しくて辛かった日もあったけど、振り返ると嫌いじゃないの学園にいた日々が。貴方にふられかけたときもね、リーチェ」
「おっとそういう話はヴァスティの前でするのはやめてくれよ、睨まれる」
「結局お前に関する予言は全部外れていったな」
「予言なんかで推し量れる俺だとお思いかい? 人の未来が見えてたって、一つの仕草だけでも未来なんていかようにも変わるんだよ」
皆で笑い合ったところで、お茶会の準備が出来たと呼ばれる。
俺は密かに頼んでおいた、暖かいミートパイを用意しながらお茶会に向かう。
皆からお茶会にミートパイとは、ときょとんとされたけれど、シルビアだけは泣いていた。
ずっとずっと食べたかった毒味係のいらない、暖かい手作り料理だったから――。
*
皆とお茶会を終えて、俺はシルビアと二人で木陰で昼寝をしていた。
シルビアの膝枕が心地よくて、すり寄る。
俺の髪を撫でながら、シルビアは俺を見つめている。
「本当にメビウスとは利害関係だったんだな」
「そうでしてよ、貴方のように浮気性でないの、あの人も私も」
「ならあの舞踏会は、俺がお前を追いかけるかどうか賭けていたってことか」
「好いてくれてるならどんな状況でも、信じてくれると思ったのよ。ねぇ、欲しい言葉は聞けないの?」
「欲しい言葉? ……分かってるって、鈍いふりはもう必要ないしな」
俺は起き上がり、シルビアを抱き寄せてキスをしてから顔を間近で見つめる。
「好きだ、誰よりも。結婚して欲しい。そうでないと、何処かへ君が消えそうで」
「……お兄様からも、陛下からも、相手が貴方ならばとお許しはね出てますのよ。リーチェ、私も貴方が好き、大好きよとても」
シルビアはキスをお返ししてくれて、微笑んでくれた。
一陣の風がざぁっと大きく吹き、木陰を揺らす。
もうここからは、俺の恋愛の話となるから――あとは話す必要もないでしょう。
俺とシルビアの紡ぐ、愛の物語となるから。
誰一人泣くこともなく、誰一人陰ることもなく、笑い合うこの姿は確かに妹や俺の姫様が見せたがっていた最高の光景だなと感じて俺も笑った。
「二人で最初の旅は、アルデバラン国までの道のりだな」
「馬車なんて手段じゃ許さなくてよ」
「三人であろう、三人で!」
イミテが後ろからどんっと背中を叩いたので、平和な日常の温度に安心した。
最後まで読んでくださって有難う御座いました!
これにてこの物語は終わりとなります。
本当はイミテが今度は攻略対象となる話や、メビウスとイミテの関係性なども
書いてみたかったのですが、長くなりそうでしたので、切りがいいこの辺で。
ちょうど賞応募日程日と近いですし、終わった方がいいのだろうと思いました。
次回作品はまだ決まってませんが、また恋愛ものが書けたらいいなと思っております。
ご愛読有難う御座いました、また縁があれば宜しくお願いします!
最後にポイント評価や感想などありますと、非常に心潤います。




