第七十九話 迷わない友に救いの手を
俺たちは兵士たちから逃げながら、メビウスと合流しヴァスティのいる部屋へと目指す。
途中の大広間にて、ディスタードがいた。
ディスタードはメビウスには睨んだが、シルビアと俺を見れば、目を眇めて構えそうになった剣の構えをとく。
「いきたまえ、振り返らずに。銀貨はいらないよ!」
「ディスタード、信じてくれるのか?」
「状況もよくは分からないがね、君は僕を救ってくれた恩人であり、あのときに僕は君の味方になりつづけると誓った! それがたとえ、騎士隊長になれない行いだとしても僕の中では破っちゃいけない誓いだ! 行きたまえ、進みたまえ、暗き道を進む勇者たちよ。きっと君に間違いはない! 心友よ!」
ディスタードの言葉に少し感動し、ディスタードは後ろから追いかけてくる兵士たちを足止めしてくれて、俺たちはまだまだ駆け抜ける。
息切れし、転びそうになれば、メビウスが腕をひっつかみ立たせて走らせてくるから止まれない。止まっちゃいけない。
次の間にいたのは、アレク先生だ。
アレク先生は俺たちを睨むものの、ディスタードと同じ優しい眼差しであった。
「それが君の答えですか」
「はい、先生、あのじつは!」
「語るよりも行動したほうが説得力はある、戻ってきたら王妃様の話を三日三晩付き合うくらいはして貰いますよ、それでこの場は収めてあげましょう」
アレク先生は鳳の魔道書をしまうと、笑いかけてくれた。
「シルビアさんと君が、二度目の失敗を恐れずに立ち上がる。教師としては嬉しい事実です、さぁお行きなさい。今度は失敗しないように、気をつけるんですよ。手伝ってくれる人々は多いはずです」
「ありがとう、先生!!」
先生もまだついてきていた兵士の足止めを手伝ってくれた。
泣きそうになりながら、俺はヴァステルデのいる間へ目指す。
シルビアも小さく笑っていた。
「私達に足りなかったのは、きっと仲間の信頼だったのね」
「そうだな、前回失敗したのは皆で頑張ろうってしなかったからだ」
ヴァステルデの間の前にはアッシュがいて、一瞬アッシュは目を鋭敏なものにさせるも、シルビアの顔を見つめ、綻んだ。
「すがすがしい顔をしている」
「お兄様のお陰です」
「――魔物使いの業を全て背負わせた罪くらい、償ってもいいか? 背負わせたのはそこの馬鹿だが」
「お兄様、あれは忘れてもやむを得ないのです、そういう忘却の呪いをかけられてましたわ」
「シルビア、そのなんだ……ここは可愛く妹らしく強請るものだ」
アッシュは剣をしまうと、戸惑う兵士たちに「退け」と声をかけ、怯ませてからシルビアへ笑いかけた。
貴重なアッシュの微笑みだ。
「通せ、と願えばいい、愚昧よ。お前は怯むことなく突き進んできた、それを今更覆す必要ないだろう。ならば他者の声など聞かずに行け、それこそが我がアルデバラン国の王女である、誇りを忘れるな魔王になっていても」
「――お兄様、有難う御座います、理解してくれないと決めつけていた詫びと感謝はいつかに致しますわ」
「リーチェ! シルビアを……任せたからな」
「あのダンス相手に呼んだときに、任せられた気配はしていたよ! 泣かせるなってな!」
扉をあけて、ヴァスティがいつも予言していた部屋へ入る。
部屋へ入ると、泣き伏せってヴァスティの亡骸にしがみつく、キャロラインがいた。




