第七話 イミテという龍
とりあえず、装飾がやたら金や宝石で出来た、質に入れたらさぞかし豊かな生活ができるだろう短剣を取り出し、俺の腕を少し切り、血を龍の飛び出てる舌にかける。
「気味悪いかもしれねぇけど我慢してな、俺の血は、どの薬よりも万能薬で、即効性が高いんだ」
『……黒き龍を、助けるのか、この災いの星を』
「ばっか、災いの星ってことは、何らかの拍子で神様になれるかもしれないだろ。良い神様に。そんときには、何か恩恵寄越してくれればそれでいいよ、そうだな、適度に楽に暮らしたい願いでも叶えてくれれば」
『……愚か者の愚行に、感謝する日がくるとは。……痛み入る、気遣いも、優しさも、治癒も。何か、礼はできないだろうか』
「気にしないで住処に帰るといい、体調よくなったら。ああ、だけど、血のことは内緒にしてほしい。結構、国でも血欲しさに求められること多いらしいし」
確かそうだよな、リーチェってキャラのシナリオは。
多くの人々がリーチェの血を、人魚の肉のように求め始めるから、リーチェが人間不信だっていうシナリオだったはずだ。
黒い龍は、一回だけ瞬きをすると、目を細め低く唸った。
『かように弱き者を誰が守るのか』
「守らなくていいんじゃないか、野郎だし」
『それは良くない。守らなくていい存在というのは、神くらいのものだ――宜しい、ならば私がお前様の神となる。お前様のためなら、この身の概念を変えてまで、白い姿になるのも構わぬ、無意識とはいえこれは契約の儀だしな』
「馬鹿いいなさんな、生まれ持った身体は大事にしなよ」
『お前様は舐めておるな? 一度命を助けて貰った身、お前様の命が尽きる短い間くらいはお前様に時間を費やすのも悪くない。有難く思え』
龍と目が遭えば、真っ赤な閃光が放たれた――眩しさの余り暫く目を瞑っていたが、徐々に薄く目を開く。
――目の前には、黒髪ロングの美人なお嬢様が。
「お前様の命尽きる時まで、共にいましょうぞ――我が名は、イミテ。お前様の身を、守ろう」
「うっわ、滅茶苦茶……胸でっけぇ!」
「好みかえ?」
「そこで堂々と見せるんじゃなく、恥じらいがあればな」
イミテは俺が指摘した胸を嬉しげに張ってから、恥じらいがないことを嘆くとしょんぼりとした。
じ、と俺の首元の鈴を見つめるイミテ。
「誰に飼われている?」
「え?」
「妙な魔力の鈴だ、この世の者とは思えない程清楚だ」
「ぶっははは、あいつが清楚! く、詳しい話は、この花園の掃除やらなにやらしてから……」
「それには及ばぬ。これくらいの再生魔法、力があれば可能であるよ。それだけお前様の血は、最高級の薬のようである」
イミテは指をぱちんと鳴らし、一気に崩れていた塀や、花壇、花を再生させた。
「イミテって本当に災いなのか!? すげぇじゃん、すでに神様ばりだ!」
「うむうむ、もっと褒めると良き。さて、お前様の部屋はどこだ? そこでじっくり話そう。――いや、客人が先か」
辺りに王国兵がやってきて、俺とイミテを囲い始めたので、偉い人だと即座に判る腕章を見つければ声をかけ、事情を説明する。
事情を説明すると、自分の手に負えぬと、偉い人は、更に偉い――学園長のもとに連れて行ってくれた。
学園長は、でっぷりと腹が出ていて、真っ白いおひげのにこにこしたおっちゃんだった。