第七十七話 主人公(ヒロイン)を巻き込んで
シルビアやメビウスと、シリウス国の城に戻る。
このメンツだと敵に間違われそうだなぁ、メビウスなんかヴァスティを殺した本人でもあるし。
「ヴァスティ死んでもあんたはどうして生きてるのさ」
「神たるあいつの魂は死んでない、まだあの身体に揺蕩っている。揺蕩う時間があるうちは、俺様とて存在していられるのだよ」
ということは早く間に合わせなければ、メビウスも存在できなくなるということか。
駆けながらイミテを探し、庭へと向かえばイミテは一人で存在していた。
イミテは俺に気づくなり、心配した様子で駆け寄ってきて転びかけていたので、咄嗟に支えた。
「お前様!」
「イミテ、時間がないんだ、お願いを聞いてくれるか?!」
「申してみよ、焦っているな? 後ろにいる奴らについても、事情がありそうだな」
「実は……」
メビウスの正体や目的。これからどうしたいかを説明すれば、イミテは顔を顰める。
「貴様は、それで。王の囲う神を解き放てさせようというのか、我が主殿に」
メビウスはイミテから叱られようとなんのその、頷いて飄々としている。
「イミテ、頼む! お前、時間をオレの為に巻き戻してくれたんだろう? 聖龍だったお前が邪龍になってまで! 頼む、もう一度巻き戻してくれ、少しでいいんだ! 代償は何でも払う、それと……過去にお前を置いていって死んだときはすまなかった。お前のことも思い出せず……」
「お前様――思い出した、のか?」
オレが頷けばイミテは感動したように涙を見せ、わっと抱きついてきた。
抱きついて獣がすり寄るような所作で、甘えるイミテ。
「リーチェ、リーチェ!! 私を思い出してくれたのね、リーチェ! ……代償? 代償か、ではお前様の未来を願おう。お前様の未来が幸せである未来を! それが条件だ、時くらい巻き戻してやる、何度邪悪とされようと私はお前様の……龍なのだから」
「こほん!」
シルビアが咳払いし、オレとイミテを離すと、イミテに真正面から真剣な眼差しを向ける。
「なるほどね、仕組みが分かったわ。ゲーム通りにいくには……キャロライン姫が時間巻き戻しに巻き込まれて、ヴァスティとメビウスの関係性を知り、ヴァステルデ様の解放はキャロライン姫に頼むしかないのね。そう、それで私達が先にアイテムを手に入れるから、キャロライン姫視点だとアイテムが手に入らないのねゲームでは……」
「ぶつぶつ怖いぞ、シルビア」
「考え込んでいたのよ、ゲームの流れとの一致を! よく聞いて。ここにきっとお姫様が、キャロライン姫がやってくる。キャロライン姫もヴァスティを助けるために、これからする時間巻き戻しに巻き込まれるわ。そうしないと、キャロラインの行動も重なって必要な未来がやってこない。ヴァスティの未来は、私達の五生宝集め、キャロラインのヴァスティへの理解により国から解放されるヴァスティ、それが重ならないといけないの。だから、キャロライン姫が来てから、偶然時間移動に巻き込む形としてお願い。メビウスはキャロライン姫の誘導を任せたわ。ヴァスティへの理解は、貴方への理解ともイコールだから……ヴァスティの精神に触れさせてヴァスティの心をまず解放させてね」
「メビウスは単独行動でキャロラインの導きを。俺たちは五生宝をとりに、だな」
「キャロライン姫と出くわしたら駄目よ、一緒に時を巻き戻してるとばれてしまう。それはきっと、この世界の法則から乱れてしまうの。この世界はリーチェではなく、キャロライン姫が運命なのだから」
シルビアの言葉に、かっかかかと快活にイミテは笑い転げた。
「良き良き、運命とは全員が知るものではないものもある。我らにとって、運命はリーチェだ。私達の道しるべこそ、リーチェ、我が主どのだ。それは私らだけ知るのみで良き」
「我が妻を愚弄されては困るが、まぁそういうことにしておいてやってもいいだろう、これだけの功績を積み重ねたピュアエリクサーのことであれば。よかろう、受け入れよう。我が乙女が日向であれば、お前が日陰の勇者だと。頼もう、我らが運命よ、導き給え」
我が儘俺様の権化のような二人に、最高位の礼をされればそりゃあたじろぐよ!
まるで王様にするような礼を、人外の二人が、第三王子である俺にするなんて!
俺は慌てて、二人に顔をあげるよう頼む。
「大げさな振る舞いしないでくれよ?! オレは、ただヴァスティとキャロラインが幸せになってくれれば……!」
「ねぇ、リーチェ。確かに私も貴方も最初の目的は、ただそれだけだったわ。でもね、私は思うのよ。人のためにここまで尽くせる人はいないわ、きっとそれは……善意だけではできない。これは貴方の信念を称えてるのよ、二人とも」
「シルビア……――」
どこか嬉しげなシルビアの言葉に言い返そうとしたが、刹那、キャロラインの気配がした。
かさりと草木が揺れ、涙の気配。
闇属性の俺らには分かるんだ、思いっきり聖なる加護の名残が見える存在が近寄ってきてるって。
「ヴァスティ……――どうした、ら。私、もっと貴方を知りたかった。好き、好きだったの……愛していたのよ!!」
キャロラインは黄昏れながら、泣き腫らした顔を月夜にあげ、遠い星々を見つめる。
俺たちは陰に隠れ、メビウスに内緒話をする。
「これから時巡りするから、それっぽいこといってこい」
「それっぽいとはまた大雑把な。そういうところは宜しくないな」
「いいから、キャロライン口説いてヴァスティが自分に繋がるってヒント与えてこい! 自分で気づかせなきゃ意味がねぇからな?!」
「ふむ、いいだろう、我らが導きよ」
メビウスはあっさり納得すればキャロラインの前へ姿を現す。
俺たちは隠れてメビウスやキャロラインの様子を覗く、イミテにメビウスの言葉がそれっぽくなれば時戻しの術を使うように頼んでおく。
「やぁ我が乙女よ、泣いているのかね?」
「メビウス……ッ貴方のせいで、貴方のせいでヴァスティは!」
「死んだと思いたければ思うといい。お前の信ずる男はその程度であると、な。やれやれ、この俺様も悲しいものだ……お前の信じた“オレ”はそんなものだったのか、キャロ」
「ヴァスティ?!! ッメビウス……? 貴方、何者、なの」
「知りたければ、オレを捕まえてごらん。オレが何者かは貴方が一番知っている」
メビウスが俺たちに合図を送った、イミテの髪色がまばゆく金色に光ったと思えば、あたりは一面灰色になり時がまき戻っていく。
草木は揺れ、枯れていた花は咲き誇り、夜から昼へと戻っていく。
キャロラインとメビウスが去って行ったのを確認してから、俺とイミテとシルビアは動き出す。
「さて、行きますか!」
「うむ、頼りにしてるぞお前様!」
「ドジ踏まないでくださいましね」