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第七十五話 真復活剤<ピュアエリクサー>

 真っ黒い玉座に、赤いクッション。そこへシルビアは座ると、頭上にある大きなライオンが丸まったくらいの大きさの水晶が輝く。

 水晶の中では、先ほどの会場でけがをして戸惑う人々、倒れている人々。

 イミテでさえ、力になれない。メビウスにこんな大きな力があったとは。


 そんな折り、ヴァスティが叫んでいた。


『祈れ、キャロライン!』

『駄目よ、ヴァスティが……』

『でも、このままじゃ皆が……祈るしか、ないんだ!』


 俺は目を見開き、思わずシルビアに駆け寄り、シルビアの身体を揺さぶる。


「守るんじゃなかったのか、ヴァスティを殺すのか?」

「何も言えないの」

「やめろ、駄目だ、駄目だキャロライン! 祈るな、祈るな!!!」


 ――でもどうしようもないって皆が分かっていた、勝てずに、アンデッドから助かる方法は光魔法しかないことを。

『キャロライン様、お助けください!』

『聖女様、どうかお祈りを! 神よお助けください、モートルダム様!』

 泣き叫ぶ人々は、攻撃を受け阿鼻叫喚。ヴァスティが泣いて震えながら、キャロラインに笑いかけた。


『キャロ、オレはお前を愛していたよ……どうかお幸せ、に。大丈夫、オレがいなくなっても、貴方なら素晴らしい人が見つかる。貴方は、運命の人である前に、一人の女の子だ。素敵な恋を、してほしい。さぁほら、キャロ、お願いだ――キャロ? ……それしか、ねぇんだよ』

 キャロラインは悲痛に泣き叫びながら、最大級の光魔法を使った。


 その魔法は、水晶越しでもまばゆい強い光に囲われ目を思わず瞑ってしまう。


 目を開けば、水晶越しにアンデッドは消え失せ、メビウスもその場から姿を消し。ヴァスティは倒れていて、呼吸をしていない――。

『ヴァスティ!!いやよ、いやああああああああ!!!! 駄目、駄目よ、私も! 私も愛しているのに!!』

『我が乙女よ、ここからがお前の勝負だ! それではな武運を祈ろう!』

 メビウスの哄笑が場に響き渡る。

 俺はシルビアの身体を離し、水晶を食い入るように見つめた。


「そんな。そうだ……復活剤できたんだ、それをヴァスティにあげれば……!」

「いいや? 復活剤は最初から貴様だと言っているだろう、なぁ? 生きた真復活剤(ピュアエリクサー)よ、その血を貰おうか」


 後ろから鈍器で殴られた気配と、塒に戻ってきたメビウスの声がして俺は倒れた。





 懐かしいユメを見る。


 シルビアと知り合った頃。お互いが転生した者同士と分かったばかりの頃。

 リーチェはそんなこといわない、と指摘されたんだっけ。


『まぁ、あなた様も同じ世界の方ですのね?! エンディングは見ましたの? 私ね、ヴァステルデ様が報われるエンディングが一番好きなの。まだ見たことありませんのね、それなら一緒に目指しましょう?』


 そこから二人で協力していったんだっけか。

 ヴァスティの幸せに無意識に拘る理由が分かった、シルビアが好んでいたからだ。

 シルビアも悪役令嬢という立場をよくおもってなかったから、運命に逆らっていた。

 誰にも頼らず、二人きりで――その結果、アッシュやディスタードやアレク先生から信頼されず、失敗し、復活剤を飲ませて見るもそれは常人にしか効かない復活剤のためヴァスティには効かなかった。俺は薬を作るのに費やして、魔力も永久的に失った。

 ただ、血だけが万能薬のままであった。それをシリウス国家が見逃すわけもなく。


 俺は捕まり幽閉され、生かされたまま薬として使うために血だけぎりぎりの量を抜かれる毎日で、生きた心地のしない毎日で――シルビアが処刑されたと聞いて絶望し、自殺したんだった。


 これはきっと最初の記憶。

 一番最初に、愛しいあのこと出会ったユメを思い出しているのだろう。


 自殺し終わってからの映像も、流れてくる――これは知らないユメだ。


 捕らわれていたとき、唯一可愛がっていた龍がいた。そいつと話すのが楽しかった。龍が、自殺した際に近づき哀れんで――時を巻き戻してくれたんだ。

 その龍は時間を無理矢理巻き戻したってんで……――この世界では黒い龍は不吉となるルールが課せられた。それでも龍は時を巻き戻す。


『かようにか弱き者を誰が守るのか。悲しき運命を、私が変えよう。変える手伝いをしよう、だから乗り越えよ、我が主殿となりうる人の子よ――まだ見ぬ過去でお会いしよう、我が名は……イミテ』


 イミテ、か。


 全てはイミテの加護で、やり直せたのか。

 イミテは俺の亡骸にすり寄り、天に鳴き声を轟かせ雷鳴を響かせた。


(お前のように主人思いのけなげな生き物、見た覚えがないよ――)



 目から滴を落としながら意識を取り戻せば、何かを作ろうとメビウスとシルビアは格闘していた。メビウスは俺の隠し持っていた虹光薬を飲んだ後なのか、残りが少し入った瓶を持っていた。

 ティアラに何かを付け加えようとしている様子である――ああ、あれは、ピュアクリスタルだ。


「ん? 起きたか、ちょうどいい、貴様のピュアクリスタルを」

「ポケット」

 俺が掠れた声でつぶやけば、不思議な顔をしたメビウスがシルビアにポケットを探させる。

 ポケットからはアッシュが持っていたピュアクリスタルがあった。

 それはどうやら、前のルートで盗られたピュアクリスタルをアッシュが拾っていた様子で、持っていたもののようだ。


 驚き、大きく笑うメビウス。


「よかろう、貴様の恋路は邪魔しないでやろう、よかったな我が女王」

「恋路?」

「ピュアクリスタルは、恋心を主に占めるものなのだ。その恋が美しければ美しいほど、ピュアクリスタルの持ち主となる。我が女王のクリスタルは複製に成功し、本物は我が女王に返したから安心するといい。ここに、彼らのピュアクリスタルが全てそろった」


 前ルートで相当失敗していたから既に手に入ってるクリスタルもそこには並んでいた。ピュアクリスタルは俺の紫、ディスタードの水色、アレク先生の緑、アッシュの黒、シルビアの赤、ヴァステルデの白、と台座にティアラと一緒に揃っている。



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