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第七十二話 恋の駆け引き

 出会ってすぐなのに心惹かれるのも納得はいく。

 だけど、それを本人から明かされる以外に、知りたくなかったな。


 部屋のバルコニーで黄昏ていると、アッシュがダンスの様子を聞きにやってきた。


「馬鹿みたいに明るいお前が、馬鹿みたいに暗い顔だ」

「ヴァスティと喧嘩したからな」

「……なるほど、さるご令嬢について、注意でもされたか」

「アッシュ知っていたのか、あの子が誰なのか」

「……俺は難攻不落の女性を紹介しただけだ、コンタクトをとることができたから。ヴァステルデ様はなんとおっしゃっていた?」

「お前の恋は悲恋になると」

「それを覚悟できないで落ち込むくらいであれば、それは恋じゃないと今は思う。必ず叶う恋など見たことない、それを叶えるくらいの意欲がなければ、諦めたほうが君たちのためだとは思う。だがまあ、君には活力があったほうがいいと思ったから、あの難攻不落を紹介した。好きだろ、ああいう女」

「ものすっげ大好きです……」

「それと、一つ言うが、諦めることも悪いことではない。難攻不落だから、諦めることもあるだろう。そのときは、ディスタードにでもイミテにでも慰めてもらえ」

「お兄様公認?」


「落とせるものならな?」


 ふ、と妹をよほど落ちないと思っているのか、発破かけているのか分からなかったが、励ましてくれてるのは分かった。


 俺は礼を告げ、しばらくはシルビアが言い出すまでは、あなた、と呼び続けてみようと決心がついた。

 シルビアも、何か事情があるのかもしれない。


 窓辺にある白いカランコエに似た花に触れる、花の香りが、なぜか切なかった。




 ヴァスティに服を頼むわけにはいかなくなったので、毒泉国に手紙を送れば、二番目の兄貴が当日届けにくると書いてあった。

 二番目の兄は、とにかく話が半分くらい通じたらラッキーで、俺よりもそんなんで王子務まるの??と言われそうな人。名をレオナルドという。

 ただ、めちゃくちゃ頭の回転速度は速いが、ずば抜けて天才ってわけでもない。

 瞬間的理解力と空間把握能力にたけているんだと思う。

 弟の用事を言い訳に視察も兼ねそうだな、あの人なら。

 レオナルド兄さんからは、どこで聞いたのか「魔王か竜と懇意にしとけ」と書いてあった、お返事に。

 とりあえず、服の心配はしなくてよさそうだ。


 ぼんやりしながら、「俺のあなた」とダンスを練習する。

 ご機嫌そうな相手に、「どうしたんですか」と問いかけたら、「俺のあなた」は指先を踊らせるように文字を空に描く。


『ダンスがお上手になってきたから』

「そりゃ嬉しい、やっぱり俺天才だから」

『調子に乗らないことね』

 あいたっ、ダンスしながら蹴ってきた、いってぇよくっそ!!


「俺のあなたは、踊る相手が本当に俺でよかったのか?」

『変なこと聞くのね、駄目ならこの場にいないわ』

「だって、その、将来の相手になるかもしれないって聞いたからアッシュに」

『……リーチェ殿下、これは私の賭けよ。賭けに付き合って貰っているの』

「賭け?」

『私の好きな人が追いかけてくれるか、会場で見つけてくれるか』

 好きな人という単語にイラッとした、俺は利用でもされてるのだろうか。

 今日でなければ、ふーんそうかーへええええ?と少し嫌みな態度をとるくらいで流せただろうに、俺は気づけば「俺のあなた」の顎を捕らえていた。


「その人、余裕だね? 俺に奪われるとか考えないんだ?」

『それは』

 文字を書かせる暇もなく、その子に俺はキスをし、その子は驚いて固まっていた。

 イミテも目を見開き固まっていて、演奏が止まる。笛が落ちる音が、からんからんとした。


『何をなさるの、無礼者』

「……仮面で隠してるけど、顔赤そう。耳すげぇ赤いもん」


 唇を離して耳に触れて嗤ってやると馬鹿にされたと思ったのか、「俺のあなた」は平手打ちを俺にして去って行った。


「……これくらいの意地悪は、いいだろ。シルビア、もしお前なら」


 叩かれた頬を片手で押さえていると、イミテが慌てて駆け寄ってきた。



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