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第七十一話 仮面の赤い姫君

 部屋に戻れば、真っ黒い仮面をつけた真っ赤な髪色の女性がいた。

 ロングヘアーで、髪の毛はさらさら。

 瞳が仮面でわかりづらいのが難点だな、だが不思議と懐かしい空気もする。


「ええと、なんとお呼びすればよろしいですか、この度は無理な願いを聞き入れてくださりありがとうございます」

 女性は喋れないらしく、空に文字を描いてきらきらとした文字はそのまま俺の目に留まる。


『お好きに』


 かなり不愛想だな!

 それでも、ダンスがど下手な俺にあわせて、ダンス練習も引き受けてくれたからありがたいことだ。


「そうだな、……では、俺のあなたと、呼んでもいいですか」

 へっ、不愛想な分嫌味たっぷり込めて、口説き文句代わりに言えば、女性はあたふたとした。

 それでも、拒否はしなかったのが、少し不思議だった。


『それでは、音楽は誰が?』

「うちのイミテが吹いてくれるよ、笛で」

『……そう、では此方に近寄って。腰に手を当てて、半端に照れないでくださいね』


 イミテを見やると笛の準備はばっちりで、俺と『あなた』はゆっくりとダンス練習に励む。

 この子筆談だけど、すげぇスパルタで厳しい。めちゃくちゃ厳しい。

 けど、それが嫌ではない俺はどMなのかな?とか少しよぎるくらいには、清々しいほど鬼コーチだった。


 終わるころにはへとへとで、ぶっ倒れて眠っていた。

 またねのあいさつもできなかったが、それから女性は気が向いた時だけなのか、ダンス練習したい日になると合図で、メッセージカードを入れてくる。

 メッセージカードは全部、だめだしなのだが、なんだか笑えてくるから不思議だ。


「お前様、最近表情が柔らかいな。疲れも見えぬ、ダンスの疲れはともかくとして」

「心が潤っているからね」


 あの女性に恋をしそうだ、なんて言ったらイミテはどんな顔をするのだろう。






 いつものヴァステルデの診察をするために、俺は城へと向かった。

 城に向かう前に、一ついい出来事が起きた。

 やっと、やっと虹光薬ができたのだ。それに、復活剤も偶然であれば一個はできた。

 貴重な一個だ、ヴァスティにいい報告ができた、俺は褒められる気持ちで鼻高々だったというのに俺と目が合うヴァスティは複雑そうな表情をしていた。


「お前ってやつはよ……つくづく」

「なんだよ、ご不満顔。あ、聞いてくれよ、薬がな」

「今、お前は女性をアッシュ殿下に紹介され、ダンスパーティーに出るつもりだろ」

「いいじゃん、俺だって楽しみたい」

 こう見えて俺だって学生なんだし、今は。楽しむ権利くらいならあると思うんだけどなあ!


「悪いことは言わない、傷つくのはテメェだ、やめとけ」

「は?」

 咄嗟にあの女性を気に入っているからこそ、低い声が出た。

 これ、喧嘩になるパターンの空気だ、ヴァスティは主張をゆする気も曲げる気もなさげだし、俺も同じ。


「なんで」

「テメェは、騙されてる。それしか言えない」

「……今まで俺、見返り求めるつもりなかったんだ、まぁ最初の約束はおいとくとして。それでも、少しくらいコイバナ的なあまずっぱーい話にヴァスティちゃん付き合ってくれるかと思ってた」

「オレだってあいつじゃなければ、祝福くらいするさ! 願いを叶えてくれた恩あるお前だ!」

「ならどうして!!」


「お前の恋路自体、どうあがいても悲恋だからだよ!!」

「予言の書を見たのか……俺の、未来をもう、見なくていい。不愉快だ」



 俺とヴァスティは互いに互いを傷つける言葉を告げて、その日は診察をとっとと済ませて帰った。


 ……いいじゃねぇか、なんで悲恋だって勝手に覗いて教えてくるんだよ。

 心配なのはわかるが、そんなの嫌だ。


 その言葉だけで、俺は察したからだ、どうして悲恋なのか――。



 あの子は、きっと、シルビアだ。



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