第七十話 キャロラインとリーチェの友情
卒業ダンスパーティーの話で皆が色めきだっていく。
どんどん寒さは増していき、身を震わせながらも寒空に女性を待たせてはいけない、と、俺はキャロラインとの待ち合わせの場所へ向かう。
イミテが昔落ちてきた庭園で、キャロラインは待っていた。
俺が来るなり、キャロラインは微苦笑を浮かべた。
「お待ちしてました、……リーチェ、あの、あのね。私とヴァスティの話していい?」
「いいよ、そのための今日だ」
「……我が陛下は、この国の発展にまだまだ満足してなかった時期があったの。今もだけれど、私が生まれる5年前に可哀そうな赤ん坊がいたわ。赤ん坊の名前は、……ヴァステルデ。赤ん坊はね、栄を必要とする儀式に巻き込まれ依り代となり、人間の身に神は閉じ込められた。神であるヴァスティはそんな状況でさえ、人々を愛したわ。愛し続けて、愛し続けて、それでも誰にも知られなかった。お城の偉い人しか。そのころをヴァスティは自分でお人形だと言ってたわ」
キャロラインは手の指先を自分自身で温めながら、悲しく微笑んだ。
「……そのお人形だと思い込んでいたのも、最近話すことで知っていったの。おかしいよね、ずっとそばにいたのに。そばにいてくれたのに。ヴァスティは私に当時のことを話すには、もう体力がないわ。……あの、ね。恋を叶えるかどうかとかより、ヴァスティに生きてほしいと思ったの。そしたら! そしたら今度は私だって、神様扱いしないわ。人間として、ヴァスティと話したいの。人間として、ヴァスティの心に触れたいのよ」
「……アップルパイは、ヴァスティ専用だな」
もどかしい関係を一言で言うなら、と言葉を探した結果だったが、キャロラインはこくりと真摯に頷いた。
「あのね! だから私も頑張って戦うから、いえ、私が頑張って戦うから、一緒にヴァスティを治したい……」
「キャロライン、改めて褒めようか。たくさん考えて辛い思いをしたかもしれない、それでも俺は最後にヴァスティを選んだのは、とても素敵なことだと思う。俺が言うのもなんだけどね」
俺が言うと、キャロラインはくすくすと笑って、有難うと礼を告げた。
キャロラインが去っていくのを見届けてから、後ろの草陰で隠れているあほの子を呼び止める。
「イミテ、盗み聞きいけないんだ」
「これはその、……最初の目的がたとえ叶ったとしても、お前様が辛いだろうと」
イミテを隣に手招き、俺は笑いかける。
「清々しいよ、俺はあの子に恋をしていたわけではないけれど、幸せになってほしい気持ちも芽生えていったから。何もなかった、それこそお人形だったあの子が、今では意見を言う。とても、素晴らしい」
「人の子というのは感傷に浸りやすいものだと思っていたが、お前様はただただ強いのだな。さすが我が主殿!」
俺が内緒話をするようにこそこそ声で笑えば、イミテもつられて、微笑んで一気にめそめそしそうな空気を飛ばしてくれた。
……話を、真剣な話に戻そう。
ここのところ、イミテにはヴァスティの具合を観察してもらっていたが、力を使わないにも関わらず一向によくなる気配がない。
国の発展の関連も関わっているのだとしたら、そちらが重圧な可能性もある。
ヴァスティ。モートルダム神を閉じ込め、人に恋をして幽閉された哀れな神様。
せっかくお前の幸せが見つかりそうなんだから、かなえたい。
「ヴァスティがもし、次にあの祈りの力を与えるのであれば奴は危ないと素人目からみても、思うほどだ」
「了解……さて、もう一人女性を待たせてるから、さっさと部屋に戻るか」
「どうして待たせている?」
「アッシュのダンスパーティで踊る女性、今日顔合わせなんだよ」
「なんと、急がねばな!!」




