第六話 不吉の象徴
「おっと、一息するつもりが楽しくて長居してしまった。シルビア姫、それではまた、学園で」
お会いしましょう、と言おうとした瞬間、学園めがけて大きな何かが落下した。
あれは花園へ落下した様子だ、慌てて俺はキャロライン姫様が心配になり、シルビア姫様と顔を見合わせ去ろうとすれば、シルビア姫様も一緒に来るつもりのようなので一緒に走った。
花園へ行けば、アッシュ王子が落下した生き物――龍からキャロライン姫様を庇うように背にキャロライン姫様を置いていた。
龍――姫様が懇意にしている、ドラゴンとは違う。
ドラゴンは、イメージで言うと前世の記憶で言うと西洋風なもの。腹のでっぷりがあるやつ。それに対して龍は、東洋的な見目で、キャロライン姫様も驚かれている。
「どうしたんですか!」
「君は学園の者か! 助かった、吉兆の龍ではないんだ、この龍は。見目が黒い!」
「アッシュ王子様、あの、私は無事ですから、龍の手当を……!」
「この国の象徴である君が触れていい存在ではない、デマだとしても、国民は不安になる、軽率にそんな言葉を言って良い物ではない」
「お兄様に賛成ですわ、キャロライン様は触れてはいけません」
「それなら、俺が手当するよ――うちの国では黒い蜥蜴も黒い蛇も、神様だ。黒い龍なら、黒い見目というだけでも、高貴な扱いされるだろうよ」
何より、怪我で呻いて悲しそうに瞬きするこの龍を放っておけない。
「この学園の皆からは、それでも凶の証に触ったとされ、避けられるかもしれませんわよ、リーチェ様」
「悪いが医学馬鹿の端くれみたいだ、俺は。噂が気になるなら、皆は帰ってくれ、誰も此処へ近づけないように命じてくれると有難い。今からする治癒の仕方は見せたくないもんでね」
「……どうして、そこまで必死に……――リーチェ様」
「さてね、何だろうな! ほらほら、さっさとこういうとき女性陣を誘導してくださいよ、アッシュ殿下」
「……あ、ああ。ほら、キャロライン、シルビア、むこうへ行こう。この借りはいつか、ええと、リーチェ殿」
「リーチェ、待って、私も手伝ッ……手を離して、離してください、アッシュ殿下! リーチェ! 君はッ」
――そこから先の声は、アッシュ殿下が二人を連れて行ってくれたから、聞こえなかった。




