第六十八話 選ばれたシルビア、選ばれなかったアッシュ
「随分と危険な賭けをするのだな」
イミテに飴玉を割ってもらい、それを二人でそれぞれ口にしながら、苦笑いした。
くちにするなり眠気がするりと降りてきて、俺はすぐさま意識を失い、夢の世界へと旅立った。
夢の世界でも夜で、俺はアッシュを見つけるなり、アッシュを手招きした。
アッシュはお前が来いという動作をして動かない様子なので、しょうがないと肩をすくめアッシュに近づく。
俺たちは半透明になり、どうやら過去の中では幻のようだ。
アッシュは王様の部屋へ向かおうと、しぐさで合図する。
声がでないようだった。気づけば俺も声がでない。
しばらく王の部屋にいると、若いあのおっさんがいて、王妃様と何かを話していた。
「こんなの悪趣味なおふざけですよ」
「いいや、私にはそうは思えん。おふざけだとしても、未来に言われない可能性はない。決めておくべきなのだ、どちらの子をメビウスに渡すのか」
「よりによってなぜ今……王政も苦しい頃合いですのに」
「だからこそチャンスであり、苦難だこの選択は。金色香草は大事な貿易品にもなる……」
第一王妃と第二王妃は顔をしかめて、カードを机の上に置いた。
予告上のようなカードだ。
『金色香草の苗床をくれてやる、代わりに一人欲しい。手駒となる者が。シルビア王女か、アッシュ殿下か選びたまえ』
憎たらしいことに絵までかいてある。
暗殺者ってやつが……メビウスだったってことか?!
あいつ何年前から生きてるんだよ!
「どちらを選べというのだ、私は、私は情けない王だ。どちらも、大事な子だ。選べないのだ。しかし金色香草は財政には有難い話だ……」
「それでしたら、こうしましょう。メビウスが最初に訪れた部屋の子をメビウスに渡しましょう。邪神といえど、モートルダム様の一部です。きっと悪いことにはなりませんわ」
「これもそれも、シリウス国家が子供を依り代に、神を下すからこうなるのだ! 私は許さんぞ、あの国を……」
「陛下、お越しになられたようですわ。これより怒りは他言無用、私たちの胸の内に」
メビウスがやってきて、子供二人を両腕に抱えていた。
メビウスは仮面をかぶっているが、愉快そうだったという声でわかる、まぎれもなくメビウスだ。
「どちらの犠牲を選ぶ?」
「メビウス様、其方の……」
「よく聞こえないな?」
「……アッシュを」
「よろしい、では運命の子を守護する役割を与えよう、未来の俺様のかわいい妻のな。シルビア姫には、……魔物を司る力を与えておこう、覚醒するまでは普通の子として過ごせる。お得だろう、守り手ができた」
「ッメビウス様!!金色香草は……頂けるのですね?」
「ああ、その香草でお前の好き勝手にするといい、貿易するなり、交渉材料にするなり。人を蘇らせるなり。それぐらいの価値はあるだろう、復活剤を作れる貴重な薬草だ。ただ約束がある。魔物の使い手として目覚めたシルビアを確認次第、お前の息子へ金色香草がいるかどうか聞くんだ。必要なら、無償でいくらでも渡せ。約束が果たされなかったときこそ、魔王が二人お前の国から生まれると思うとよい」
メビウスは植物の種が入った革袋を、第一王妃に手渡し、そのまま姿を闇にくらませる。
王は、怯えた目の、憎んだ眼をしたアッシュを見つめ、嗚咽をこぼした。




