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第六十三話 アッシュの気怠い目覚め


 意識を取り戻した頃に、アッシュの部屋にある簡易ベッドに寝かされているのだと気づき変な笑いが出た。

 あいつの部屋保健室じゃねぇんだからさあ! 可哀想じゃん?!


「起きたかい?! イミテくんとアルベルは今、話し合いしているよ。うちのアッサムも」

 俺が起きるなり、ぱぁっと顔を輝かせて駆け寄ってきたのはディスタードだった。

 ディスタードはうまく絞れないタオルを手にして床をびしゃびしゃにしながら、手をばたばたと動かし、感動を顕わにしようとしていた。

「医者が倒れるとはどういうことだね!? まったく君は本当に自分を蔑ろにしがちだ!」

「豪炎茸は……」

「きちんと保管しているよ、必要な時に取れるようにって君の部屋にね! ……お疲れ様」

 ディスタードから労いの言葉がでたことに驚いていると、ディスタードは絞れなかったタオルを隣のベッドにいるアッシュの顔に押しつけ、真面目な顔つきをしていた。

「正直ね、ボクは心配なのだよ。あまりに色んなモノを背負っていて、君は時折魔力を一気に消失している。魔力の消失を補うこともしない。ポーションを飲めとかではなくね、心からの休息をしていないんだよ」

「寝ては、いるんだけどな」

「うーん、最近心からリラックスしたことってあるかい? ってこれではボクが医者みたいじゃあないか! 役割を返すよ、ボクは暴走して遊んでいたい! まぁとにかく、君だってたまには休み給え! 倒れたらまたイミテくんが泣いちゃうよ!?」

「だけど次の五生宝が」

「ははーん? 休まないつもりだね!? そんな君にはッ地獄の野郎三人男旅をプレゼントしちゃうぞ!? ボクとアッシュくんと君とで、地獄みたいなむさ苦しい旅を計画しちゃうぞ?!」

「ソレはヤメテクダサイ」

「……オレもそれは遠慮願いたい、というか、このタオルを、外せ……冷たい」


 アッシュの声が聞こえたもんだから、オレもディスタードもびくっと跳ねてから、アッシュの方向を見やりディスタードはタオルを慌てて外す。

 水にぐっしょり濡れたアッシュがそこにはいた、苦しかったんだなタオル! 荒療治な起こし方だ!


「アッシュ、大丈夫か、気分悪くないか?」

「……今のところは、水で冷たい以外はないな。くそ、また、シルビアが……」


 アッシュはメビウスにピュアクリスタルを盗られたことを思い出すと悔しがり、額の近くで拳を握りしめ嘆息を付いた。

 うまく力が入らないのか、拳は僅かに震えながらも、完全に握りしめることはできていない。

「シルビアはどう足掻いても、メビウスの手駒にされるのか? くそっ……」

「そうでもないと思うよ、アッシュくん。あのお姫様は案外図太い、根菜のように」

「何だと!? ……お前の訳判らん喩えに付き合う余裕はないんだ」

「なら判りやすく言おう、あのお姫様はきちんと意志を持って手駒になっている。手駒と言うより、シルビア姫もメビウスを利用しているんだよ」


 意外な観察眼に驚いてディスタードを見やると、ディスタードはしれっとした顔で俺と目が遭う。

 視線が「君もそう思うよね?」と訴えかけていたので、二人に情報を伝えたほうがよさげな気がして、俺は意を決する。


「シルビアは、多分一回タイムリープってのをしている。ええと、この学園生活……今のこの人生を一回体験済みなんだよ。だから、誰がどう出るか知っている」

 ゲームの知識もあるけれど、それは今はややこしいことになるから伏せておこう。

「前の体験で出来なかった行いを、シルビアはするためにメビウスに付き従っている……んだと、思う」

「狙いは何なんだ?」

「詳しくは俺もよくわかんねーんだ、ただ……信念は曲げるつもりはないようだ」


 二人のそれぞれの狙いは、俺とヴァスティの生命だっていうのは判ったが、生きながらえさせる方向だなんて、本当によくわからない。邪神ってことは敵対しているんだろう?

 シルビアは助け合った過去があるというのなら、恋人だったという過去があるのなら判るが、メビウスはよく分からない。

 しかも、ヴァスティの分身かもしれないという。分身だから生きながらえさせたいとかいう単純な願いではない気がする。

 でもあいつらの願いが判ったところで、狙いは判らないから言うだけ混乱させると感じ取ったので、言葉選びを慎重にした。

 アッシュは嘆息をつき、アルベルを呼べ、と身の回りのことをさせようとした。

 ディスタードに呼ばれたアルベルは嬉しげにアッシュの周りを羽ばたいてから、人の姿を取り、身支度をさせて、日にちを確認する。


「リーチェ、戦況はどうなっている」

「五生宝のうち、二つは手に入ったよ」

「それで向こうもピュアクリスタル二つか……父上に頼むか」

「何を?」

「五生宝のうち、金色香草は父上も趣味で栽培させている。滅多に成長することはないが、今年はうまく成長しそうだと連絡があった。うちは金色香草が栽培しやすい地帯なんだ」

「その父上とやらから手紙がきていたよ、すごいややこしくなりそうな内容」

「人の手紙を勝手に読むな!」

「だって緊急事態とかだったら大変じゃあないか! これは親切心! 断じて野次馬なんかではないよ、誤解しないでくれたまえ! いや、面白い手紙ではあったけどね!」


 ディスタードが手紙をアッシュに渡したので、俺もアッシュの後ろから手紙を覗き見すると最早止める気力も無いのか、そのまま読み進めるアッシュ。

 手紙内容には――キャロラインを婚約者候補にあがることとする、と書いてあった。




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