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第五十九話 アレクサンドルの暴走と、闘うヴァスティ

 肖像画を見た紳士達が騒ぐ。

「やあ、名物は王妃様の肖像画か、中々いいセンスをしてらっしゃる」

「何とも神々しくお美しいお姿だ……」


 アレク先生、あからさまにぴくっとか、ぎくっとかしましたね。

 すぐさま俺と視線があうが、俺は指で罰点を作り首ふった、アレク先生は悔しげな顔をしている。


「推しとの出会いは一期一会なんですよ……!」

「目的を忘れたんですか! もし買ったらタバスコ一気飲みの刑ですからね!」


 何を日本のオタクみたいなこと言ってるんだこの人は!

 転生者じゃなさそうなのに! アレク先生の挙動に気をつけながら、オークションの成り行きを見守る。


 進行係がオークションの説明をする、欲しいと思った物があれば、札をあげて金貨の枚数を告げればいいだけと。

 魚の競りみたいなものかな? あそこまで五月蠅くはなさそうだが。


 最初は壺だの、妖精の衣だの、ファンタジックなものが売られていた。

 さぁてこの次が問題だ、王妃様の例の肖像画だ、これさえ乗り越えられれば……。


「アレク先生」

「わ、判ってますよ……私だって大人だ、節度くらい……」

「最高金額二百五十枚! 他にいませんね?!」

「三百枚! ……はっ、しまった」

「三百枚で落札! おめでとう御座います」

「イミテ、その巫山戯た大人にタバスコ一気飲みさせろ!!!」

「は、話せば解り合えます! 待って、あ、次! 次ですよ!」

「二百枚でどうしろってんだ、アンタ!」


 どうしよう、まずい、このままでは。

 他の人に落札されてしまう、何か、何か手はないだろうか。


「戦況はどうだ」

「あ、ヴァ――!」

「名前は呼ぶな、こうなるだろうと思って金貨を追加で持ってきた」

 白い衣服にドレスアップして仮面を付けたヴァスティが後方からやってきて、俺らの席に座り、金貨の追加枚数三百枚を教えてくれた。よかった、資金は変わらずにすみそうだ。


「お前達の努力分くらいは補ってやる、それ以上は出せないがな」

「何でだ?」

「神がおいそれと、気軽に金を与えてると聞けばいい気はしないだろう、誰も」


 納得はいった。

 何にせよこれで、普通に挑める――!


「次は豪炎茸です、これは薬師または錬金術師であれば欲しがる一品の、五生宝と呼ばれる伝説の採取物の一種です! さぁまずは金貨十枚からスタート!」


 最初は色んな人々と競っていた、しかし、金貨四百枚以降は俺の席ともう一つの席で競り合う。


「四百十!」

「四百二十!」

「四百五十!」

 交互に言い合い、痺れを切らした俺が最終手段の、そして限界値の金貨五百を告げると会場はざわめき、俺と競っていた相手が「五百十!」と。

 まじか、やばいなそれ以上は声が出ない――かと思いきや。


「金貨などで競り合うような下品な扱いはやめないかね、それは非常に美しい植物であるのに」


 会場の異空間からすっと手が現れ、そこからメビウスが姿を現す。

 め、メビウス、そうか、ここから豪炎茸を強奪するつもりで出てきたのか!

 有難うメビウス、強奪したお前から強奪すれば話は解決する!!


「メビウス!!」

「……何だ嬉しげな声で、気色悪いなピュアエリクサー。おや、珍しい奴がいる」


 メビウスは豪炎茸を手にすると、周囲を一睨みし、一気に固まらせた。

 どうやら一般人だけが身動きできなくなる様子だ。

 メビウスはつかつかとヴァスティに歩み寄ると、腕を広げる動作でにこりと微笑んだ。


「やあ、高貴で偉大なる僕よ」

「……その茸を渡せ、メビウスよ」

「他人行儀だな。しかして渡せぬのだよ、それが我が魔王との契約だ」

「契約? シルビア姫との?」

「あの娘は素晴らしい決意を秘めておいでだ、俺様と同じ目的でありながら、目指す箇所は違う。どのみち、いずれそこのピュアエリクサーが必要だ、いつか迎えに行くだろう」

「――話をずらす癖があるようだから戻そう、その茸を置いておけ」

「欲しければ奪うがいい? 貴様に闘う力があるならば!」


 黒い剣を再び異空間から取りだし、メビウスは魔物も召喚する。

 俺とイミテは闘う態勢を取ろうとするが、イミテはドレスで躓き慌てて支える。

 キャロライン姫は祈る準備をしていたので、慌てて俺は「祈ったら駄目だ」と声をかけた。

 アレク先生が鳳の魔導書を取り出し、詠唱を始め、ヴァスティが前線に誰もいないことを知ると代わりに異空間から、真っ白に輝く煌めきの剣を取りだして構えた。


「十分間だ、オレが戦えるのは。それまでにどうにかしてくれ」

「アレク先生の魔法はきっと精霊召喚だからその時間稼ぎさえできれば何とかなる! くそ、ここじゃマメ爆弾は使えねぇ……」

「魔力増強して、リーチェはイミテを手伝え、そもそもお前は顔色悪いから今日は動かない方が良い、魔力の提供ですらぎりぎりだ。イミテはリーチェから魔力を貰い、一緒に前線へこい。キャロ、貴方は豪炎茸を隙有れば取り返してくれ」

「怪我したらどうするの、ヴァスティ?!」

「後でリーチェに薬でも貰うよ、アレク殿下頼みましたよ、金貨三百枚分の働き期待してます」


 ヴァスティの言葉に、アレク先生がうぐっと言葉を詰まらせかけたものの、詠唱を続ける。

 ヴァスティは先にメビウスに挑みにいく。

 イミテはオレの顔をじ、とみてから、すまぬ、と小さく謝った。


「どうし――」

「お前様……リーチェ、勇気を」


 頂戴、とイミテはオレにキスし、唇から魔力を吸い出すと、腹が一杯になったと言わんばかりに満足げに唇を放し、手元に炎で出来た剣を作りヴァスティと一緒に挑みに行った。


 間近に見つめた瞳に一瞬どきってしてしまうのは仕方ないよな、俺だって野郎だもんよ。

 キャロラインをそうっと見やると、ショックを受けたような表情の後に、動きやすいようにドレスを少し引き裂いて、靴を脱いで裸足で豪炎茸をとりに走り出す。


「顔赤いわよ」

「ひわ?!!!」

 真後ろにシルビアが苛ついた表情でいた。

 シルビアの気配に気付き、イミテは小さく謝っていたのか!

 シルビアは親指の爪を噛みながら、俺を睨み付ける。

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