第五十二話 頼もしかったはずのアレクサンドル
「やっぱり、食べられない?」
「違うよ、嬉しくて……驚きで胸が一杯になっただけ」
咄嗟に出た言葉は、ゲームで見たヤンデレリーチェの正解返答だったから、厄介だ、俺自身も。
キャロラインが嬉しげにすればするほど、早くお前が俺を嫌う日がくればいいのに、と願ってしまう。
キャロラインが嫌いなんじゃない、寧ろイイコだ。だけど、結ばれるべきは俺じゃあないんだよ、キャロライン。
お前もいつか素直になるときがくるよ。
*
アレク先生にも相談してみることとしたが、アレク先生は唸っていた。
「紛い物かもしれませんよ?」
「それでもやる価値はあると思うんです」
蟀谷を抑え唸るアレク先生。キャロラインの一生懸命な訴えに弱いのか、それとも王妃様似の顔に弱いのか、やれやれと息を吐いて頷いた。
「判りました、但し王妃様の招待状を使わせるわけにはいきません」
「え、じゃあどうすれば」
「リーチェ君、キャロライン姫様、私はね、隣国の第一王子なのですよ、来る日も来る日も嫁探しする周囲が嫌で、国から逃げだそうとしたところをこの国が預かってくれたのです」
ああ、そういやメインシナリオはそういうやつだっけか、アレク先生ルートだと。
確かこの人、媚びを売ってくる女性が大の苦手だったんだ。
「そんな私の元に招待状はあり、さて私は大人です。ね、大丈夫でしょう? 私が付き添います。資金に関しても、ヴァステルデ様からもしオークションに参加したいと姫様が仰ったときは提供すると言われてます」
「提供するってどうやって?」
「この国では賭け事は許されています、賢明なリーチェくんなら察せられると思いますよ、ずる賢く聡明な君になら」
ヴァスティの予知能力を使って、資金くらいは稼いでこいってことか……!!
提供するのはヴァスティの能力ってことだ、ということはどのみち年とる薬は作っておいたほうがよさげだな!
「察したようですね、あと何故かは判りませんが、オークション用資金は多ければ多いほどいいそうです、と。予定額より、こえそうなほど資金ができたとしても」
「どうしてかしら」
「さぁ、私はヴァステルデ様からの伝言を預かっただけですので。兎に角、賭博する日程を決めて、一緒に参りますよ」
大人がいるって子供にとってこんなに安心できる状況だったんだと、安心した俺とキャロラインであった。
アレク先生頼もしいなって、このときは思っていたんだ、このときはな。
*
賭博場は貴族も使うというかなり大きな場所のものを使うことに。
故に、キャロラインには年老い薬を飲んで貰った後にドレスアップしてもらおうって話になったのだが……。
「リーチェ、どう? 変じゃない?」
未来の姫様は相当たわわだなぁ……胸と尻がむちむちで、ドレスからあふれ出しそうな胸に釘付けになる。
慌てて視線を反らして、「いいんじゃない?」と褒めると、キャロラインはむうと膨れた。
「そやつは女人になれてないだけだ」
これまた年老い薬を飲んでドレスアップしたイミテが、やってきて俺の腕を組む。
イミテは普段のロングヘアーをアップにしていて、かなり色っぽさが増していた。
キャロラインは真っ赤な、イミテは真っ青な薔薇みたいなドレスを着ていて、女性が華ってこういうことかあなんて思っていたりしてた。
「イミテさん! 私のエスコートは、り、リーチェがいい……」
「躓くぞ、こやつはエスコートなど慣れておらん。そもそも賭博場に入れぬかもしれぬしな」
「い、いいんです! 躓いてもいいから、リーチェの隣がいい……」
キャロラインとイミテが言い争っている間に、ヴァスティから聞いておいた勝ち負け表を皆に配る、
今回この作戦に乗るのは、イミテ、キャロライン、アレク先生、俺だけだ。
アッシュやディスタードには、その間剣の稽古を続けていて貰おうということになった。
ディスタードときたら「君のいない授業は寂しいけど、銀貨一枚で手を打つよ!」と何故か拗ねるし、アッシュは「キャロライン姫を丁重に扱えよ」と怒っていた。
アッシュの嫉妬は判るが、ディスタードの金銭欲は相変わらずだな、あれはもう条件反射に近いのかもしれないな!
「負けなきゃいけないときがあるのね」
「そうしないと、かーなり怪しい存在になるから。最後は大負けとはいかないけど、各自ある程度負けてから帰ってきてくれ。店の顔も保たれる、潰れない」
「恥をかかせないようにってことですか、慎ましいですね、でも三人で賭け事するのなら相当な額は集まりそうだ、負けたとしても。大丈夫ですね」
「じゃあ行こうか! 馬車も待たせてある」
結局俺はキャロラインをエスコートし、イミテに睨まれながら、アレク先生たちと賭博場へ向かった。




