第四十七話 メビウスVSキャロライン、アッシュ――報酬
メビウスは黒い剣で、突きを繰り出し、アッシュが攻撃すれば簡単に剣を薙がしもする。
兎に角、メビウスの攻撃は早くて、それについていけるアッシュの双剣もすごかった。
双剣って騎士道だと二人がかりだから正々堂々ではないという意見があるが、こんな剣戟見ていたらメビウスに今の状態でやっとついていけるのだから、卑怯だなんて言わせない。
キャロラインは脂汗を垂らしながら、祈っている、聖なるティアラがきらきらと光り続けているから魔力を消費しているのが判った。
慌てて加勢しようとすると、アッシュが叫ぶ。
「こいつは妹を攫ったオレの宿敵だ! 手を出すな!」
「アルデバランの次期国王に認められるとは俺様も捨てたモノではないな、だが残念、手元がおざなりだ」
細身の剣がアッシュの手首を攻撃し、アッシュの片方の剣が一回落ちかけた!
が、アッシュが器用なことに、足で蹴り、その弾みでキャッチし再び攻撃する。
剣戟はまだまだ終わらない。
だが人間というものは集中力が途切れてくるものだ、かかる時間が長ければ長いほど。
二人の集中力が途切れた頃に、メビウスがアッシュを引き寄せ、首元に剣を置き俺へ笑いかける。
「手の掛かる姫だが、やむを得まい。我が赤き魔王と交換だ」
「駄目だ、シルビアを渡したらいけない!」
「アッシュ、貴方だけ死ぬよりかマシだ、またいつか取り返せるチャンスはあるはずだ!」
「――ッくそ!!」
頑固だが察しの良いアッシュは、すぐに双剣を手放し、己の未熟さを恥じる。
恥じと悔しさのこみ上げてる顔が此方からよく見える。
シルビアをメビウスに渡すと、二人は異空間へ消えるように去って行く。
去って行く間際に、シルビアが月華を強く見つめてから俺を見やった。
まるで、全部使うな、と言いたげであった。
「引き分けだな」
イミテは倒れかけたキャロラインを、支えてからディスタードに任せ、月華を見やり、笑った。
「引き分けでもないな、此方には目当ての品があるのだから。これで、ディスタードの妹とやらの病は治るだろう」
イミテの視線の先には、月華蜜――太陽の灯りを受けている今はタイミングが悪く、夜になるまで待ってから皆で蜜を採った。
ぼろぼろだったので、その日は月華を傘にするように、月華の下で眠りについた。
*
一週間後しっかり迎えがきてから、薬を調合し出来上がったモノをディスタードに渡す。
アッシュは剣術を真面目に習おうと覚悟したし、キャロラインにとっても焼き餅とかを引き出せたから良い機会となったのかな。
何より有難いのが、どうしても代償が欲しいと言ったディスタードにそれならば、と薬ではなく毒を百回分かっ喰らってくれると誓ってくれたこと。
ロデレットの場合は、ただただ薬のためのような気がして、ロデレットだけに理由もなく苦しめ、という感じがして気が引けたがディスタードの場合は「それがあって対等だ」と本人はあっけらかんとして笑った。
お互いに救われる箇所があってこその、友達というものだと。
薬を処方してから数分後、具合を悪そうにしていた妹さんから汗が引いて、顔色も落ち着いてきた。
暫くは様子が見たいからと、俺とディスタードとイミテのみ残って、あとは帰って貰った。
「リーチェくん、心から有難う」
妹さんの寝顔を見ながら、ディスタードが呟いた。
「礼を言うなら皆にもだろう」
「いいや、今度ばかりは君にきちんと言うべきなんだ。だからこそ、ボクは誓うよ、君がどんな状況になっても君の味方であると。……君は敵を多く作る体質な気がしてね。代わりに味方も多そうなんだけれど!」
「実際学校がそうだしなぁ、この前ついに教科書一冊盗まれたよ」
「そんな君だから、我が家の秘伝の医学レシピをあげよう。これでも、叔父様は医者もしていたんだ、今は亡くなっているけれど。叔父様秘蔵の特効薬の薬さ」
一つの古い巻物を、ディスタードは俺に渡す。
好きに使い給え、と俺とイミテを部屋から追い出し、妹の看病をディスタードは続けた。
何の巻物だろうと、見れば――。
『光源病――沢山の者から想われるあまりに、呪われやすく、病にかかりやすくなる。それでも人々は祈らずにはいられないだろう』
「これって……」
「あの清楚な魔力の病ではないのか?!!」
ぴょこぴょこジャンプして覗き込んだイミテに同意見だ、と俺はレシピを読み込み、その中にあった材料の一つに、確かに月華蜜と描いてあった。




