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第四十四話 近いのに遠い心


 本来人の心を弄んではいけない。


 ギャルゲーのときは、五人同時攻略とか目指す遊び方もあったけれど。

 今乙女ゲーの世界に来て、ルートが自分次第で動くとなった今は、心がずきんずきんと痛む。


 皆で手分けして月華蜜を探そうってなったときも、キャロラインは俺と一緒にいたがった。

 昨日の焼き餅が落ち着いてないらしい。

 ずっと、つんけんした態度なのに、遠くへ行こうとするとすぐにうろうろついてくる子猫みたいだった。


 んんんんんん!!! 心が痛む!!!!


 でも、ヴァスティを死なせるわけにはいかない、この世界の神様なら尚更!

 あいつの想いが報われないのも、あいつ自身が諦めているのも嫌だ!


 俺の予測だけど、本来キャロラインとヴァスティって思い合ってる気がするんだ。

 ただ、障害がでかすぎて、お互い踏み出す勇気が無くて、って感じなんだと思う。


 シルビアが言っていた作戦、ヴァスティに焼き餅を妬かせる為の行動。

 確かに効果はあるとは思う、ときめくだろうし、ヴァスティのなかで恋心が自覚できるいいチャンスだ。


 その為には、ある程度の好感度、か。後に嫌われても構わないという覚悟がなければならない。

 クズと呼ばれようと、信念を貫く意思が。


 ならばついてくるキャロラインの好意を、言葉は悪いが利用させてもらおう。

 ヴァスティが早く嫉妬するように、いそしめばいい。



「私はいつまで荷物番なのだ!」

「まぁまぁイミテちゃん、帰ったら何か美味しいものご馳走するかもよ??」

「イミテさん、リーチェのことは私に任せてください!」

「そうであれば仕方ない……これを持って行くといい」


 大きな信号弾を貰った、両手で持つくらいでほどよいサイズだ。

 何かあった時用なのだろう、俺は頷き受け取ると、それを腰に装備し、キャロラインと二人で月華蜜を探す――。


 途中に珍しい生き物の抜け殻があったので、それも回収しつつ。

 こういうのって大体気味悪がられる印象だけど、キャロラインは何もかもが新鮮みたいで悪い印象はあまりなかったようだ。


「リーチェは生命に好奇心旺盛なのね」

「まぁ何に使えるか判らないしなぁ。お、ユゲンの花。赤くて綺麗だよな、これ」

 椿みたいな花を見つけ、それを手折ってあげてみる。

 ユゲンの花は確か、花言葉はそこまで悪い意味でも、良すぎる意味でもなく。

「良い日常」とかそういう言葉だったはずだ。

 花を受け取ったキャロラインは嬉しげに笑うと、花の香りを嗅ぐ。

 この花には毒性はないが、近くに毒ガスが沸いているのか、くらりとして倒れかけた。

 思わず支えてから、解毒剤を飲ませると、キャロラインは目を細め、俺を抱き締めた。



「貴方も、遠い」

「え?」

「近いかと思えば遠くて、遠いかと思えば近くて。でも、遠くに行くと悲しいの」

「遠いとかはよくわかんないけど、こうすれば、近いかな?」


 ここはあれだろ、顎をくいっとして顔を間近にして喰らえイケメンアタック!!ってするタイミングですよね!?

 これで違うなら俺はまず恥ずかしさで自害するよ?!

 顎をくいっとしてから、間近で瞳を見つめれば綺麗なキャロラインの目が俺を映す。

 あー、目の色綺麗、と思ったら突き放されて、嫌われたかなと頬を掻いて様子を見つめてみるとキャロラインは真っ赤な顔で胸を押さえていた。


 ほらよ、ヴァスティ。

 お前それでいいのかよ、大事な姫様が、こうやって日本の乙女キュン特集とかで連なった行動を顔だけイケメン中身くずな俺にやられてさ。

 大事な姫様とられていいのかよ。


 ――とか色々考え込んでいると、キャロラインはまた俺を睨み付けた。


「ぶ、物理的にではないです!」

「近いとか遠いとか俺わかんないのよぉ。ん、なぁ、キャロラインちゃん、あそこに大きなお花あるの気のせいかしら」

 遠くに月華らしきものを見つけたが、その近くにいる人々に二人で顔を見合わせる。


 メビウスとシルビアだ!


「キャロライン、隠れるぞ、こっちに来るみたいだ! 奴ら何でここに……」

「か、隠れる必要は無い、悪いことしてませんもの!」

 そうじゃなくて、戦力的にって意味だがキャロラインが堂々と歩いて向かっていくので、俺は仕方なしに信号弾を空へ放つ。


 音に驚いたシルビアと、キャロラインに気付いたメビウスがやたら秋波を送り、キャロラインの手を掴み、手の甲にキスをする。


「最たる愛と、こんなところで出くわすとは。流石は俺様の運命だ」

「触らないで! 何をしてるの、貴方達!」

「なぁに、薬が必要なのはお前達だけではないのだよ、もっとも貴様らよりも高尚な薬を作ろうとしているがな」

「怪我してるの?」

 キャロラインは本当に無邪気で、メビウスが本気で怪我していると思ったのか、片眉をつり上げた。

 シルビアは首を振り、「内緒でしてよ」と笑った。


「メビウス、キャロライン様には話すべきではない内容なの、判ってませんわね? 貴方ときたらいつでも、面白さだけを優先するのだから困りものです」

「すまない、我が赤き魔王よ、何も知らない馬鹿を見ると世話を掛けたくなるお人好しなのだよ、この俺様というやつは。だが、そうもいかないな、まだ我が運命は俺様を受け入れてピュアクリスタルを渡すつもりはないらしい。悲しいな、まだ我が最たる愛に、俺様の愛は判っていないのか、この狂おしい愛が!」


 悲しいとは言いつつも愉快そうなメビウスの哄笑に、俺とキャロラインは身構えてから気付く。あかん、これは後衛二人だけがいるパターンだ!

 今度からは前衛一人、後衛一人に、くみ分けたいなぁと俺は次からの対策を思案するが、思案する魔に驚くことが起きた。


 白くでかい蛇――シルビアの契約獣ルルだ、白蛇がとんでもないでかさになって現れディスタードの屋敷分くらいはあるんじゃないかと。


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