第三十七話 蔑ろにしたくない心の友
牢屋に着くと、ディスタードは明るさが取り柄だったのに落ち込んだ顔をしていて、俺と目が遭うなり微苦笑をした。
「金貨をどれだけ貰っても足りないなんて、貧乏貴族で呆れただろう?」
「何で俺を頼ってくれなかったんだ、友だとか言っていたのは嘘だったのか?」
「今でも友だよ、だからこそ君を一番に頼っては駄目だと思ったんだ。君は僕の頼みなら、嫌々ながらでも無償で何かアクションを起こすだろうね。それが、ボクは嫌だったんだ、それは君を利用して命を狙って毒を料理に含ませる人々と変わらない」
「どうしてだよ?!」
「友達が自分をぞんざいに扱うのを見るのは嫌だろう? 無償っていうのは、代価に何も見合うものがないってことはそれだけ、助けてくれた相手をぞんざいに扱うんだ。自覚はないだろうね、君はきっと自分を雑に扱うのになれてる」
図星を指摘されて言葉を濁らせながら、俺は牢屋を蹴り、足に走った痛みで足を押さえた。
「今のお前もじゃん、自分をぞんざいに扱って妹優先した結果、お前の未来もお前の体裁も全部なくなったじゃねぇか!」
「嫌なところに鋭いな!」
「代価がない? 代価なんて今更考えるからややこしくなるんだ、お前、最初に見返りなく助けようとしてきたじゃねぇか、結局は金とったけどさぁ!」
弱きを助け強きを挫くつって、助けに来たのどこの馬鹿だよこのくそ野郎。
俺がそれを指摘すると、ディスタードは一気に涙目になって、わーんと子供みたいに泣き始めた。
「それでも! ボクは、君とは対等の友でありたかったんだアア! 寧ろボクのが君より上くらいで丁度いいんだあああ!!」
「プライドの問題かよ!! 今すぐヴァスティに謝りに行こう、剣も取り返して! 俺が妹ちゃんの病気治す、代価はピュアクリスタルを盗まれるのを防いで、世界を守ればお釣りがくるだろ!? 剣を売るのは、世界救ってからでもいいじゃん!?」
「それもそうか!! とはいえ、神様が許してくれる筈ないんだよお……おお、神よ、ボクが愚かでした。世界救ってから、世界を救った剣だと倍値で売ります」
ディスタードが真面目に馬鹿な言葉を口にしながら、わんわんと大泣きしながら此処にはいないヴァステルデに謝罪すると、オレの鈴がちりーんと鳴った。
鈴はちりんちりんと激しくなった結果、牢屋の扉が自動ドアみたいにバーンと開く。
これは……許されたと、いうことだろうか。
ぽかんとして顔を見合わせていると、アッシュが行くぞ、と声を掛けてきた。
「炎虎の大剣だけでも取り返すぞ」
「武器屋から売れてしまっていたら……」
「次期アルデバラン国王を舐めるなよ、いつぞや黒い龍を対処したリーチェの貸しを此処で返して、買い戻しくらいはしてやる。武器を扱えるようになったら金を返せば売るなり好きにすれば良い、ヴァステルデ様がまた怒ってもその時は知らん」
き、貴重なアッシュのツンデレだ!!!!
アッシュは真面目な表情でぽかんと呆気にとられてる俺達を見やり、不思議そうだった。
キャロラインが代表して、ありがとうと微笑んだ。
「アッシュ様はもう少し人に対して冷たい方かもしれないと誤解していたお詫びを申し上げます」
「……キャロライン姫、オレはただ泣き喚くこいつにはぞっとするから、いつもの脳天気にさっさと戻って欲しいだけだ、さっさと武器屋にいくぞ!」
「はい! ほら、ディスタード様、牢屋から出て」
ディスタードはぐすぐすと泣きながら、アッシュに鼻水垂らして感謝を告げる。
「金の友ォオオ!!! 有難う!!」
「さっさと!! 出てこい!! いや、リーチェ連れてこいそいつ!」
ディスタード攻略のストーリー通りなら本来は、ディスタードは未来の騎士隊長への憧れが強くて、騎士隊長が持つという剣に金貨二百枚借金し、盗賊に賊するっていうなんか矛盾したシナリオもあったんだが。
この流れはどうやらトゥルーっぽいな。
他の王子も協力して、ディスタードの事件も解決するなんて。
それも炎虎の大剣あっての事件だから、これはオレが見ることの出来なかったヴァスティルートな気がする……。
だとしたら、ヴァスティの好感度をあとはサポートすればいいのだろうか。
キャロラインにはフラグは確かにあった、ヴァスティと対等になれれば可能性はありそうなんだけどなぁっと考えながら武器屋へ急ぐと。
武器屋にアレク先生がいて、取り置きをしておいてくれた様子で、ディスタードはアレク先生から説教を食らうことになった。




