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第三十五話 傲慢な企て

 ヴァスティから貰った武器は各々、たいっへんに苦労をしていた。

 ディスタードは、持てない持てないと大泣きしていたし。アッシュは、器用さが足りないのか二本同時に剣を動かせない。アレク先生は読めない読めないと頭を抱える始末。

 俺はというと――素材要らずという点をようやく生かし、低級ポーションを無限に作り、剣などの授業で怪我した生徒達に売りさばくという悪法をしていた。

 イミテには呆れと驚きの交じった反応をされた。

 これで経験値稼ぎにもなるし、今の俺なら作れる範囲だ。


「問題はキャロラインだな」

「お姫様がどうした」


 売りさばき終わったので、昼飯にイミテが苦労して作ったサンドイッチを頬張りながら、小さく呟くとイミテはポーションを売った直後のエプロン姿で問いかけてくる。

 エプロンはピンクのチェック柄でやたら女の子らしくて、愛らしい。

 ――そこについてる紫とか緑とかどぎつい液体をのぞけば、な。売りさばく途中で零れたんだろう、低級ポーションが。

 イミテはあまりキャロラインを好きではない。だから目つきが厳しくなる。


「あのふわふわしたお姫様がどうした?」

「いや、ヴァスティから貰った武器って、皆練習方法はあるわけじゃん、こつこつやることを覚えれば。皆そのタイプじゃなかったから苦労してるけど。でも、キャロラインだけは聖女の祈りって、敵と戦う必殺技みてぇなもんだから、訓練できない。それに――」


 あの時力を貸してるのがヴァスティだとすれば、病じゃなくて、力の貸しすぎでヴァスティは命を縮めている可能性だってあるんだ。

 何で神様が人の姿をして地上にいるのかとかはおいといてさ。

 聖女の祈りをできるだけ使わず、パワーアップはできないだろうか、と思案する。


「そんなのはあの姫が考えることであろう! お前様ははよ、虹光薬を作れるように頑張るのがお前様の努力であろう、他人様を心配する余裕があるのかえ?」

「そ、そういうわけじゃ」

「いいや、お前様は何らかの手段でどうすれば己を鍛えられるか判ってるから、油断しているのだよ。そうでなくば、このような薬売りに出さぬ」

「結構いいお小遣い稼ぎになるよな」

「くそ、無邪気な笑顔可愛いではないか!! 母性を擽るな!」

「龍に母性ってあるのか?!」


 ぶははははと笑うとポーションの空き瓶を投げられて、頭にぶつかりそうになったのでキャッチする。


「まぁ冗談は置いといて、だ。当然俺自身も鍛えなきゃいけないんだが、キャロライン自身がどうにかしなきゃいけねぇ場面もでてくる」


 俺が影ながらサポートするとはいえ、限界は出てくる。

 そんなとき、自分という物をあまり持っていないキャロラインがどうにか、皆の心を動かせるとは思えない。まだディスタードのほうが、真摯な訴えをあいつはするから心を動かすときがある。

 イミテに伝えたい内容が伝わったようで、イミテは考え込んでから首を振る。


「傲慢だ、人の心ごと変えようなど」

「切っ掛けってそこらに結構転がってると思う、俺の瀕死を切っ掛けに目覚めたのが良い例」

「それは確かに。だがしかし、今からキャロライン姫をどう鍛えるのだ? 自らも鍛えつつ」

「こういう時にはセオリー的に、一緒の授業に出る、とかあるだろ。学校の手伝いとして出てる調合とか、自主練習の剣術とか。手段は幾らでもある、キャロラインが俺を気にしてる以上、俺が能力値を左右させられる。ということは、どっかに心を鍛える科とかあるだろ」

「そうであれば――そうさな、どんな科目であれ、一心に集中できるようなものであればよさそうだな」

「その点で行くと、キャロラインの好きな物思いつかないンだよなぁ、好きな科目なら更に集中できて効果期待できそうだけど」

「私にはあの娘は兎に角人形にしか見えん、欲があるように見えぬ」

「馬鹿言うなよ、キャロラインは人間だよ、誰にだって欲くらいあるだろ。お前だってふわふわケーキ食べたい、とかさ」

「わ、私はだな、その、お前様からの報酬を無碍に断るのは可哀想だからであってだな……!」

「じゃあ他の報酬にするか?」

「意地悪!」


 ぷりぷりと怒るイミテを前に、ふと俺は約束を思い出す。

 オリエンテーリングが終わったらヴァスティに対して思うものを、キャロライン姫は話してくれると。

 これはヴァスティルートには大事なフラグじゃないだろうか?

 キャロラインのことを、兎に角俺は知らなさすぎる。


 キャロラインが何を好み、何を嫌うか知る必要がある。


「薬も大事だけど、コミュニケーションも大事だと思うの、俺はね」

「何故だ」

「いざ危ない目にあったとき、心から助けがくることを信じなきゃいけないメンツだと思うんだよなぁ。そうでなきゃ、命の預け合いってできないだろ。というわけで、さ。イミテちゃん、俺、ちょっとキャロラインとデートイベントしてくるわ、そろそろ。好感度下がっていたら意味ねぇし」

「ふわふわケーキ!」

「はいはい、また今度な。忘れんて」

「そ、そうであるならば宜しいだろう」


 イミテも素直なところと素直じゃ無いところがあるなぁと何となく、俺は笑いそうになる。



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