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第三十一話 神の名を叫べ聖女よ

「ディスタード!」

「やかましいガキだ、耳障りだな、寝てろ」

 うるさげにメビウスは、蔓でディスタードの顔面を叩いてから、太めの蔓で腹へ攻撃し、貫く。

 ディスタードは吐血し、気絶した。

 蔓は次に俺を狙う。


 一気に死の恐怖が過る、二度死ぬのはつらい、痛みの種類が違えど。

 やばいが、怖いが。

 だが、キャロラインが本気を出せば、勝ち確定なのはわかっている。

 キャロラインは、運命を宿した姫様なのだから。

 偉大なる光属性かつ強力な技をお持ちだ。

 しかし、シルビアの予定外行動で、徐々に自信はなくなる。


 でももしかしたら死ぬかもしれない? ここで全員? 一気に血の気が引き、ぞっとする。


 ばっか、馬鹿か、おれ。

 怯えてどうする、きちんと導くて決めたろ! 俺がやらないで、誰がやるんだ!

 火薬はつきたので、ディスタードが持てなくなった剣を手にする。

 そうだ、あのイベント通りに台詞を。俺がヴァスティの正規ルートに戻すんだ。そこから先の未来や物語はわかんねーんだけど、今死なずにすむ。誰一人死なないはずだ!

 ヤンデレ属性だったな、確か。

 紹介文が変わったから、有効かは解らねえけど、やらないよりはましだ。

 一花咲かせてやる! ディスタードの持っていた剣を構えてみるものの、重いのなんのって。

 身体ががちがちと震え、メビウスはそれを見つめ楽しげだった。


「キャロライン、逃げな」

「嫌だよ、置いていけない!」

「キャロライン」


 そっと一回剣をおろし頭を撫でて、手の平に口づける。出来れば騎士や紳士をイメージした動きになるよう努力する。

 キャロラインは、真面目に驚き、それから可愛らしく照れてぼうっとする。見蕩れてくれる? ほっとした。


「お願いだ、俺の女神。あんたは生き延び、あとはこの世界を救う勇者になって仇をうってくれよ。俺が死んだら、その血は全てあんたにくれてやる、捧げてやる。だから、頼んだ」


 言った、言ってやった、キャロライン覚醒確定台詞。一番親しい奴がこんな死亡フラグたてることで、キャロラインは自分の中の感情と闘う――はずだ。

 さあ走って逃げろ、と突き放したタイミングで蔓は俺を貫く。

 野郎が二人でおねんねとか、情けないな。蔓は俺を貫いたことで、血液から魔力を貰い、活き活きとしている。


 キャロラインは。

 キャロラインは泣き叫び、震える。

 シルビアは俺を好きだと主張していたのに、傍観している。

 愉快な笑みでにやにやとメビウスは、見つめてキャロラインに近づく。


「さあ、ピュアクリスタルの乙女、ともに……」

「貴方を、私は許さない」

「ゆるさないからどうする、神にでも祈るか?非力な神に!」

「非力じゃないわ、私の神様は世界一強くて、私の味方なの」

 キャロラインはメビウスをはたき、俺を抱きしめながら、唱えた。

 俺にだけしか聞こえない声量で、神の名を。

 キャロラインの涙がぽたりと頬に当たる、そこだけは暖かい。神の名を唱えた瞬間、一気に温かみが波紋のように広がった!


「ルートヴィッヒ・サンチェルド・モートルダム=ヴァステルデ」


 最上位の神の名だ、俺の現世の知識内では。

 この世界で一番祈る人々が多くて、祈りが報われにくい名前。

 奇跡を起こせるなら、それは聖女。

 キャロラインは間違いなく、れっきとした聖女であるぞと、空が叫ぶように光の亀裂が空から注ぎ込み、俺やディスタードを回復する。

 回復しながら、……攻撃もしていた。光の槍が男に降り注ぐ。

 メビウスは、大きい仕草で顔を抑え、苛立ちながら叫ぶ。


「くそ、行くぞシルビア!不利である、退却だ! 次はこうはいかぬぞ!」

「…………リーチェ、ごめんなさいましね」

「シルビア、早く行くぞ、我らの城に!」

「ええ…………覚悟していた、ことだわ」


 シルビアを止めたかった、しかし彼女が悪役を降りたらそれはそれで、ヴァスティルートが叶えられない。

 キャロラインは、俺の言葉をきっかけに、世界征服を阻止する聖女に名乗り上げるのだから。

 命をとして未来を託し逃げさせようとしたヒーロー。

 なんか、少し情けないけど、俺では勇者にはなれないから。

 これはだって、キャロラインのための世界だ。



 キャロラインはぜいぜいと息をあげ、珠の肌に汗をかきながら、俺へ声をかける。


「死んじゃ嫌だよ、リーチェ、死んじゃ嫌だよ!」

「キャロラインのお陰で生き延びたよ……すごいな、今のは?」

「聖女の祈り、だ……リーチェくん、君は凄い御方に想われているのかも」

「ディスタード様! ディスタード様も無事ですか?!」

「中々に新鮮な暖かみだ、この光魔法は。何にせよ皆が待っている、ザーラを手にして、オリエンテーリングを終わらせ、終わり次第話し合おう。キャロラインくんも、いいね?」

「はい…………あ、ザーラが」

「どうした?」

「一個しか…………」

「構わないよ、君が優勝したまえ!

ボクの雇い主はもう深淵に染まった」


 ディスタードは明るく励ますように笑い、グリフォンへと乗り、上空で待つ。

 キャロラインはドラゴンを呼び、俺と一緒に載る。

 飛んだところで、人食い花がまた甦る、キャロラインはうまく逃げようとするが、ばさばさとドラゴンに蔓は追い付き。

 俺は足を捕らわれ、湖に。



「リーチェ!」

「二人とも行け、はやく! 大丈夫あとでオリエンテーリング後に落ち合おう! こっちには……」


「お前様!」


 イミテちゃんがいるから。いつまでもこなくて心配になってやってきたのだろう。

 イミテとキャロラインの視線が交わる。


「リーチェも連名にし、優勝してこい!こちらは、なんとかする!」

「任せてもいい?!」

「私を誰だと? 大賢者のむすめぞ!」

 その口上便利だな、二人とも信じた顔していなくなった!


「心配したぞ、お前様、何百年ぶりに肝を冷やした!」

「必要事項だからなあ、なんとかキャロラインはこれで運命に真剣になるはずだ、好きな野郎がかかってる」

「計算はうまくいってるのであるな? ひとまずは、湖から出ようぞ! しっかり、私に捕まれ!」


 湖の中で蔓と戦っていると、イミテが蔓を引きちぎり、俺を担いで宙へ浮き、地面へ降りる。

 地面に降りるなり、イミテは蔓を燃やしきり、追手を完全に消滅させた!



「助かった、イミテ」

「何か起きたのか、学園中あの強き光で噂になっていたぞ!」

「学園に戻ったら、説明するよ。とりあえず帰ろう、街へ。学園へ」





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