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第三十話 覚醒

「きゃあああああ!!!」

「シルビア?!」


 シルビアは叫ぶと身体をがくがくさせ、空で顔を押さえる。

「シルビアに何をした?!」

「姫――いや、我が女王は今、過去を見ておいでだ、ピュアクリスタルを貰う御礼代わりにな」


 シルビアの胸から宝石が生まれ、それは黒マントの男の手元に飛んでいく。

 シルビアは下ろされるなり倒れ、一瞬意識を失っていたが、俺が駆け寄り頬を叩くと。

 俺の顔を見るなり泣き始めた。ぽろぽろと涙を零し、まだ茫然としている。すぐに俺の顔を見て、俺の頬をぺたぺた触れ存在を確認するとほっとしていた。


「リーチェ………? っリーチェが生きてる!! リーチェ、ここは」

 普段のよそよそしいシルビアは消え、瞬けば辺りをきょろきょろしてから、銀髪に気付くと一人微苦笑を浮かべた。

「そう、そういうことでしたの。私、忘れていたのね」

「シルビア! どうした、大丈夫か?!」

「ああ……ここは二回目の……行かなければ。役目を、果たしてきますわ、リーチェ。私達ここでお別れね、仲良くなれなかったことだけが残念でしたわ、でもそれもきっとこの世界の運命ね」


 シルビアが可憐な……いや、無感情な笑みを浮かべ、涙を一滴だけ零し、俺を突き飛ばす。

 突き飛ばした瞬間、闇がリボン状にシルビアを包み込み、シルビアを覆い隠したと思えば、手がぬっと現れリボンを自らシルビアは引き裂く。

 リボンが引き裂かれて姿を顕わにしたシルビアの格好は変わっていた、赤いドレスに身を包む、ゲームのパッケージでよく見かけた敵キャラのものとなっていた。

 瞳は既に片目が赤く輝き、手元には水晶付きの杖を手にして、本を片手に持っている。

 男のもとへさっさか向かい、男が手にしていたピュアクリスタルを、シルビアは掴みとる。

 吐息のような溜息をつき、男をシルビアは睨み付けた様子だった。

 男は恭しい一礼をシルビアへ。


「赤きピュアクリスタルの魔王よ、ようこそ我が庭へ」

「さっさと参りましょう、メビウス。思い出させてくれて有難う」

「赤き我が魔王よ、それはいかんな。

貴様の願いは確かに叶った、だが俺様の願いはかなっていない」

「こうすればいいのね」

 シルビアは赤いピュアクリスタルを手にしてから宙へ投げ祈る――すると、世界中に赤いピュアクリスタルから光が走り、遠くから微かに魔物の声が聞こえるようになる。

 魔物を生み出したのか、呼び寄せたのかは判らないが、世界は混乱に満ちそうではある。


「まだまだ魔物の数が足りん、やはりあいつらのピュアクリスタルを手に入れねばな。絶望の声を聞かねば、我が力はあがらぬもののようだ」

「なら早くして、顔を合わせたくありませんの」

 あれ、こんなシーンあったけか……確かにシルビアが闇落ちまでは、おなじなんだが違和感だ。

 顔見知りのような雰囲気を醸し出して二人だけで話を進めていく。

 俺の視線に気付いたメビウスと呼ばれた男が、両手を仰々しく広げる。

「貴様らよ、親愛なる馬鹿馬鹿しいほどに反吐が出るクリスタルたち。

貴様らの持つピュアクリスタルを、寄越すといい」

「シルビア様、どうされたのですか!」

 キャロラインが動揺し、困ったように呼びかけるとシルビアは何かを思いついたように、キャロラインへ笑顔を向けて、視線は俺へ流し目を寄越した。

「どうもしません、ねぇ、キャロライン様。私、リーチェが好きよ。だから、貴方には絶対にあげたくないの。メビウスは、世界征服を手伝えばリーチェは私にくれるのよ。

だから、私はメビウスの、そこの銀髪の味方よ。もう……学園にも戻らない。ピュアクリスタルを集めれば世界征服できて、望みは叶いますの」


 何が起きている?

 俺が見たことない展開が混じっている。

 シルビアが世界シナリオを把握しているうえに、口調やら視線は俺に説明しているようだった。

 だから邪魔をするなと。

 この世界は確かにここから、学園モードとRPGモードがあり、RPGモードではシルビアが完全に悪役だし、お邪魔キャラだが。

 システム説明は、ピュアソムリエの仕事だ。

 ピュア連呼シーン爆笑していたから、覚えている。

 なのに、説明になりきれない説明を、シルビアがするなんて!



「さあ、メビウス、早く始末して」

 風格は、魔王そのものだ。

 メビウスは愉快そうに、面妖な表情をしているだろう俺に笑いかける。


「不思議そうな顔をしているな、ピュアエリクサー」

 俺、エリクサーなのかい! というつっこみをわく気力すら起きない。

 やたらと眠そうな表情のメビウスは、俺に話しかけているという意味合いで指さしてくれた。わかりやすうい。

「そりゃ状況が……分からんが、シルビアがお前に拐われそうなのは、分かるよ」

「簡単だ、彼女は聡明で賢く思い出すなり手足となった、忘却した貴様は愚かだということだ、さあピュアエリクサーは置くとして。最たる愛のキャロラインよ、此方へこい。ともに、世界を制そう、我が名はメビウス。お前の運命だ」

「何が運命なものか、全然分からないよ!シルビア様を返して」

「シルビアを返してもよいが、リーチェを取られても良いのか? 貴様とて、そのバカな面が好きだろう、俺様には憎らしいがな? 俺様からの提案は、ただ一人にしか与えられぬ。

乙女達よ、そこの生きた復活薬を手にしたくば、俺様に忠誠を誓え。

復活薬を助けられるのは、俺様だけだ。復活薬は、使用した後にくれてやる」

「なあ、待ってくれ、なんで俺があんた次第なんだよ!」

「キャロラインの神、いやこの世界の神か。そいつに関係するのが貴様であるかぎり変わらぬ方程式だ。うるさい薬だな、少しずつ黙らせてやるか!」

 質問ばかりで苛ついたらしいメビウスが、ぱちりと指を鳴らすと先程の人食い花が、むくりと起き上がる。

 怒れる人食い花は、まっさきに俺を襲ってきたが、先にディスタードが蔓を切り裂いた。

「何がなんだか解らないがね、これだけは言えるよ。

人は物じゃないし、リーチェ君は復活剤とやらじゃなく、人間だ!

所有者を決めるのは、いささか変だな!」

 ディスタードの言葉にメビウスは目を眇めて、驚嘆の色を瞳に宿したが、残忍に笑い、ディスタードを蔓で拘束する。


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