第二十七話 我が主人
「私に炎で向かおうと? 馬鹿にしてるのですか?」
「いいや? 私はただ、純粋に力の負かしあいをしたいだけだよ、単純であろう、炎が押し負けたらそれで、敗者が決まる。実に単純で、時間も簡単に収まる」
「――真っ向勝負がお好きなのは貴方様のサガなのでしょうかね、判りました参りますわ」
火の鳥は真っ赤な炎。
イミテは盛大に、豪華な金色の炎を作り出した。
互いに、炎をめらめらと上空にかき集め、ふよふよと漂わせていた炎の欠片たちが集まり、集結していくとごうごうと物凄い勢いの炎になっていく。
「リーチェ、気持ちは有難いけど、これ止めて負けを認めた方がイミテさん火傷しないよ!」
「火傷しないかわりに、主人は信じてくれなかったという傷を負うから、それはしない。負けるわけない、うちのイミテが負けるわけねーんだ。負けと解りながら受ける勝負なんて、ただの茶番だろ。お互い真剣だから意味があるんだ」
炎が二階建て建物の屋根の高さにまで膨れあがる、熱量は相当なものだ。
「イミテ」
「何だ、気が散るぞ」
「勝ったらご褒美にふわふわケーキ食わせてやる!」
「言ったな、小僧」
にやりとイミテは悪役のような笑みで笑いかけ、炎をより燃えさからせる。
燃えさかった炎が火の鳥へ向かう――火の鳥は、冷たく一瞥した。
「馬鹿なお人、炎は私にきかないのに、炎に押し負けさせようだなんて」
「では何故引き受けた、この方法で」
「私に有利だから、貴方と違って――!」
火の鳥は両方の火を合体させて、自らの両手のうえに掲げた。
掲げて、イミテへ向かって放つ――このままだと火傷だ、肌が焼ける匂いもするだろうし、ちりちりと焦げる音もするだろう。
現実であればとっくに目を背けたくなる光景だ。
だけど、何故か俺は目を背けなかった――イミテが、あの時笑っていたから信じていたんだ、負けないって。
イミテは投げられた炎を、麺を上品に啜るように喰らい尽くす。
けふ、と少しげっぷのようなものが出れば「失礼を」と茶目っ気たっぷりに、微笑む。
「有利なのは私もだよ、奇遇だな火の鳥。……――して、より強き炎を受ければ、貴殿はどうなるのであろうか、楽しみだ」
「何ですって?!」
「腹の中で製造されておる、ほうら、これが炎の欠片だ」
イミテは唇から炎を少しだけ垂らし、指先に集めた金色の――マグマを、地べたに垂らすと地べたは、少しだけ溶ける。
火の鳥は、自分が炎で溶けるなんて屈辱とせめぎ合っているのか、アッシュを見やる。
「アッシュ様。ご主人様! どうかお願い!」
「駄目だ、最後まで闘え」
「火に負けるなんて屈辱嫌よ、お願いだから!」
「アルベル、いいか、そんな情けない言葉のほうがよっぽど恥ずかしい――仕方あるまい。おい、イミテとリーチェ。此方の負けでいい、だからその下品な炎をしまえ――お前本当に人間なのか?」
アッシュに問われるとイミテはにっこりと笑いかけた。
「大賢者の娘であるぞ」
嘘吐け、口から出任せが活き活きとしやがって。
審判はそれまで、と旗を降ろす。
イミテが俺の元に戻ってくれば撫でてやろうとしたが、イミテが先に制す。
「暫し近寄るなよ、私は今、熱度が高く地中の火のごとく体温だ、触れば火傷だけですまぬ」
「ばっか俺を誰だと思っている」
「お前様――? ああ、そうか、お前様は……」
俺の体はバッドステータス無効であるならば、火傷だって負うわけがない。
信じ切って、イミテに触れると確かに熱くて痛くて皮膚が張り付きそうになるが、堪えて。焼けそうになっても、撫でてやれば。
イミテは安堵したように情けない笑みを浮かべた。
「お前様は、我が主人なのだった」




