第二十三話 スタートダッシュ
シルビアの去り際の真っ赤に染まった嬉しげな表情が忘れられず、ぼーっとしていると、イミテがまた尻をぱしんと叩き正気に戻してくれた。
キャロラインは、じ、と蜥蜴のような何を考えているか判らない瞳で此方を見つめている。イミテはキャロラインの手前、人間の主従らしい振る舞いをした。
「しっかりしてください、ご主人様。それぞれが作戦練る様子ですね、あそこにマップが配られています。参りましょう」
「ああ、そうだな!」
イミテの言う通り、先の方に皆がマップを手にしている配布箇所があった。
マップを取りに行き、俺とイミテとキャロラインは顔を見合わせる。
キャロラインは、お菓子の材料の数々に心躍るらしい、流石女の子。
「苺、キウイ、スポンジ……それからクリーム、これで素敵なお菓子が出来そうですね」
「問題は、甘王祭のお菓子ってあたりです。そこを意識するなら、多分そのケーキは良くも悪くもない。いや、もしも――加えるなら……」
スポンジの代わりに、ザーラという果実を越した時に出来る液でゼリーにして、果実を纏めるというのも悪くはない。
というか、それが正解だ、あの国は透明感ある菓子を推奨していたはず。
マップを見れば、ザーラがヘリオスの森にあったので、これで間違いなさそうだ。
「キャロライン様、スポンジ以外はその狙いで行きましょう」
「うん! 他に何か心当たりはあるの?」
「あります。ルート計算できますか? この材料を取りに行く時間計算」
「苺は数が多いけれど人気あるし、個数が必要だから、一番最初だね! キウイは二番手で大丈夫。クリームも取り合いにはならないけれど、一番遠いから最後だと私は思うよ!」
「オーケイ、じゃあ姫様、耳を寄せて。あのね、最後の材料は――」
キャロラインの耳元に顔を寄せて、こしょこしょと材料を伝える。
キャロラインは顔を真っ赤にしていた物の、照れながらはにかみ、頷いた。
「いいね、美味しそうだよ、私も食べたいな!」
キャロラインときゃっきゃと和んでいたので気付かなかった。
後でイミテが教えてくれたんだ。
「ロデラが物凄い形相で、お前様を睨んでいた」と。
*
学園の外――城下街では、活気が溢れ、賑わいが見える。
旅行客や、この祭の為に顔を出した観光客目当てのスリがいたりもするが、自警団が守ってくれている。白い制服をびしっと着て敬礼していた。
俺達も衣服を、今日より本格的に学園の生徒だということで、制服を与えられていた。
白いブレザーに、アクアマリンのようなブルーをあしらったものだった。
女性はブルーの制服に、白いブラウスをあしらったものだ。
短いスカートになれていない故か、気恥ずかしそうな姿がたまんねぇな!
イミテも制服を貰うなり、自慢げに着て見せてくれた。
「どうだ、お前様! 可愛かろ?!」
「そうだな、似合うよ、可愛い可愛い」
笑って頭を撫でていると、キャロラインが、ついと俺の制服を引っ張り。
「わ、私は?」
「似合う、可愛いよ」
と笑うと、喜んだ。
いやー、妹としては実に可愛いンだけどなぁ!! 妹だとしたら、写真連写するくらいには懐いてくれてるの嬉しいんだけど、この眼差し気恥ずかしいな!!!
ぽん、ぽん、と時折祝砲のような魔法が街を奏でて、街は大変盛り上がっていた。
皆は契約獣にのって移動するようだったので、俺とキャロラインとイミテは白い子供のドラゴンに三人乗り。
少し乗り方が、馬のようになる、面積的に。
「重くないか?」
「うちの子は頑丈だから大丈夫ですよ! あ、合図の花火が城から見えました、スタートですよ! 行きましょう、リーチェ様!」
前方に高い土地でそびえ立つ城から、確かに花火が見えた、皆はそれをスタートに契約獣にスタートを任せていた。
誰よりも早かったのは、グリフォンに載ってるディスタードとシルビアだった。
「ディスタードてっめ!」
「金貨二百枚が、更に追加されたらとんでもないことになる! すまない、リーチェ君、僕らの友情はそれでも永遠に不滅です!!」
「ライバルはディスタード様だけだと思って貰っては困るな? リーチェ殿」
ぶおっと物凄いスピードでカッ飛んで、ディスタード組を追い越したのは、アッシュだった。
アッシュは俺を追い越すと一瞬だけ遭った瞳が愉悦の眼差しであると同時に、嫉妬が見えていた。




