第十一話 ライバルイベントは八つ橋で。
次の日、学校に一緒にイミテと校舎へ向かえば、人の白い目が俺に纏わり付く。
俺が、黒龍を助けたというのは何処かに噂が流れてしまったようで、まぁそれもそれでしょうがないか、あれだけ大きな物音がしたしな。
皆は白い目で俺を見るか、黒髪美少女のイミテのでかき胸に目がいくかのどちらかだった。
二通りの見方でも、どのみち混乱はしているのだろう。
ひそひそと何か陰口は聞こえる、まぁ特に気にしない。
俺は特別悪いことをしたつもりはねぇし、イミテ自身を助けてよかったとさえ思っている。
元から俺の国の評判は悪いものでもあるので、国の悪口だけは面倒だなぁと思いつつ、授業に必要な教材や資料の確認をしている。
イミテは苛ついた様子で、陰口する連中を睨み付けては、目が遭い鼻を伸ばした連中からふいっと視線をそらす。
隣を陣取っているイミテは、俺にこっそりと耳打ちをする。
「面倒なことこのうえない、動きづらいな」
「だな、まぁ適当に学校や俺に合わせてくれると助かる」
イミテとこそこそ話をしていると、真っ先に話しかけてきたのは、シルビア姫様だった。
「ごきげんよう、リーチェ様」
礼儀正しくシルビア姫だけは挨拶してくれて、真っ向からイミテを見つめるなり、「どなた?」と問いかけてくれた。
クラスのざわつきに気付けば、シルビアは目を細め周囲を睨み付ける、途端に蜘蛛の子を散らすように人々は自分の教室へ帰っていった。
イミテは真っ向から問いかけてくれる人物がいるだけで、ほっとした様子であった。
「リーチェ様の側仕えに御座います、お見知りおきを」
「頭をあげていいですわ。お名前は何と申しますの?」
「イミテ、と申します」
「そうですの――私はシルビアと申しますわ、宜しく、イミテ。ねぇ、ところでリーチェ様、今日のお昼ご一緒に如何?」
「!? シルビア様、あの大変申し上げにくいのですが、注目を浴びますよ……」
というか、浴びちゃっているけど。
気付け、気付いてくれ、俺にこのまま接し続けると、貴方よくない噂に巻き込まれますって!
「私もご一緒したいです、御機嫌よう皆様!」
「あら、キャロライン様、御機嫌よう」
つかつかと歩いてくるなり、キャロライン姫はイミテとは反対側の俺の隣に座る。
迷いも躊躇いも作法もなく座る様子に、シルビア姫は、少しむっとした様子だった。
あー……はいはい、これは、あの。
ライバル機能が発動してるんだな!?
シルビア姫は確かあのゲームだと悪役令嬢であったから、キャロライン姫と張り合うはずだ……参ったな、更に面倒なことになるのか。
「キャロライン様、リーチェ様に近づかないようにされたほうが宜しいのではなくて? 貴方様は昨日、それで説得をされた方でしょう?」
「――あの後、何度も後悔したの。私、間違っていたのかなって。……心にこんなに引っかかるってことは、きっと間違えていたのよ。あんなに真っ直ぐに、助ける行為ができるリーチェ様が不吉なわけがないもの!」
「あら、素晴らしい考え。でもね、キャロライン様。それって、自分の罪滅ぼしみたいな行いに見えましてよ? それにその時一緒に判断した私やお兄様も、間違っていると定義付けられたみたいで気分は宜しくないですわね」
シルビアの言葉に、キャロライン姫は、うっと言葉に詰まって涙目でじっとこっちを見やる。
助けて欲しいってことなんだろうか、女の子に関しては初心者に近しい俺はどうフォローしていいか判らないよ……!
乙女ゲーでありそうな話は、ええと、好感度をさげないように……いや、でも最終的にヴァスティを選んで貰わなきゃ困るンだから、どう言えば正しいんだろ?!
「その時その時正しいと思った行為を、どちらもされたのですよ。今も、お二人は意見は違えどお互いに正しいと思う行いをしている。それでいいのではないでしょうか」
考え込みながら、「それぞれいいところあるよ!」を八つ橋に包んでみたら、物凄く納得され、シルビア姫とキャロライン姫の二人からは頷かれた。
妹よ、乙女ゲーを貸してくれて有難う。
日本よ、過去に住まわせてくれて、有難う。




