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第十話 面白き主殿

「ヴァスティ、一つ聞きたい」

『何だ?』

「お前さ、キャロライン姫を好きか?」

『――この世界で、一番大事で可愛らしい方だよ、あの方さえ幸せになるのなら、何もかも惜しくない』


 そうだな、それが聞きたかった。

 お前が自己犠牲する姿、嫌いじゃなかったんだ、ゲームの中では。

 最初、どうしてこいつ必死にサポートしてくるんだろうとか、永遠の二番手野郎とか、ゲームしてるときは笑ってた。

 けど、実際接して見て成る程、これは腹立つものだ――と、納得した。



「ヴァスティ、こっちのことはきちんとするが、四六時中となると最初から牢獄で監視されてる気分だ。なァ、定期連絡じゃァ駄目か? 定期連絡のときだけ、連絡したり会話聞いたりしてくれ」

『水晶が、不穏な動きをしている。読めない動きだ――また未来が変わった、お前が何かを決意した結果でな。何を考えていた、リーチェ』

「今は俺が何を言っても信じないだろ、良い物だっていっても」

『確かに。それでは、定期連絡というものに期待しよう。二日に一回。一晩だけ連絡を寄越すように。悪いが連絡に使うから、鈴はつけたままだ、それではまた会おう』

「何だと!? こら、待て、この神もどきが!」

 黒龍が手を伸ばし、転びかけたので、俺が咄嗟に支え、抱き寄せた。

 黒龍は途端に大人しくなり、顔を真っ赤にしてから、ばっと俺を突き放した。


「お前様、何を考えている? 主従に隠し事は良くないものだ」

「……ヴァスティに絶対にばれないように、オレの心を読めるものなら読んでくれ。そういう術があるなら、今だけは読解していい」

「……――ばれたくないのであれば、あいつの近づけない邪悪な結界でも張れば良い、清廉な魔力を持つ者は聴けないだろう」

「そんな技あるのか?」

「私をあなどるなよ、見てろ」

 ふわんと風もないのに揺れる黒髪、ふよふよと揺れたかと思えば、イミテの指先に集う水色の淡い光は一気に赤みを帯び、ぶわっと床から半円形状の形となり、オレとイミテと包み込んだ。空気はどこか、澄んでいるが、鼻ですんと嗅ごうとすると錆びた匂いがする。

ぺたりと透明だけれど色の付いた包んでいる壁に触れれば、ガラスみたいに冷たい温度だった。

 イミテに向き直ると、イミテは胸を大きく揺らし、威張った。

「さぁさぁ、話してみせよ」

「……このままヴァスティの言う通りに、他の王子とキャロライン姫様をくっつけると、キャロライン姫様は幸せかもしれねーけど、ヴァスティは幸せになれないんだ。下手したら死ぬ」

 ヴァスティルートは、一度他の王子のルートに入ってからが本番だった気がする。

 オレはクリアしてないから、何とも言えないが、このまま本当に他の王子に一本線であるならばヴァスティルートはないが、確かヴァスティって行方不明になるんじゃなかったっけか……。

 あまり、好ましくない。ヴァスティルートだけは特殊だったんだ。

 ヴァスティを攻略するために、一度時間をループする必要がある。

 死んだヴァスティを見つけるなり、対処が早めに出来ていないと、タイムアップでヴァスティがホントに死んだままになるんだよな。

 オレがプレイしたルートは、バッドエンドだったから、死んだままになりキャロライン姫様も国外追放となっていた。


 それをどうやって説明したものかと悩んでいると、イミテは、じ、とオレを見つめてから、ふぅと息をつく。


「お前様はなぜだか未来を知っている、そうだな? あの清廉な魔力とは違う、力の在り方である、未来の知り方をしている、相違ないな?」

「うん、それに抗おうとしている」

「ふっふっふ、私は良き主人と巡り会えたようだな、退屈のない時間となりそうだ! あの者は死に神の気配がする、されどそれを追っ払おうというのか?」

「もう既に死に神の気配とやらが、イミテには見えるんだな? できれば、そいつにはお帰り願って、ヴァスティにはキャロライン姫様と結ばれて欲しい。その為に何ができるかを、考えているんだ」

「まぁ待て、キャロライン姫とやらの気持ちがおざなりだ、あの姫様にとって問題はヴァスティがどういう存在であるかというのも大事だ。それを見てから、というのも良いのでは?」

「でも、今のままだと、キャロライン姫は俺に惚れてるんだよ、ヴァスティ曰く」

「――改めて聞くが、お前様はキャロライン姫へ想いはないのだな?」

「うん、妹みたいにしか思えん」

「宜しい、そうであれば手伝おう。まずは、……お前様は他の王子を知っているか? その婿候補とやらを」

「アルデバラン王子以外は知らないなあ、友達作りがてらに仲良くなるか」

「うむうむ、小さきことからまずはやっていこう、いきなり大きな目標を立てるのは良いが、いきなり大きい物事は起きぬ。小さき石を起き続けてからこそ、人は躓く。躓いた後に、立ち上がらせよう、キャロライン姫も、あの苛つくヴァスティも」


 少し驚いて、澄んだ瞳のイミテを見つめる。

 イミテは小首を傾げる、傾げる姿は年頃の儚い美少女らしいが、どうにも勇ましいなこの龍の気心は。

「……なんというか、素の自分を偽らないでいい時間て、大事だなっと。……有難う、イミテ。偶に相談に乗って貰ってもいいか?」

「違う、誠に違うぞ、主殿。こういうときは、有難うも正しいが、こう言うのだ」


 イミテは大きく腕を広げ、俺をそっと抱き寄せ、大きな胸に埋もれさせる。

 息できねぇほどに力強いので背中をばしばし叩くが、何処か暖かい気持ちになる。



「助けてくれ、友よ。とな」



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