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第九話 清楚なる魔力

 イミテは室内を見るなり、鼻を犬のように小刻みに動かし、室内を睨み付けた。


「魔力の匂いが強い。清く一切も淀んでない魔力だ」

「それって逆に過ごしやすいんじゃ……」

「過ごしやすくなる頃には、私は白き身になっておるよ。鈴の主を呼べ、お前様」

 俺は言われるなり、鈴を指先で弾くと、ヴァスティの声が聞こえた。

 ヴァスティはげほげほと咽せていた――こいつ、また病悪化してねぇかな。

『リーチェ、お前はほんっっとう、こっちの計画を狂わせてくる! 姫様の本命が今は、お前だ!』

「マジかよ……えー? どうしてヨ」

『姫様は! この世界にて龍やドラゴンを一番に考えている。この国は、龍騎士もいるくらいだからな。幼い頃は龍騎士になりたいなりたいと五月蠅くて可愛いもんだった……はぁ、そんな御方が我が身可愛さに龍を見捨てる王子と、我が身をほっといてでも龍を選ぶお前を見ればどうなると思う!?』

「お褒めにあずかり光栄デス」

『怒りもここまでくりゃあっぱれだ。で、そこにいるんだな、黒龍』

「――……其方の名は何だ、私は以降イミテと名乗ろう。何者だ?」

『絶対的な予言者と言えば伝わるか?』

「……絶対? 絶対ではないではないか、その様子だとリーチェを予想できなかったのであろう?」

『そいつはくそむかつくイレギュラー! 下手な動きして、姫様の邪魔をしてほしくなかったから、鈴をつけた』

「なるほどなるほど、判った――人間でいうところの、神だな?」

『へ?』

「絶対に裏切らない未来を全て知っているのであれば、それは神ではないか」

『……――はー……ずばりと、指摘されたの、久しぶりだ。神になれない人間が、神の能力値だけを持っているって言えば伝わるか?』

「伝わる、成る程キャロラインという娘、さほどの運命を抱え込んでいると見受けられる。して、私としてはリーチェは選んでは欲しくない」

『それはオレも。リーチェと結ばれると、姫様は城から旅立ってしまうしな……世界も良くも悪くもならん』

「ふむ、ならば確かにリーチェは関係ないというのは判った。しかして、この鈴は気に喰わん!」

『そう言うなよ、オレだってお前の存在は気にくわないぜ? 面倒な出来事に、姫様をリーチェに惚れさせる切っ掛けとなったお前が言うのか? あ?』



 俺越しにヴァスティを睨むのはやめていただきたい!

 身が一気に冷える気持ちになる……!

 鈴から溜息混じりの咳が響いた、眉を顰めてイミテは目を細める。


「病か、貴様」

『ノーコメント、兎に角、姫様をアルデバラン殿下とくっつけるよう、引き続き頑張ってくれ給え、でなければお前は牢獄行きだ、リーチェ』

「何か、何かヒントくれよ! 俺攻略本とか読まずにいたから、他の奴のフラグ覚えてねぇんだよ!」

『……意味は、よく分からんが。神託をお前に出ている、おかしいな。シルビア姫は最初、よくない者としてしかどの婿候補にも出ていたのに、お前にだけはそれこそ吉兆の証であるみたいだ。シルビア姫と仲良くするといい』

「他のおなごに、リーチェは近づかせぬぞ」

『身分を弁えろ、黒龍。アンタはそりゃあそりゃあ人間に比べりゃすげェ生き物かもしれねぇけど、今はただのリーチェの召使いだ。小国の、第三王子の、召使い。判るな?』

「判らぬ。身分が低いから立場を弁えるという発想があるくらいならば、最初からもっと高貴な身分を申し出るに決まってるであろう? それでも、尚、この立場を選んだ私の気持ちを理解しろ。判らぬであろう、それくらい面倒な言葉を貴様は言っている」

『龍がこんな屁理屈な言葉使うのは初めて聞く。リーチェ、兎に角、後は任せた! オレは他の王子たちの未来や、この国の未来をまた予言し直して記す。いいか、頼むぞ、本当に姫様の恋路と、お前の手腕にかかっているんだ』


 何となく。


 本当に何となくだけれど。

 この世界に来て初めて、きちんと俺自身に助けてくれと、言いつけられた気がして。

 オレは、申し訳なくも、笑いながら返事しながら心の裏では違うことを考えていた。


「任せてくれ」


 そんな言葉を言いながら、俺は――ヴァスティ自身と、姫様をくっつけたいと。

 ヴァスティはこのままいけば死ぬ。キャロライン姫ときたら、ヴァスティの言うことを何一つ聞いてない節がある。

 そのままいけば、国外追放だ。俺とくっつけば、まだマシくらいな未来である。

 アルデバラン殿下とのルートは確かに正規ルートだし、国の未来も大変輝かしい。


 ただ。


 ただ、何となく、ヴァスティはどうなるんだ、と過ぎった。

 このまま姫様と他の王子がくっついて、国の未来について安全が保証されたらその後。

 ヴァスティは何を求められる? 病を抱えたまま、癒やしもないまま予言し続けるのか。

 そんなのって、何だか寂しい。

 何より、最初に俺にこの世界にいる意味を作ってくれた気がするんだ、目標もなくだらだらと暮らさずに済んだのはヴァスティのお陰だ、命令や損得勘定だったとしても。


 なら、そうだな。


 ヴァスティを裏切りながら、ヴァスティが助かる策を一番に考えよう。

 その最たるが、キャロライン姫とヴァスティの縁だ。



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