とりあえずぶるった(色々な意味で
木崎夏帆璃視点
目を覚ますとそこは――、どこか懐かしく感じる景色が広がっている。
見上げた先には煉瓦りの塀と、さらにその上には二つの月と太陽が覗いて、改めて下に目を向ければ、私は汚い用水路の真ん中にただ――突っ立っていた。
「……ここでも真夏ような暑さが照りつけて……いる??……」
汚ない水面に耳の長い秀麗な顔が映る(エルフ!?)妙にリアルなじっとり汗ばんだ肌、冷たい水の感覚、そこに、紛れもない異なる世界が広がっていた。
「はぁッ!? なにこれ」
ここが夢ではない戸惑いよりも、明らかな突っ込みが溢れて声になる。(おいいッ!! テンプレってわかるか?? なんで幼少期も無く転生してんだよぉ)心の中で絶叫した。
それにしても、中世的な顔立ちで「女ですぅ」って言い張れなくは無いけれど、性別違ってるよね!? よね!?
「奴隷はよぉお! さっさと仕事しねぇか!」
(うっさいわね!! いまはそれどころじゃないのよッ!!)
汚い用水路の真ん中に、ただ突っ立ってる私を、煉瓦造りの高い外壁から見下ろしているその毛むくじゃらの男はまるで、人ではないと言わんばかりに毛が濃いかった。
「なんなんあいつ!! 毛濃いにもほどがあるのよ」
何故だろう……、このやり取りを何回も客観的に見ていた!? そんな気がする。そして私は、この既視感の理由を知っていた気がする。
「これ……」
私がやっていたゲーム『君の為なら死ねる』の――
ここは私の愛用したアランハルトの回想シーンで良く出てくる場所、まさかガチャキャラ視点の方で私がここに立っているなんて、
「これってリアルの私、画面の前にいるの?? それとも……」
昨日の最後が全く思い出せなかった。一瞬で暑さなんか忘れて、周りの音だけが大きい、そして冷く真っ青な自分がいた。静かで、そこは、ひんやりと用水路に流れる水を感じる、そんな何所か。
これが転生だとするのなら、転生先が『なのね』なのは不運中の幸いなのだろう。まだ、私が良く知る世界なのだから……。しかし、このアランハルトというキャラは、決して強キャラではない。まぁ勇者だけいればクリア出来てしまう糞ゲーなんだから、勇者がいないとクリア出来ないといわれる神話ゲーなんだから
「ガチャキャラになれたから何だってのよ。ここではそんなの――なんの――」
このゲームは勇者が辻褄を合わせるような強さになっているせいで、まるで開発案を寄せ集めたような投げっぱなしのガチャになっている。
盗賊のJOBってのがまず不遇。
続いてエルフってのがさらに救われねぇ。
そしてこいつ、盗賊なのに短剣装備できないんだなぁ……戦闘力皆無に近いし。
勇者がいればクリアできちまうゲームなのに、公式がどうしてこうもシビアにガチャキャラを調整したかは分からない。死ねばキャラクターはリセットになる世界なわけで、入手フラグ(つまりガチャ)には課金が必要になる。それでも僅かにでも、ガチャキャラに可能性を見いだすのなら、カリスマスキルを持ったアランハルトを含めた構成だと繰り返し攻略した経験で感じていた。
だからこそ、
「完全に、私の異世界生活は詰んだw」
中二不登校が転生して『転生したキャラは、カリスマキャラでした』とかラノベかよ! と突っ込みたくなるほど、あの人生経験がほとんど無いこの私が、カリスマ(笑)だけで生きて行くとかどんだけ私はネタなんだぁ。少し低くなったそれでも中世的な私の声が、どこまでも澄み渡る空に吸い込まれていくのだった。
子供の頃に戻りたくても戻ることが出来ない。
それは、ゲームに入りたくても入ることが出来ないのと同じなのだと思います。
木崎夏帆璃