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91 告白(2)

「これは……」

 スーラ大公は言葉を失(うしな)った。

 一瞬、ウルスがふざけているのかと思ったが、目の色の違いだけでなく、その声や仕草(しぐさ)などは全(まった)く女であった。

 何より、その物怖(ものお)じしない真(ま)っ直(す)ぐな眼差(まなざ)しは、先程(さきほど)までのオドオドしていたウルスとは、別人のものである。

「ご説明させていただいても、よろしいでしょうか?」

「お、おお。お願い申す」

 ウルスラは、正直に自分たち姉弟(きょうだい)の秘密を打ち明けた。

「これが、先祖(せんぞ)からの因縁(いんねん)なのか、或(ある)いは、未知の病(やまい)なのか、それはわかりませぬ。確かなことは、ウルス同様、わたしウルスラも一人の人間である、ということのみ。然(しか)れども、このことが知られれば、わたしは魔女として火炙(ひあぶ)りとなるやもしれませぬ」

「いや、そうはなりますまい」

 スーラ大公は優(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。

「王女のお話を聞く程(ほど)に、その並外(なみはず)れた知性と気品が理解できます。正(まさ)に、王女。賤(いや)しい魔女などではあり得(え)ませぬ」

「ありがとうございます。本来なら、政治や外交のことは弟に任(まか)せるべきでしょうが、火急(かきゅう)のことにて、しゃしゃり出ました。意見を申し上げてもよろしいですか?」

「無論(むろん)でございますとも。どうぞ思いの丈(たけ)を存分(ぞんぶん)に」

「では、申し上げます。今回のガルマニア帝国の要求、誠(まこと)に理不尽(りふじん)極(きわ)まりなきことながら、大公殿下(でんか)に置かれましては、速(すみ)やかに要求に従って、わたしたちの身柄(みがら)をガルマニア帝国にお引き渡しくださいますように」

 大公の顔色が変わった。

「な、何と申された? かの悪逆非道(あくぎゃくひどう)のガルマニアに、わが国に庇護(ひご)を求めて来られた王子、あ、いや、王女を、みすみす渡せと言われるのか?」

 ウルスラは静かに頭を下げた。

「はい。それ以外に、お国にご迷惑をお掛けしない方法は、ございません」

「さ、然(さ)れど」

「構(かま)いませぬ。バロードがガルマニアの自治領であった頃なら、王家の血を引く者は反乱の火種(ひだね)となりかねませんから、生命(いのち)の危険もあったでしょう。しかし、カルボンが叛旗(はんき)を翻(ひるがえ)した今、ガルマニア帝国がわたしたちを連れ去る目的は唯(ただ)一つしか考えられません。王家の正当な後継者として擁立(ようりつ)し、傀儡政権(かいらいせいけん)を作ることです。従(したが)って、それまで殺されることはないでしょう」

 大公は大きく頭(かぶり)を振った。

「いや、それはいけませぬ。失礼な言い方だが、幼気(いたいけ)な子供を人質に出して国難(こくなん)を逃(のが)れたとあっては、末代(まつだい)までの恥(はじ)。敵(かな)わぬまでも一戦(いっせん)交(まじ)えた上で」

「いえ、それはご心配なく。わたし、というよりウルスの方から望んだことにします。国を簒奪(さんだつ)した憎(にっく)きカルボンに鉄槌(てっつい)を下(くだ)すため、寧(むし)ろ、こちらから力を借りたいと申し入れるつもりです」

 大公は天井を向いてフーッと長い息を吐(つ)くと、悲しそうな顔でウルスラを見た。

「王女に倣(なら)って、正直に申し上げる。誠(まこと)に情(なさ)けない話だが、ホッとしました。ガルマニア帝国だけでも手に余る相手であるのに、明らかに暗黒帝国マオールも協力している状況です。カリオテ如(ごと)き小国など、忽(たちま)ち捻(ひね)り潰(つぶ)されたことでしょう。しかし、本当にそれで宜(よろ)しいのですか?」

 ウルスラは、気丈(きじょう)に微笑(ほほえ)んで見せた。

「大丈夫ですわ。先程(さきほど)申し上げたことは、満更(まんざら)嘘(うそ)でもありませんの。辺境伯(へんきょうはく)までカルボン側(がわ)に付いたとあっては、これを倒(たお)せる勢力は、最早(もはや)ガルマニア帝国より他(ほか)にありません。わたしは、いっそこの際、きゃつらを利用してやるつもりですわ。それに、急いで中原(ちゅうげん)に戻りたい理由(わけ)もありますし」

 スーラ大公は、目に薄(う)っすら涙を浮かべ、何度も頷(うなず)いている。

「なんたるご立派(りっぱ)な心構(こころがま)え。いや、感服(かんぷく)仕(つかまつ)った。さすが、バロード王家の王女殿下。カルス王亡(な)き後(あと)、王家再興(さいこう)はあなたの手で為(な)されることでありましょう。その際には、微力(びりょく)ながらわがカリオテ大公国も、必ずや馳(は)せ参(さん)じまする」

 ウルスラは「ありがとうございます」と礼(れい)を述べながらも、微妙に強張(こわば)った表情になった。

「ですが……」

 大公がやや気色(けしき)ばみ、「わが国の手助けは、ご迷惑か?」と反問した。

 ウルスラは困ったように、「いえ、そうではないのです。実は」と答えた。

「わが父カルスは、生きている、ようなのです」

 大公の顔が、驚愕(きょうがく)に歪(ゆが)んだ。

「ま、まさか、そんなことが……」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 91 告白(2)まで読みました。 草むらというのは「草叢」と書くのですね。知らなかったので、勉強になりました。 人食いザリガニだらけの河に飛び込むというのはかなり危険そうですね。 苦虫を噛…
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