↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/1520

83 リード湊の攻防(5)

 スカンポ河に向かって進軍しながらも、『暁(あかつき)の軍団』団長のバポロは急ぐつもりはなかった。

 うかうかと得体(えたい)の知れない蛮族の帝王とやらの誘(さそ)いに乗ってしまったものの、少しでも形勢(けいせい)が不利(ふり)と見れば、知らぬ顔で逃げようと思っている。

 下手に加勢(かせい)してバロード共和国まで敵に回せば、徒(ただ)でさえ減ってしまった縄張(なわば)りすら、維持(いじ)できなくなってしまう。

「そんな危険を冒(おか)す、恩(おん)も義理もないからな」

「は? 何かおっしゃいましたか?」

 部下に聞き返されて、バポロは始めて自分が独(ひと)り言(ごと)をいったことに気づいた。

「ああ、いや、何でもない。ふむ、そろそろ河が見えて来る頃合(ころあ)いかのう」

「もう少しでございますね。何でしたら、少し進軍の速度を上げますか?」

「いや、このままでいい。それより、斥候(せっこう)はまだ戻らんのか?」

「はっ。もうじきかと。おや、あれは何でしょう?」

 部下が示(しめ)したのは上の方であった。

 ヒラヒラと白いものが飛んで来る。

 蛮族の帝王の使いと名乗った白いコウモリ(ノスフェル)である。

 バポロは渋(しぶ)い顔をした。

「催促(さいそく)に来おったか」

「は?」

「よい。余(よ)が話す。暫(しば)し行軍(こうぐん)を止(と)めよ」

 部下は首を傾(かし)げながらも、「御意(ぎょい)!」と応(こた)えて、全軍に停止を命じに行った。


 その間に白いノスフェルは、バポロの馬の頭に留(と)まった。

 不思議なことに一向(いっこう)に馬が嫌(いや)がらない。

「状況が変わった」

 当然、早く来いと言われるだろうと身構えていたバポロは、不審(ふしん)な顔で聞き返した。

「状況?」

「北方警備軍の援軍(えんぐん)が河から上陸して来た。大(たい)した数ではないが、バロード機動軍の士気(しき)が回復した」

「それで、早く助けに来いというのか」

「違う。逆だ」

「逆?」

「これ以上湊町(みなとまち)に留(とど)まっても、意味がない。戦力を消耗(しょうもう)するだけ無駄(むだ)だ。予定より早いが、おぬしの城に入り、態勢(たいせい)を整(ととの)える」

 バポロは顔を顰(しか)めた。

「随分(ずいぶん)身勝手(みがって)な話だな。余の城を何だと思っておる」

「目印(めじるし)」

「はあ?」

「これから蛮族は北方を捨てて中原(ちゅうげん)に移動する。その目印が必要だ」

「意味がわからん」

「わからずともよい。われらは総勢二万。それがおぬしの城に集結(しゅうけつ)するのだ。おぬしは労(ろう)せずして実質的な領主となる。その後(のち)、バロードを攻略(こうりゃく)する。そして、おぬしは王となる」

 バポロはいい気持ちになったが、まだ警戒心は緩(ゆる)めなかった。

「その保証(ほしょう)があるのか?」

 すると、白いノスフェルは、馬の鬣(たてがみ)を伝(つた)ってバポロに近づきながら大きくなって、白い服を身に纏(まと)った妖艶(ようえん)な美女に変身した。

 いきなり目の前に美女が現れて目を白黒させているバポロを抱(だ)き寄せるようにして、変身したノスフェルは何事か耳元に囁(ささや)いた。

 聞いたバポロは驚きのあまり、馬から落ちそうなくらい仰(の)け反(ぞ)った。

「ま、真実(まこと)か、それは!」

「後(のち)ほど自分の目で確かめるがよい」

 そう言ってノスフェルだった美女は嫣然(えんぜん)と笑った。

「わ、わかった。それで、余はどうすればよい?」

「一先(ひとま)ず城に戻って受け入れの準備をして欲しい。われらは機動軍を適当にあしらって、早々に退却する」

「了解(りょうかい)した」

「では、頼んだぞ」

 美女が再び白いノスフェルの姿に戻り、飛んで行こうとすると、バポロが呼び止めた。

「おお、そうだ。今度から余の前に現(あらわ)れる時は、先程(さきほど)の姿で来てくれ」

 ニヤニヤ笑っているバポロに、白いノスフェルは「いいだろう」と答え、ヒラヒラと飛び去った。


 結局、バポロは、上陸して来た北方警備軍のことを詳(くわ)しく聞かなかった。

 もし、ゾイアの名を耳にしていれば、違う結果となっていたかもしれない。



 その頃、一気に反転攻勢(はんてんこうせい)をかけたバロード機動軍に対し、蛮族側はあからさまな足止(あしど)め戦法を採(と)っていた。

 移動式の拒馬(きょば)で道を塞(ふさ)ぎ、建物と建物の間に縄(なわ)を張(は)った。

 その上で、少人数の塊(かたまり)を幾(いく)つも配置し、徹底的に馬の脚(あし)を攻撃するのである。

 機動軍が馬の上から槍(やり)で突くと、サッと逃げ、別の場所でふたたび塊となる。

 それだけではない。あちこちの建物から火の手が上(あ)がり始めた。

「これはいかん。町そのものを楯(たて)として、本隊は逃げる気だぞ。どうする?」

 炎(ほのお)に怯(おび)える馬を宥(なだ)めながら、ボローはニノフに指示を仰(あお)いだ。

「仕方あるまい。追撃は諦(あきら)め、消火に当たろう。このままでは、町そのものが焼失(しょうしつ)してしまう。それにしても、手並(てな)みが鮮(あざ)やか過ぎる」

 ニノフは悔(くや)しさを滲(にじ)ませた。


 一般に、退却戦は難(むずか)しいとされている。

 下手な逃げ方をすれば、犠牲(ぎせい)ばかり増えて、全滅しかねない。

 それが、ほぼ無傷(むきず)で逃げたのだ。

 これを追って攻撃するには、こちらも大きな損害を覚悟しなければならない。

 援軍が来たといっても、まだ僅(わず)かに二百名で、一人を除けば歩兵なのである。

「いったいどんなやつなんだ、あの首長は。だが、次は必ず斃(たお)す!」

 声を聞いただけの相手に、ニノフは闘志(とうし)を燃やした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。