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80 リード湊の攻防(2)

 騎兵が歩兵より有利なのは自明(じめい)に思えるが、それも自由に馬が走れればこそである。

 蛮族が、占拠(せんきょ)した湊町(みなとまち)リードの周りに廻(めぐ)らせた防御柵(ぼうぎょさく)は、先を尖(とが)らせた木材を斜めに組み合わせたもので、拒馬(きょば)とも呼ばれる。

 馬はこれを嫌(きら)って近づかないのだ。

 無理に接近させると立ち止まってしまい、こちらが矢を射(い)るどころか、格好(かっこう)の矢の的(まと)になる。

 蛮族は、手前側の建物の陰(かげ)に、半月弓(はんげつゆみ)を持った兵を多数潜(ひそ)ませていた。

 そこから一斉(いっせい)に矢を放(はな)って来るため、すぐに逃げ戻るしかなかった。

 サイカのような自由都市とは違い、小さな湊町は城壁(じょうへき)で囲(かこ)われていないから簡単に攻め落とせるはずとの目算(もくさん)は、最初から外(はず)れてしまったのである。


 ボローが攻め倦(あぐ)ねているところへ、元の金狼(きんろう)騎士団を引き連れてニノフがやって来た。

「手古摺(てこず)っているようだな」

 ボローは「すまん」と頭を下げた。

「いや、おかげで敵の動きがわかった。交替(こうたい)しよう」

「頼む」

 ボローの部隊を下がらせると、ニノフは腹心の部下たちに策戦(さくせん)を伝えた。

「よいな。肝心(かんじん)なのは、常に動くことだ。止(と)まってはならん。始めよ!」

「はっ!」

 ニノフの率(ひき)いていた金狼騎士団は、騎射(きしゃ)を得意(とくい)とする者が多い。

 数騎ずつ縦(たて)に並んで接近し、拒馬の直前で速度を緩(ゆる)めずに方向を変えながら騎射し、離脱するという行動を繰り返した。

 余程(よほど)騎射に熟練(じゅくれん)していないとできない技(わざ)である。

 相手方(がた)から見れば、アッと言う間に矢が飛んで来て、こちらから射返(いかえ)そうとすると、もういないということになる。

 蛮族の半月弓が沈黙(ちんもく)し始めた。


 継(つ)いで、ニノフは「工兵隊(こうへいたい)、進め!」と命じた。

 騎射を繰り返す部隊の後ろから、大きな木槌(きづち)を持った部隊が駆け出し、拒馬の前で馬から下(お)りると、拒馬を破壊し始めた。

 それを止(と)めようと、蛮族が物陰(ものかげ)から半月弓を持って出て来ると、走り続けている騎射部隊から矢が飛んで行く。

 遂(つい)に、拒馬の一角(いっかく)が崩(くず)され、進入路ができた。

 ニノフは後ろを振り向き、「ボロー、出番だ!」と叫んだ。

「おおっ、任(まか)せろ!」

 ボローの部隊は一斉(いっせい)に十字槍(じゅうじやり)を構えた。

 元の大熊(おおくま)騎士団である。

 ニノフの部隊が開いた突破口(とっぱこう)目掛けて突撃した。

 ボローを先頭に町の中に侵入すると、物陰の蛮族に向け、馬上から十字槍を繰(く)り出した。

 舟に大きな武器は乗せられなかったためか、蛮族は殆(ほとん)ど槍系統(やりけいとう)の間合いの長い武器を持っておらず、半月弓以外は精々(せいぜい)剣か短剣であるため、次々に十字槍で屠(ほふ)られた。


 だが、戦果(せんか)を上げながらも、ボローは焦(あせ)っていた。

 町の中に入って、改めて敵の数の多さを思い知ったのである。

 いくら騎馬が有利とはいえ、取り囲(かこ)まれれば、脱出できなくなる。

 そろそろ引き上げるべきであった。

「一旦(いったん)戻るぞ!」

 そう命じて馬首(ばしゅ)を巡(めぐ)らせた時、ボローは信じがたい光景を目にした。

 自分たちの侵入して来た道に、逆向きに拒馬が置かれていたのだ。

 こういう場合に備え、予備を隠(かく)していたのだろう。

 しかも、外にあったものと違い、尖った角材(かくざい)の間に横板を通して楯(たて)の代(か)わりとし、そこに狭間(はざま)となる穴(あな)が穿(うが)ってあるのだ。

「しまった、罠(わな)だ! 突破(とっぱ)して退却せよ!」

 ボローの動揺(どうよう)がそのまま部隊に伝わってしまい、大混乱に陥(おちい)った。

 そこへ容赦(ようしゃ)なく矢が降(ふ)り注(そそ)ぐ。

 矢が当たって落馬した者には、剣を持った蛮族が数名がかりで襲(おそ)いかかった。


 町の外からその様子を見て取ったニノフは、「いかん!」と叫ぶと、全軍に突撃を命じようとした。

 だが、その時、背後から早馬(はやうま)の駆(か)ける足音が聞こえてきた。

 ニノフが振り向くと、念のため後方(こうほう)の探査(たんさ)に出しておいた斥候(せっこう)が戻って来ていた。

「申し上げます!」

「おお、どうした? 何か怪(あや)しい動きがあったのか?」

「怪しいどころではありません! こちらに向かって進んで来る、武装した集団がおります! 勿論(もちろん)、バロード共和国軍ではありませぬ! 騎兵の割合は少ないですが、その数凡(あよ)そ千!」

「何っ! どこの国の軍だ?」

「いえ、国ではありません! あの薄紫(うすむらさき)の旗印(はたじるし)は、野盗『暁(あかつき)の軍団』にございます!」

 ニノフは呆然(ぼうぜん)と「いったい、どういうことだ……」と呟(つぶや)いていた。

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