あらすじ(751 ギルマン争奪戦(76) ~ 800 ガルマニア帝国の興亡(42))
ギルマン争奪戦にて、東側四箇所の切通の戦況が膠着状態となったため、焦ったコパ将軍は後詰の一万の兵士を引き連れて南側の切通を狙った。
激戦となり、南側を担当するメギラ族らが苦境に陥った際、普段敵対しているクビラ族が援軍に駆け付けた。
上空から戦況を眺めていた魔女ドーラは、自分がこのまま傍観してコパ軍側が勝つならそれも悪くないと思いながらも、やはり蛮族の方に味方することに決め、コパ軍の伝令が援軍を呼ぶことを阻止する。
一進一退の攻防が続いたが、遂に痺れを切らしたコパ将軍が日没前に撤収し、勝負は翌日に持ち越された。
思ったように戦が進まず、苛立ちながら一人酒を飲んでいるコパ将軍の許に、ゲーリッヒの使いとしてタンチェンが現れた。
ゲーリッヒは皇位奪還を宣言し、既に国内の大半の勢力を味方に付けたという。
タンチェンからゲーリッヒの味方に付くよう誘われたコパが悩んでいるところへ、魔女ドーラが姿を見せた。
ドーラは、この際五万の兵を率いて独立するよう説得する。
但し、その意図を覚られぬよう、できる限りゆっくり帰国するよう勧めた。
今日も激戦が続くことを覚悟していたゲルヌ皇子は、ドーラの呼び出しを受けてメギラ族のゴークの天幕へ行くと、敵将のコパが居て驚く。
ドーラの説明で兄ゲーリッヒの即位を知り、蛮族たちに詫びた上で、単身ガルマニア帝国に帰国した。
ゲルヌがいなくなった後、意見の対立から紛糾するかと思われた話し合いは、蛮族の長老格であるアテラ族の族長がローラに一任したことにより、和平の成立を見た。
停戦の監視役としてコパ軍にはドーラが、蛮族軍にはゾイアがそれぞれ就くこととなった。
慌ただしくゲルヌが帰国した後、入れ替わるように現れたギルマン王の遺児アンヌは、激しい口調で蛮族に出て行けと迫った。
騒然とする中、ローラとゾイアに交互に説得され、アンヌは一旦戻って行った。
残された蛮族の説得にはローラが当たり、ギルマン内で各部族が独立して小国を創り、その連合体という形にしようと提案する。
メギラ族のゴークは反対したが、他の族長たちに諭され、不承不承受け入れた。
そこまで見届けると、ゾイアもギルマンを去った。
その頃ガルマニア帝国では、慌ただしく皇帝ゲルカッツェの婚礼の準備が進む帝都ゲオグストに、元皇太子ゲーリッヒが皇位継承を宣言し、方面将軍のマインドルフらが支持しているとの情報が入った。
宰相チャドスは、一旦逃亡する決意を固めるが、肝心のゲルカッツェが行方不明となってしまう。
行方不明となったゲルカッツェは、婚約者レナの部屋にいた。
レナは独自にゲーリッヒの叛乱の情報を掴み、密かに皇帝宮を脱出するようゲルカッツェに勧める。
一方、ゲーリッヒは集まった軍勢を鼓舞するために演説を行ったが、その内容はまるで野盗のようであった。
ゲルカッツェもチャドスも逃げており、思いもよらず無血入城を果たしたゲーリッヒは、しかし、全く喜ばなかった。
ツァラトに八つ当たりしているところをマインドルフ将軍に止められ、兵士たちを労うことにした。
一方、自分を護るために大怪我をしたカールを見舞ったゲルヌは、ピリカの祖母エマと出会う。
ゲルヌが、エマからピリカの母リリルの話を聞いているところへ、スルージが飛んで来た。
帝都ゲオグストから、何本も跳躍の航跡が出ていたという。
実は、そのうちの幾つかは、宰相チャドスやチャロア団長らのものであり、コパ軍のところへ向かっていた。
ゲーリッヒの無血入城と即位は中原中に告知されたが、バロードには直接の連絡がなかった。
不審がる統領クジュケに、意外な人物が城内に居ることが知らされた。
一方、五万の兵を率いるコパ将軍の前に現れた宰相チャドスは態度を豹変し、コパに即位を願った。
コパを自分の味方に引き入れようと角を突き合わせるドーラとチャドスであったが、肝心のコパが弱気であるため、急転直下手を結ぶこととなった。
同じ頃、どうやらガルマニア帝国から逃げ出したレナが王宮内にいるらしいと知って戸惑う統領クジュケは、それどころか、皇帝ゲルカッツェ本人と出くわしてしまう。
皇帝ゲルカッツェの前で呆然とするクジュケに、レナが跪けと命じた。
取り合おうとしないクジュケに、レナは赤ん坊のレイチェルを見せる。
レイチェルは超絶的な魔道の力で壁を破壊してしまうが、駆け付けた姉ウルスラを見ると笑顔になり、母レナも態度を軟化させた。
レナはバロードで亡命政府を立ち上げ、兵を募るつもりだという。
当然クジュケは反対したが、ウルスラとウルスは一先ず身柄を預かることは諒承した。
一方、魔道屋スルージからその情報を聞いたゲルヌは、ガルマニアへは帰国せず、一旦エイサの古代神殿に身を隠すことにした。
バロード以外にゲーリッヒの即位が伝えられなかった暁の女神の砦では、仇敵と思っていた父の死によって、ニノフが闘志を失っていた。
一方、そのゲーリッヒは海軍を充実させ、中原統一の障害となるバロードを倒すつもりだという。
エイサの地下神殿で、ゲルヌは赤目族の第一発言者から、ガルマニアに東方からの強い干渉が働いていると警告される。
そのガルマニアでは、海軍によってバロードを背後から攻略するというゲーリッヒに、タンチェンが母国から船を援助させたいと申し出た。
ガルマニア帝国に揺さ振りをかけるため、ドーラは、マインドルフに反発してゲーリッヒに従っていないという三将軍の調略を始めた。
まず、山賊上がりだというゴンザレス将軍の砦を訪れ、血筋に関わりなく誰でも皇帝に成れるのだと指摘した。
ドーラが次に訪れたヒューイ将軍は、貴族出身であることを鼻にかけ、家格が下のコパ将軍の臣下にはなりたくないと主張した。
そこでドーラは、自分もしくは兄のアルゴドラス聖王の盟友ということならどうかと説得した。
ゴンザレスとヒューイの説得に手応えを感じたドーラは、難物とされる剣豪将軍ザネンコフの砦に向かった。
ゲール帝以外認めないというザネンコフは、剣術の試合で決着をつけようと申し出る。
ドーラはドーンと交替し、木剣での試合に応じた。
ザネンコフとの木剣試合に辛勝したドーンは、三将軍全員を味方にできたと確信し、ドーラに戻って帰還した。
その頃、宰相チャドスは、敵方であるはずのマインドルフと密かに会い、ゲーリッヒが重用しているタンチェンが怪しいと警告した。
ギルマン戦から帰国の途についたコパ軍五万の士気は、弛み切っていた。
それに苛立つドーラのところへ、チャドスが戻って来た。
ドーラはチャドスを怪しむが、その疑いを逸らすように、タンチェンのことを持ち出した。
コパの即位への準備が着々と進む一方、ゲルカッツェは本気で退位を望んでいた。
前皇帝ゲルカッツェを匿っていることに焦燥を感じている統領クジュケの許へ、皇帝家直属魔道師のカールが訪ねて来た。
三人の皇子全員の生命を護るようにとのゲール帝の遺言があったという。
ゲルカッツェをもう暫く預かって欲しいと頼むカールに、クジュケは十日の期限を言い渡した。
暁の女神の砦では、ニノフと妹のピリカが寛いでいた。
そこへ、バロードから直行したカールが現れ、二人の祖母エマのために来たと告げる。
霊癒族の隠れ里では、カールの行動を知ったエマが、魔道屋スルージに自分をエオスへ連れて行くよう頼む。
頑なに祖母エマの話を拒否するニノフとピリカの兄妹に、カールが諦めて帰ろうとしたところへ、魔道屋スルージに連れられてエマ本人がやって来た。
二人の母であり、自身の娘であるリリルを追放したことを後悔するエマに、ピリカは母もエマに会いたがっていたと告げる。
隠れ里に戻り、エマを寝かせつけたカールとスルージは、ゲルカッツェ親子の亡命先を検討した。
カールは辺境すら候補地に提案したが、スルージは、プシュケー教団の聖地シンガリアがいいと言う。
そのシンガリアでは、記憶を失くしているタンファンを、チャロア団長らの東方魔道師が襲った。
アッという間にチャロアの部下六人を斃したタンファンを、兄弟子のヨルム青年が止めた。
ヨルムは、殺気立つタンファンを宥め、ゲルヌ皇子の保護を依頼した。
事後報告を受けた教主サンサルスも、不承不承それを許した。
そのシンガリアにやって来た魔道屋スルージは、教主サンサルスに、ゲルカッツェ親子の受け入れを頼んだ。
しかし、サンサルスは、ガルマニア帝国との全面戦争になるから、それはできないと断った。
但し、地位を捨てて庶民となるなら話は別という。
スルージは困惑し、帰って行った。
ゲルカッツェたちをどう説得しようかとスルージが悩んでいる頃、そのゲルカッツェ親子を異変が見舞っていた。
レウス王子が、普通ではあり得ないほどの高熱を発したのである。
自分には対処できないと判断したクジュケは、すぐにウルスラ王女を呼んだ。
ウルスラの説得ですぐにレウスの熱は下がったが、その原因は母親のレナの妊娠であるという。
レウスの高熱のため手を火傷したレナの治療が終わると、ウルスラがクジュケに事情を説明した。
母方に妖精族、父方に両性族の血筋を持つレナと、カルス王との間に生まれたレウス/レイチェルは、特別な能力を持っているらしい。
その兄妹と、ウルスラ/ウルスの姉弟は、お互いの心が通じるのだという。
ゲルカッツェ親子をこのままバロードに残してはどうかというウルスラに、クジュケは断固反対した。
その時スルージが、受け入れ先としてサナト族の隠れ里を提案した。
一方、即位の場所を巡ってヒューイ将軍と揉めているコパ将軍は、実力行使を決意する。
その間に国内を固めようと苦心しているゲーリッヒに、補佐官となったタンチェンが、母国マオール帝国から二十万の援軍を呼べると告げた。
最大二十万の援軍を要請できるというタンチェンに、ゲーリッヒは、本当は何者なのかと問い詰めた。
タンチェンは涙ながらに、タンファンから離れたことによって暗示が解け、自分がヌルギス皇帝の第九皇子ヌルチェンであることを思い出したと告白する。
一方、自分の即位場所を確保するため、ヒューイの城を攻めるというコパと、仲間割れしている場合ではないと怒るチャドスを、ドーラが宥めているところへ、チャロアが戻って来た。
チャロアから、シンガリアでタンファンを発見したと聞いたドーラは、自分が行って捕らえると主張した。
チャドスもそれに同意する。
同じ頃、エイサからギルマンに戻ったゲルヌは、ローラから族長国連邦を構成し、中央部分に元の住民を迎えたいとの構想を聞く。
ゲルヌが、ローラと同体の弟ローランドの意見を聞くと、感情的に反対した。
ゲルヌは、異民族同士が仲良く暮らすことも難しいが、兄弟姉妹ですらそうだと反省する。
そのゲルヌの次兄ゲルカッツェは、家族で隠れ里への移住が決まった。
そこへカールが現れ、今後はゲルカッツェを護ることを誓う。
更にその兄ゲーリッヒは、愛人のミラに子供ができたことを喜び、正式な結婚を考える。
ファーンことタンファンがいなくなり、花畑の管理に復帰したヨハンを、魔女ドーラが捕らえた。
タンファンの行方を聞き出そうとしているところへ、ヨルム青年と教主サンサルスがやって来た。
薬草茶を飲みながら話そうというサンサルスの提案に乗り、ドーラは教団本部へ行った。
サンサルスは、タンファンはゲルヌ皇子を捜す旅に出たと伝えた。
更にゲルカッツェの行方を聞かれ、匿ってくれと頼まれたが断ったと答えた。
ドーラは、ガルマニアの内戦に関わらぬよう釘を刺し、慌ただしく帰って行った。
そのドーラの留守中、ヒューイの城へゆっくり進むコパたちは、ヒューイが逃げたことを知る。
帝都ゲオグストに着いたヒューイがゲーリッヒを待っていると、かつて野人太子と呼ばれた頃の恰好で出て来た。
ヒューイの貴族趣味を嫌うゲーリッヒは、普通の言葉で喋ることを要求する。
その上で、城は取り返してやるという。
同じ頃、そのゲーリッヒに不満なマインドルフのところへ、魔女ドーラが訪れた。
ドーラはマインドルフに皇帝になる気はないかと唆す。
気持ちがグラつきながらも断ったマインドルフから、ヒューイがゲオグストへ駆け込んだことを聞き、ドーラは驚愕する。
そのヒューイの城を攻めようとしているコパたちは、包囲して歌舞音曲で揺さぶりを掛けることになった。
ヒューイがゲーリッヒに援軍要請したことを知ったドーラは、急ぎゲオグストへ飛んだ。
皇帝宮に罠があることに気づいたものの、ドーラは敢えて罠に飛び込んだ。
ところが、ヌルチェンは『魔の玉』によってドーラを強制転送してしまう。
ヒューイの城を奪還するため、六万の大軍を動かすことになったが、それを率いるマインドルフとヒューイには不協和音が生じていた。
そこへ、皇帝ゲーリッヒ本人が乗り込んで来た。
ゲーリッヒは、マインドルフとヒューイにザネンコフとゴンザレスを先に攻めるよう命令する。
一方、ヒューイの城を五万の軍で取り囲み、歌舞音曲に興じるコパ将軍の許へ、六万の軍が迫って来ているとの知らせが入る。
同時に、魔女ドーラが敵に捕らわれたらしいとの情報も入り、慌てて各地へ援軍要請することとなった。
ギルマンからの難民を受け入れて都市機能が麻痺しつつある自由都市リベラでは、ロム長官と相談役のゾイアが対応を話し合っていた。
そこへ宰相チャドスが援軍要請に訪れた。
ゾイアは自分が行くと答えたが取り合われず、ロム長官の方は正式に断った。
同じ頃、バロードの廃村に、魔女のお化けが出たとの噂があった。
噂を聞きつけたクジュケが寒村に行ってみると、魔女のお化けとは記憶を失ったドーラであった。
ドーラから自分の息子を捜していると聞いたクジュケは、既に亡くなったと教える。
そこへ、ウルスラが来て、ドーラの記憶が戻ってしまった。
聖剣のありかを言わねばクジュケを殺すと脅すドーラに、進退窮まったウルスラは、咄嗟にレイチェルを呼ぶ。
レイチェルの超絶的な力によって、再び記憶を失ったドーラを、クジュケはコパ将軍のところへ返す。
記憶を失くしたドーラは軟禁することにし、チャドスらは援軍要請に活路を見出そうとする。
一方、向かって来る帝国軍も、内実は一枚岩ではなかった。
ヒューイはマインドルフに反感を持ち、そのマインドルフは謀叛の誘惑に駆られていた。
援軍要請が上手く行かないことに業を煮やしたコパは、チャドス自ら行くよう命令した。
まずゴンサレスの砦を訪(訪れ)れたチャドスは、大盤振る舞いの条件で援軍を承知させた。
ところが、その直後、ゴンサレスの砦に皇帝ゲーリッヒの使いが来る。
ゴンサレスの反応に気を良くしたチャドスは、次にザネンコフの砦に行った。
が、ザネンコフはキッパリと援軍を断り、その理由はチャドスだと告げる。
ザネンコフは、尊崇するゲール帝が自死した原因は、チャドス配下のチャロア団長らの情報遮断にあったと糾弾する。
しかし、チャドスは上手く言い逃れ、援軍が出せないなら、せめてマインドルフの側にはつくなと約束させる。
その頃、皇帝ゲーリッヒに呼ばれたツァラト将軍は、マインドルフ追討を命じられる。