表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/1520

47 悪い仲間

 この時点で、ガルマニア帝国軍の戦死者は三千名近くまでふくらんでいた。

 それでもおよそ一万二千名は残っており、圧倒的に人数は多い。

 わずか数百騎のニノフたちが愚図愚図ぐずぐずしていれば、押しつぶされていただろう。

 事前の作戦会議でも、そこが一番の難点なんてん見做みなされた。


 そこでニノフが考えたのが、互いにそのまま前進する、という案であった。

 北の丘陵きゅうりょうを駆けりる、ニノフひきいる金狼きんろう騎士団を中心とする一団は、一定の戦果をげれば、そのまま前進して南の丘陵を駆け登る。

 一方、南の丘陵からくだるボローの大熊おおくま騎士団を中心とした一団は、そのまま北へがる。

 こうすれば、馬の方向転換をせずに済むため時間と労力の節約となるばかりでなく、参加している傭兵たちの心理的な負担が少ないである。

 自分たちの十倍以上の人数の敵に突っ込むのは、誰しもおそろしい。

 戦いの後、敵に背中を向けて元の場所に帰る行為は、その恐怖心を呼びましてしまう。

 そこで、前へ前へと進ませることにしたのだ。


 先に南の丘陵に登ったニノフは、伝令を飛ばして再び横一列に並ばせ、勝鬨かちどきげさせた。

 少し遅れて北の丘陵に着いたボローも同じように団員たちを横に並ばせ、みずからは、十字槍の先に突き刺したゴッツェ将軍の首級しるしを高くかかげた。

「ガルマニア帝国ゴッツェ将軍の首、ち取ったりーっ!」

 南北の丘陵で、同時に同じ言葉を連呼した。


 ゴッツェは独断専行型どくだんせんこうがたの将軍であったため、副官以下、自分で考える訓練がなされておらず、その瞬間、一気に統制とうせいくずれた。

 一斉いっせいに国に引き返そうと、撤退てったいし始めたのだ。

 大勢がせま渓谷けいこくひしめくように進むため、あちこちで小競合こぜりあい起こり、あろうことか、同士討どうしうちする場合すらあった。

 それだけではない。

 ガルマニア帝国の厳しい軍律ぐんりつを考えれば、このまま帰国しても軍事裁判にかけられ、良くて投獄とうごく、悪くすれば処刑されかねない。

 続々と逃亡者が発生した。

 そのため、無事に帰国した兵士は数千名のみで、彼らの予想どおり投獄される者もあったが、人数が多すぎるため、大半はガルム大森林だいしんりんの強制労働所送りとなった。


 ガルマニア帝国軍やぶれるのほうは、またた中原中ちゅうげんじゅうに広まった。

 それと共に、バロードの傭兵騎士団とその団長の一人であるニノフの名が高まったのである。


 一方、プシュケー教団については良い評価が少なく、不気味ぶきみな存在という認識がまだ一般的であった。



 緩衝かんしょう地帯を旅するゾイアとロックの二人も、シャルム渓谷けいこくたたかいのうわさを耳にした。

 ゾイアがカルボン総裁のもとからのがれたあと、すぐにバロード共和国がガルマニア帝国と開戦したため、追跡はされなかった。

 あのガイ族の親子もまた、戦争のための諜報ちょうほう活動に駆り出されたらしく、追っては来なかった。

 そこで二人は、水や食料の調達ちょうたつを優先し、昼間の旅に戻していた。

 それでも、あまり人目につかぬよう、大きな自由都市などには寄らず、緩衝地帯に点在てんざいする宿場町しゅくばまちうように進んでいる。


 ゾイアたちがガルマニア帝国軍の敗退はいたいを聞いたのは、そんな宿場町の酒場であった。

「驚いた。あまり犠牲ぎせいが出なければ良いがと思ったが、勝ってしまうとは」

 ゾイアは麦酒むぎざけを飲みながら感心したが、ロックはとなえた。

「違うよ、おっさん。勝ったのは何とかって教団じゃなくて、バロードの傭兵騎士団ようへいきしだんのニノフとかいう若い団長だろ?」

 そう言って、ロックは麦酒を一口飲み、肉団子をつまんだ。

「そうかもしれんが、それもプシュケー教団の善戦の賜物たまものだろう」

「まあ、おいらはどっちでもいいけどさ。それより、そろそろ何かしてかせがないと、ヤバイぜ。どこへ行っても足元あしもとを見られて高い買物になるから、ギータがくれた路銀ろぎんとぼしくなってきたし。いっそ、おいらが」

 ロックがニヤリと笑ったため、ゾイアは麦酒のはいを置いて、首を振った。

「いや、それはやめてくれ。ようやほとぼりが冷めたのだ。余計な敵を増やしたくない」

 その時、酒場に入って来た人相の悪い男が、「おう、ロックじゃねえか」と声を掛けてきた。

 顔に大きな刀創かたなきずがある。

 ロックはちょっといやそうな顔になったが、作り笑顔で「久しぶりだね、リゲス」とこたえた。

 リゲスと呼ばれた男は勝手にゾイアたちのテーブルに座り、店の親爺おやじに「おれにも麦酒をくれ」と注文した。チラリとゾイアを見て、「ほう」とうなった。

「あんた、ロックの連れみてえだが、とてもコソ泥には見えねえな」

 ロックは驚き、「やめろ、リゲス。このおっさんは、そんなんじゃないんだ」と言い返した。

「へえ。じゃあ、何だ。おめえの用心棒ようじんぼうか?」

「いや、その、ええと、闘士ウォリアだよ。武者修行むしゃしゅぎょうの旅をしてるところで、偶然知り合ったんだ」

 すると、リゲスという男は刀創のあるほほゆがめて笑った。

「そいつは丁度ちょうどいい。おれは今頼まれて優秀な闘士を探してるんだ。『あかつきの軍団』って野盗団があるんだが、そこの闘士が縄張りをけた勝負で『荒野あれのの兄弟』の闘士にあっさり負けちまったらしい。そこで、もう一回だけ勝負をやらせてくれと頼みこんで、強い闘士を探してるんだ。礼ははずむらしいぜ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ