表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/1520

36 模擬試合

 当然のことだが、名無ななしはルキッフの言葉を比喩ひゆと受け取った。

手傷てきずうと、けだもののように変わる闘士ウォリアか。うむ、いずれたたかってみたいものだな」

 それを聞いて、ルキッフはうれしそうに笑った。

「おお、そいつは頼もしいな。体格も、ちょうどおまえと同じぐらいだ。ふむ、なんとなくだが、顔付かおつきも似ているな。やっぱり、そいつも少し生意気なまいきな口をきくやつだったよ」

 思い出して苦笑したが、すぐに表情を引きめ、相手を真剣な顔で見た。

「だが、その前におまえにたおしてもらいたい相手がいるのさ、名無し」

「ほう。それは何者だ?」

 ルキッフは、逆に名無しにうた。

「おまえ、『あかつきの軍団』を知ってるか?」

「いや」

「軍団と名乗っちゃいるが、おれたち『荒野あれのの兄弟』と同じ野盗やとうさ。長年、縄張なわばりを争ってたんだが、ついに手打ちすることになった。しかし、これまでの確執かくしつは、そう簡単に消えるもんじゃない。互いの言い分をゆずらず、最終的に縄張りの線をどこで引くのか、なかなか話がまとまらない。そこで、闘士の一騎打ちで決着しよう、ということになった。その役目をおまえにたくしたいんだ」

「望むところだが、わたしで良いのか?」

「ああ。おまえは新入りだが、剣の技量は抜群ばつぐんだ。おそらく、元は一廉ひとかどの剣士だったんだろう。おれの義兄弟たちの中で、今、一対一でおまえにかなうやつはいないよ。引き受けてくれるか?」


 この時代、闘士同士のたたいは命懸いのちがけである。

 負ければ、死なないまでも、大怪我おおけがを覚悟しなければならない。

 だが、名無しは、少しも躊躇ためらわなかった。


無論むろんだ」

 ルキッフは髭面ひげづらをクシャクシャにして喜んだ。

「おお、そう来なくちゃ。しかし、そうなると、名無し、というわけにはいかないな。名前は、まだ思い出さないか?」

 名無しは首をひねっていたが、「駄目だめだ。何も浮かばない」とあきらめた。

「そうか。それじゃあ、おれが闘士としての名前を付けてやろうか?」

「ああ、頼む。わたしも、いつまでも名無しでは落ち着かない」

「よし。じゃあ、今日からおまえは、闘士ティルスだ」

 名無しは、何か記憶に引っ掛かるのか、「ティルス、ティルス」とつぶやいていたが、大きくうなずき、莞爾かんじと笑った。

「良い名だ。気に入った」

 ルキッフも満足そうに笑った。

「そいつは良かった。それじゃ、試合は十日後だ。ティルス、調子を整えておけよ」

「うむ。まかせてくれ」


 そのあと、ルキッフのはからいで、より実戦的な訓練をするために模擬もぎ試合をすることになった。

 相手は古参こさんの闘士であるベゼルという男である。

 ごつい体つきの大男で、体中に傷跡きずあとがあった。

 うねうねと波打つくせのある長い黒髪くろかみを後ろでたばねている。

 瞳の色はげ茶色だ。その目で、ティルスは何度もにらまれたことがある。

 新入りの『名無し』がルキッフのお気に入りになったことが、この大男の機嫌きげんそこねているのは明らかだった。


「模擬試合だからって、手加減てかげんはしねえぞ」

 ベゼルはいきなり、そう宣言してきた。

 ティルスは笑ってこたえた。

「こちらも、そのつもりだ」


 試合はいつもの練習場で、木剣ぼっけんで行うことになった。

 木剣とはいっても、固いオーク材を使っているから、本気で打てば命にかかわる。

 大柄おおがらなベゼルと向き合うと、筋肉質なティルスでさえほっそりして見えた。

 しかし、そのコバルトブルーの瞳には自信がみなぎっている。

 ルキッフは出かけたため、試合の立ち合いは『荒野の兄弟』の長老格であるドメスという老人がつとめることになった。

 ティルスとベゼルを向かい合わせに立たせ、試合をする上での注意をした。

「よいか。これはあくまでも模擬試合じゃぞ。多少体に当てるのはかまわんが、互いに怪我けがをさせるな」

 ベゼルはニヤリと笑って、「なるべくそうするよ、なるべくな」と告げた。

 ティルスは黙ってうなずいた。


 ドメスは二人に距離を取らせ、等分に見比みくらべたあと、宣言した。

「始めよ!」

 その言葉が終わり切らぬうちに、ベゼルは巨体に似合にあわぬ素早すばやさで、きを入れて来た。

 ティルスは下段に構えていたが、木剣の先を地面に当てるとね上げた。

 剣先に乗った土が、猛進もうしんして来るベゼルの眼元めもとに飛ぶ。

 ベゼルが一瞬ひるんだすきに、ティルスはたいひらいて突きをかわし、自分の木剣を横に伸ばしてベゼルの首をねらった。

 が、ベゼルはるように倒れてそれをけ、背中が地面に着く前に、木剣を捨てて両手でティルスのあしつかんだ。

 万力まんりきのような力で、脚の筋肉をにぎつぶそうとしてくる。

「ぐあっ!」

 痛みをこらえて、ティルスが木剣をり下ろしたが、それが当たる寸前にベゼルは脚から手を離し、ゴロゴロと転がって自分の木剣のある場所に着くと、サッとそれを持って立ち上がった。

「こらからが勝負だぜ、名無し!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ