表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/1520

28 馬上の死闘

 騎馬きばで近づいて来る者たちは、隊列たいれつととのえるためか、互いの姿が見える位置で一旦いったんまった。その数、十

 風に乗って、彼らの話す声がゾイアたちのところまで聞こえて来た。

「いたぞ、間違まちげえねえっ!」

「生死にかかわらず賞金をくれるらしいぞ!」

「金貨十枚、おれがもらったあ!」

「いや、っこい方はってもいいが、大男は生かしてらえよとの通達だ!」

「男じゃ、生かしても、あとの楽しみがねえな!」

 どっと下卑げびた笑いが起こった。

 明らかに、こちらが二騎しかいないと見て、完全にめ切っている。

 薄汚うすよごれているもののそろいの紋章もんしょうを付けているところをみると、このあたりを縄張なわばりとする騎士団きしだんであろう。

 だが、どこの国のものともわからぬ不揃ふぞろいの簡易甲冑かんいかっちゅうを身に着けていることといい、面構つらがまえの凶悪きょうあくさといい、実態じったいは、ほとん追剥おいはぎやならず者と変わらないようだ。

 敵が二三騎ならば、ロックと別々に逃げることもできようが、十騎ともなればとても逃げ切れない。

 ゾイアの宣言どおり、むしろ、こちらからめてたおほかなかった。

「ロック、われから離れるな!」

「あ、ああ」

 ゾイアは、最初に抜いた長剣ロングソードを片手に持ちえた。

 そのまま、背中にるしていた大剣グレイトソードも抜いて両手に剣を持ち、太いあしめ付けだけで馬をあやつっている。

「行くぞ!」

「うん」

 ゾイアが猛然もうぜんと馬の速度を上げたため、ロックは付いて行くだけで精一杯せいいっぱいで、短剣を持つことすらできない。

 だが、ロックにも相手がハッキリ見えて来た。

 各自の持つ武器はバラバラで、先頭に正規軍のような長槍ランスを持つ者が三人、その後ろに長剣を構える者が二人、向かって左側に長い戦斧バトラックスを持つ者が一人、右側に棘鉄球とげてっきゅう付きの戦棍棒メイスを振り回す者が一人、後続こうぞくの三人は皆十字弓をかかえている。

 相手は、十騎で向かえば自分たちが追う立場になるとんでいたようで、逆に突進とっしんして来るゾイアに、明らかに戸惑とまどっていた。

 そのため、気がついた時には、すでに先頭のランスの間合いの内側に入り込まれていた。

 ランスは距離のある相手を攻撃する武器だから、こうなると無用の長物ちょうぶつである。あわてて馬を旋回せんかいさせようとしたが、ゾイアの剣の方が速かった。

「ぐええっ!」

「がはっ!」

 両方の剣で同時に二人を斃すと、返す剣でもう一人もった。

「ぎゃっ!」

 その勢いのまま、中段の長剣組に向かおうとしたゾイアは、ぐっと頭を下げた。

 その場所をブーンとうなりをあげてバトラックスがかすめて行く。

 それを追うようにゾイアの長剣が手を離れ、バトラックスを振り回して体勢のくずれた相手の胸に突き刺さった。

「ぐおっ!」

 すぐに両手に持ち替えた大剣で、今度は頭上から振り下ろされて来る棘鉄球付きメイスを受け止め、逆にはじき返す。反動で棘鉄球は相手の顔面を直撃した。

「っ!」

 相手は声も出せずに落馬した。

 その時、後方からロックの叫び声がした。

「おっさん、助けてくれーっ!」

 いつの間にか長剣組二人はこちらの戦列から離れ、ロックにせまっていた。

 ゾイアは二人を追いながら、ロックに近い方の一人に大剣を投げた。それはあやまたず、相手の胸をつらぬいた。

「げほっ!」

 その間に残り一人に追いついたゾイアは、背後から相手の馬の方に飛び乗り、相手の長剣を持つ手を片手で押えながら、いている方の腕で首をめ上げた。

 相手を絞め落とした瞬間、ヒュンヒュンヒュンと音が響き、ゾイアの背中に三本の矢が突き刺さった。

「があああーっ!」

 ゾイアは首を絞めていた相手の馬から飛びりたが、そこへ二の矢、三の矢が飛んで来る。

 それを走りながらけるうち、ゾイアの目が爛々らんらんと緑色に光り出した。筋肉がごりごりとふくれ上がり、背中に刺さった三本の矢は内側から押し出されてポトリポトリと地面に落ちた。

 ついに立ち止まってしまったゾイアに、異変に気付かない射手しゃしゅたちが次々に矢を射掛いかけた。

 だが、いつの間にか鉤爪かぎづめが鋭く伸びていたゾイアの手で、すべはたき落された。

 不思議なことに、獣人化ゾアントロピーはその程度でまっており、ゾイアの顔も毛がくなったものの、まだ充分人間の顔であった。

「死にたくなくば、もうやめよ! 仲間の死体を、ちゃんとほうむってやれ!」

 射手たちは悲鳴のように命乞いのちごいをし、後で仲間をとむらうと約束して逃げ去った。

 ゾイアは、ロックに向かって「大丈夫だったか?」と聞いた。が、ロックの方がおびえて近づいて来ない。

「おっさん、ちゃんと正気しょうきに戻ってんのか?」

「ああ、心配いらん」

 ゾイアの言葉どおり、目の輝きも普通になり、鉤爪も徐々に引っ込んだ。最後まで残った顔面の毛も、スーッと消えて行った。

「ロックよ。われはもう普通の状態だ。安心しろ」

「良かったあ。でも、今回は完全にはけだものにならなかったな」

「うむ。少し自分で押さえてみた。何とか人間の心のままでいられたようだ」

「良かったよ。だけど、賞金稼しょうきんかせぎはまた来るぜ」

「わかっている。これ以上、無益むえき殺生せっしょうはしたくない。これからはなるべく昼間寝て、夜に移動しよう」

「ええっ、月明りの夜ばかりじゃないぜ」

「大丈夫だ。われにはちゃんと見える。とにかく、急がねばウルスのが心配だ」


 そのウルスは、早船の甲板かんぱんで、人相の悪い連中三人にかこまれていた。

「なあなあ、坊や、本当のことを言ってくれよ。どこかの国の王子さまじゃねえのかい?」

 大きな刀創かたなきずのある顔ですごむ相手に、「知りません。誤解です」と言い続けている。

 近くにツイムの姿は見えない。

 刀創の後ろの仲間が、「もういいから、かっさらおうぜ。王子じゃなくたって、こんだけ美形びけいなんだ、稚児ちごとして売りゃいい」と催促さいそくした。

「ふん、そうだな。じゃあ、坊や、おれたちと行こうぜ」

 刀創がウルスの腕をつかんだ瞬間、ウルスの顔が上下して、「無礼者!」と相手を一喝いっかつした。

「なんだと、このガキ! つけ上がるんじゃねえぞ!」

 次の瞬間、ウルスラの手から見えない波動がほとばしり、悪漢あっかん三人組はっ飛ばされた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ