表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
172/1520

164 首都陥落(2)

 伝令に何か言い返そうとしたニノフは、天幕テントの外に人の気配を感じた。

「何者だ!」

おそれ入りますが、首都バロンの陥落かんらくについては、わたくしたちからご説明させていただきます」

「おお、そのお声はクジュケ閣下かっか。どうぞお入りください!」

「失礼いたします。老師ろうしもご一緒でございます」


 まず入って来たのは、共和国参与さんよのクジュケであった。前を切りそろえた銀色の髪に、薄いブルーのひとみをしている。

 耳がややとがっていた。

 いつもと違い、魔道師の服ではなく、文官ぶんかんの制服を着ている。

 その後ろから、典型的な魔道師の恰好かっこうをした人物が入って来た。

 見事な白髪はくはつであるが、灰色の瞳にはかり知れない叡智えいちたたえている。

 かつてエイサの魔道師のちょうであったケロニウスである。

 気をかせて伝令は天幕から出た。

 ニノフは、部下に命じて二人に椅子と薬草茶ハーブティーを持って来させるとともに、しばらく誰も入らせるなと告げた。


 薬草茶を飲みながら、まず、ニノフは確認した。

「本当にわずか五百騎で首都が陥落したのですか?」

 クジュケは小さく首を振った。

「そちらは、わばえ物。主役は鉄の巨人ギガンです」

先程さきほど伝令もそのようなことを申していましたが、どういう意味ですか? 鉄のよろいたギガン族ですか?」

「いいえ。如何いかなる意味でも、生き物ではありますまい。しかし、ほかに表現する言葉もないため、仮にそのように呼んでいるのです。身長は人間の五倍はありましょうか。身体からだ全体に甲冑かっちゅうまとっているかのように金属におおわれておりますが、普通の鉄ではないようです。恐らく、何らかの合金ごうきんと思われます。それがギガンどころか、生き物ですらないのは、その顔に当たる部分を見れば明らかです。あれは、一種の機械からくりでしょう」

「機械とは?」

 その質問には、ケロニウスが答えた。

「わしも、実際に見てから思い出したんじゃが、古い文献ぶんけんに、機械魔神デウスエクスマキナすなわち、機械の魔神まじんというものがっておった。そもそもは、山地の開発のためにつくられたものじゃそうじゃ」

「誰が造ったのですか?」

 ニノフにかれ、ケロニウスは遠くを見るような目をして答えた。

「聖王、アルゴドラス陛下へいかじゃよ」

「えっ、では二千年も前のものですか?」

「そのものではなく、後世こうせいそれを真似まねて造ったものじゃろう」

「うーん、まあ、実感はきませんが、そういうものが仮にあったとして、たったそれだけで、クマール将軍の首都防衛軍一万がやられるものでしょうか?」

 クジュケとケロニウスは顔を見合わせていたが、代表してクジュケが「最初から順序立ててお話すべきでした」と言って、かたり始めた。



 昨日の朝、というより、夜明け頃ですが、首都バロンの北側にある村落から出火しました。

 当初、普通の火事だと思われていたのですが、またたく間に村中にひろがりました。

 村人むらびといぶかっていると、ガシャン、ガシャンと板金鎧プレートアーマーを着た騎士が歩くような音が、ただし、その何倍も大きな音が聞こえてきたというのです。

 勿論もちろん、それが鉄のギガンでした。

 いえ、魔神と呼んだ方がいいのでしょうか。

 ともかくそれが、口から火をきながら歩いて来ていたのです。

 その後ろから、五百騎ほどの蛮族の部隊がついて来たのですが、ほとんど何もしなかったそうです。

 攻撃は、すべて魔神にまかせているようでした。


 村人から救いを求められ、クマール将軍は、まず千人隊を出撃させました。

 この判断自体は妥当だとうだと思います。

 しかし、魔神には、こちらの武器は何一つかず、逆に、口から出る炎に焼かれ、さらに、目から出る光で、甲冑かっちゅうごとかされたのです。

 散々さんざんな目にわされたところで、五百騎の蛮族の内、首領しゅりょうおぼしき仮面の男が前に出て来ました。

 男は仮面を脱ぐと、大きな声でこう言ったそうです。

を見忘れたか! おまえたちの王、カルスである! 余は生きて戻ったのだ! これ以上、裏切り者のカルボンのために死ぬことはない! 再び余に忠誠ちゅうせいちかえ! さもなくば、余はこの地を焦土しょうどと化しても、裏切り者のカルボンをたおすまで戦う!」

 生き残った兵士たちは驚き、それ以上戦うことをめて逃げ戻りました。


 先王カルス陛下がご存命ぞんめいで、カルボン総裁への復讐ふくしゅうのために攻めて来たとのうわさは、すぐに広まりました。

 兵士の中にはみずから武器をててしまう者も多く、首都防衛軍は内部から崩壊ほうかいしたのです。

 カルボン総裁を良く思っていなかった国民の間からも、カルス王をしたう声ががり、蛮族軍五百騎は、易々やすやすと首都バロンに入りました。

 クマール将軍とその側近たちは最後まで抵抗しましたが、魔神に焼かれ、落命らくめいされました。

 カルボン総裁はとっくに逃げ出しており、かつての王宮、今の総裁庁舎ちょうしゃは蛮族軍に占拠せんきょされました。


 わたくし自身は、カルボン総裁に対して、内心では不満だらけであったものの、ひろわれた恩もあり、助けてさしげたいと思いました。

 ところが、どこにも姿が見えず、偶々たまたま再会した老師と一先ひとまず逃げることにしたのです。



 クジュケがそこまでしゃべった時、別の伝令が駆け込んで来た。

「申し訳ございません! 火急かきゅうの使者が龍馬りゅうばにて参っております! ただちに叛乱はんらんめ、王都おうとバロンに帰参きさんせよとの、カルス王のご命令とのことです! 従わぬ場合は、国家叛逆はんぎゃく罪にて討伐とうばつすると!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ