表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
148/1520

142 開戦前夜(1)

「東側国境警備に五千、首都バロン防衛に三千、残る二万を西側国境付近に集結すべきと考えます」

 ニノフの提案に、総裁カルボンはにがい顔をした。

 西側に蛮族と『あかつきの軍団』の連合軍一万二千が進軍して来ているとの一報を受け、急遽きゅうきょもよおされた会議の席上である。

 正面にカルボンが座り、左側にニノフとボローを含む新参組しんざんぐみ、右側に新バロード王国以来の古参組こさんぐみの将軍たちが居並いならんでいる。

 古参組を代表するように、立派な口髭くちひげたくわえた老将軍クマールが異見いけんべた。

「そんなにらんだろう。例の野盗軍や、北方警備軍に牽制けんせいさせれば、半分の一万ぐらいで良いのではないか? 首都防衛がたった三千など、ありん話だ。東側も五千では心許こころもとない」

 あからさまにカルボンの心情しんじょう忖度そんたくした発言だが、カルボンは「一理いちりあるな」とのみひょうし、あくまでも超然ちょうぜんとした態度をくずさなかった。

 議論の結果に責任を持ちたくないのであろう。

 ニノフはクマールの方は見ず、カルボンに向かって自説じせつ意図いとを説明した。

「時期はズレるにせよ、ガルマニア帝国軍は必ず遠征えんせいして参るでしょう。その際に後顧こうこうれいがないよう、今のうちに蛮族を殲滅せんめつし、二度と中原ちゅうげん侵攻しんこうなどくわだてぬようにするのです。そのためには、二万でもりぬくらいです」

 自分を無視されたと思ったらしく、クマールが色をなして反論してきた。

「だからこそだ! 蛮族にかまけておる間に、ガルマニアが攻めて来たらどうする? 蛮族など適当にあしらって、北方へ追い返せば良いのだ。それとも、ニノフ将軍には、蛮族の帝王とやらに個人的なうらみでもあられるのかな?」

 ニノフは、皮肉な笑みを浮かべているクマールに向きなおって、とぼけた顔を見せた。

「さあ、自分には恨みなどありませぬが、向こうには、あなた方への恨みつらみがあるでしょうね」

 蛮族の帝王が本当に先王カルスであるとすれば、右側に座っている将軍たちは皆、カルボンきょう謀叛むほん加担かたんした裏切り者ということになる。

 クマールはダンとテーブルたたいて立ち上がり、「きさま! 無礼ぶれいであろう!」と叫んだ。


 騒然とした空気の中、伝令が駆け込んで来た。

「会議中申し訳ございません! 火急かきゅうの連絡でございます! ガルマニア帝国軍およそ三万が、数日前、エイサ改め新都ゲルポリスを出発したよしにございまする! 軍をひきいるのは、かの軍師ブロシウスであります!」

 立ち上がったままのクマールが、「それ見たことか!」と叫んでニノフをにらみつけた。

 だが、ニノフは顔色一つ変えなかった。

「三万の軍勢が東側国境付近に到着するには、更に十日以上はかかりましょう。その間に蛮族を撃破げきはすればよいのです」

「ならん!」

 甲高かんだかい声でそう叫んだのは、カルボンであった。

「首都防衛が第一じゃ! クマール、差配さはいせよ!」

「はっ!」

 勝ちほこったようなみを浮かべ、クマールが命令をくだした。

「総裁閣下かっか御下命ごかめいにより、不肖ふしょうながら、わがはいが各将軍に命ずる。首都バロン防衛にわが軍を中心とした兵一万、東側国境警備には、わがおいガネス将軍のもとに一万三千、蛮族軍についてはニノフ将軍直属の機動軍五千で当たられよ。無論むろん、機動軍が、野盗軍や北方警備軍と共同戦線を組むことは、差しつかえない。皆の者、ただちに準備を始めよ!」

 くやしげに唇をむニノフの代わりに、ボローが立ち上がった。

「お待ちください! それはあんまりです!」

 クマールはジロリとボローをにらみつけた。

「わがはいは、お願いしたのではない。命じたのだ。何だ、おまえは。ひげを伸ばすなら、キチンとととのえよ。見苦しいわ!」

 言い捨てて会議室を出て行くクマールに古参組の将軍たちが続き、新参組も気の毒そうにニノフとボローを見ながら退室した。


 残ったニノフとボローは、最後の望みをけて、カルボンに交渉するつもりであった。

 カルボンは座ったまま、いだようにせこけたほほを一層青白くさせ、何事かブツブツとつぶやいている。

 ガルマニア帝国軍が余程よほど恐ろしいらしく、目はうつろで、とても一国の最高責任者には見えない。

 ニノフは、ツカツカと歩み寄った。

「総裁閣下、お願いがございます」

 カルボンは、夢からめたような不機嫌な顔で、「クマールの命じたことは、撤回てっかいせんぞ!」とき捨てるように告げた。

 ニノフは一度深く息を吸った。

「ならば、仕方ありませぬ。わたくしに、アルゴドラスの聖剣をお貸しいただけませんか?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ