表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
143/1520

137 第三勢力

 戴冠式たいかんしき当日の朝、ギータは近所をけずり回って安い馬車を手に入れた。

 連れの擬闘士グラップラトルースの業病ごうびょうが悪化し、愈々いよいよ危篤きとく状態になったため、乗せて帰る、というれ込みである。

 馬も、元々連れていた一頭とは別に、もう一頭買い求めた。

 そのあと、ギータが宿坊しゅくぼうを引きはらうと告げると、主人は布で口を押えながらも、気の毒がった。

「ルードのいずみの水も、霊験れいげんがなかったねえ」

 ギータは悲しげに首をった。

「いや、これもすべさだめでありましょうな。それから、トルースを運び出すために、知り合いの親子を呼んだんじゃが、部屋に上げてよろしいかのう? 何しろわしはボップ族じゃで、とてもかかえきれんのでなあ」

 断れば自分が手伝わされると気を回し、主人はあわてて「いいとも、いいとも」と告げて、逃げるように立ち去った。

 外から来る親子連れとは、ギータが用意した違う服を身にけたタロスとウルスであり、逆に、業病で寝ているトルースのやくはツイムに入れわっている。

「動けるか?」

 タロスが聞くと、ツイムは「何とかな」と、意外にしっかりした声で答えた。

「しかし、あんたとおれとじゃ、随分ずいぶん体格が違う。誤魔化ごまかせるのか?」

 それには、ギータが答えた。

やまいちぢんだ、ということにするさ。それより、怪我けが具合ぐあいはどうだ?」

「ああ、有難ありがたいことに、だいぶらくになった。れいを言う」

 だが、ギータは「礼はまだ早い」と手を振った。

「恐らく、今夜熱が出る。その熱が高い方がなおりは早い。じゃが、少々つらいぞ」

 ツイムは苦笑した。

「こっちは怪我人けがにんだぞ。もう少し楽しいことを言ってくれ」

 そのやり取りを横で聞いているウルスは目をうるませていた。

 ちなみに、前夜の話し合いで、残念ながら危険をけるために、当分はウルスラを表に出さないことにしたのである。

「ごめんね。ぼくたちをかばうために、怪我をさせてしまって」

「ああ、良いのです。それがおれ、いや、わたしのつとめですから」

 それを聞いたタロスも頭を下げた。

「今回のことだけでなく、北長城きたちょうじょうからずっとウルスさまたちをまもってくれて、本当に感謝している。今度はわたしの番だ」

 ギータが「これこれ、そういうことはエイサを出てからにしろ」とたしなめ、一行は宿坊を出発することになった。


 ウルスラが何故なぜ時を越えたかについては、誰も深くは詮索せんさくしなかった。

 それが外法げほうであることは、皆薄々うすうすわかっており、えてれなかったのである。

 また、もし聞かれたとしても、記憶のないウルスラには答えようもなかった。

 エイサに入る時の厳重な取り調べに比べ、出て行く方は楽であった。

 まして、病人がいるということで、一刻も早く退去たいきょするよううながされたくらいである。


 緩衝かんしょう地帯に出て、道すがら当面の行き先を相談した。

 実は、前夜の話し合いでも、それだけがなかなか決まらなかったのだ。

「やはり、ガルマニア帝国にも、バロード共和国にもくみしない、第三の勢力に頼るしかないと思う」

 タロスがそう言うと、ギータが首をかしげた。

「かと言って、小国の集まりである沿海えんかい諸国では意思統一ができず、無理であろうな」

 ウルスが「サイカは?」と聞くと、ギータは苦笑してかぶりを振った。

「無理じゃよ。アッという間にやられてしまうわい」

 唯一、可能性がある存在として名前ががったのは、国ではなかった。

 プシュケー教団である。

「わたしは良く知らんのだが、ガルマニアからも、バロードからも追われるわれわれを、受け入れてくれるものなのか?」

 タロスの問いに、言い出しっぺのギータでさえ、首をかしげた。

「実は、わしもよくわからん。まあ、ガルマニア帝国とは例のシャルム渓谷けいこくで戦ったから、敵対関係であろうが、バロード共和国とは、今のところ無関係とは思う。じゃが、教義きょうぎの中に、困っている者は親のかたきでも助けよ、という一条いちじょうがあったはずじゃ。それにすがるしかない」

 馬車に横たわっているツイムが、「心許こころもとない限りだな」と、少しだるそうにひょうした。

「お、どうした? 苦しいのか?」

 タロスがツイムの顔をのぞき込むと、真っ赤になっている。

 ギータも近くに寄って、ツイムのひたいに手を当てた。

「うむ。熱が出てきたようじゃな。少し早いが、宿営しゅくえいの準備をするかの」

 と、前の方を見ていたウルスが、「あれは、何?」と指差ゆびさした。

 見ると、濛々もうもう土煙つちけむりが舞っている。

「お、うわさをすれば何とやら、恐らくプシュケー教団の巡礼軍じゃ」

 タロスも目を細めて、「そのようだ。これは、当たってくだけるしかあるまいな」とつぶやいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ