表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/1520

128 王女の決意

 無事にエイサに入ったタロスとギータは、とりあえず巡礼じゅんれい用の宿坊しゅくぼうまることにした。

 ここでも、タロスふんする擬闘士グラップラトルースの業病ごうびょうを理由に、個室を割り当ててもらった。

 ギータはその部屋に結界けっかいを張ると、「まあ、こんなものかな。タロス、もうしゃべってもよいぞ」と告げた。

 タロスはこの旅で随分ずいぶんギータと打ちけたらしく、ややお道化どけたような顔で、「ほう」と感心したような声をげた。

「魔道師の真似事まねごともするのだな、ギータ」

 ギータもしたしげに、フンと鼻をらして見せた。

「情報屋じゃからな。最低限、盗み見・盗み聞きをふせぐ結界が張れねば、商売あがったりさ。まあ、わし程度の結界は、上級魔道師には薄絹うすぎぬのようなものだろうがな。以前のエイサなら、わしらは丸裸まるはだかも同然じゃったはずだ。今は、魔道師自体がほとんどおらんからな。そのわり」

 ギータのいかけた言葉を、タロスが引きいだ。

「各国の間者かんじゃが、大勢おおぜい入り込んでいるな」

 ギータもうなずく。

「やはり、おぬしも気づいておったか。わしらに限らず、エイサに来ておる巡礼や商人あきんどの半分はあやしい。まあ、あれだけ麗々れいれいしく中原中ちゅうげんじゅうにウルス王子の件が通達されたからな。まるで、くわしいことが知りたくば見に来い、と言わんばかりだ。しかも、肝心かんじんのウルス王子はまだ到着しておらん。つまり、各国・各自由都市の間者を集めるための猶予期間ゆうよきかんのようではないか」

 タロスは首をかしげ、「目的は何だろう?」とひとごとのように云った。

「決まっておる。ウルスの即位に、なるべく多くの国や自由都市に来てもらうためさ。つまり、ウルスが単なるガルマニアのあやつり人形ではなく、みずからの意志で王位を継承し、本気でバロード奪還だっかんを求めているのだということを知らしめ、自分たちも無関係ではいられない、と思わせるためだ。そうして、盛大せいだい戴冠式たいかんしきを行い、バロードへの進軍を発令はつれいするつもりだ。日和見ひよりみしている国の中には、勝ち馬に乗ろうと参戦を表明するところも出てくるだろうな」

 タロスはいかりをあらわにして、「そうはさせぬ!」と叫んだ。

「裏切り者のカルボンはにくいが、王子とバロードが戦争するなど、あってはならぬ!」

 感情がげきし過ぎたのか、タロスの身体からだ硬直こうちょくし、立ったままクルリと白眼しろめいた。

「おい! タロス! 大丈夫か!」

 心配してけ寄ろうとしたギータの足がまった。

 タロスの身体がフッとやわらかさを取り戻し、同時に、白眼が戻った。

 ただし、瞳の色は、本来のコバルトブルーではなく、限りなく灰色に近いうすいブルーに変わっていた。

 その目で、初めてのようにギータの顔を見ている。

「あなたは誰? ここはどこ?」

 その声は明らかに少女のものであった。

 ギータは、ハッとしたような顔になり、「ウルスラ王女、でございますな?」とたずねた。

「そうよ。まあ、でもどうして、あなたがそれを知っているの?」

 タロスのごつい身体からそのような言葉がはっせられるのは、見様みようによっては滑稽こっけいだろうが、ギータにとってはそれどころではなかった。

 この状態がいつ終わるか、わからないからだ。

おそらく、あまり時間がないでしょうから、簡単にご説明いたします。わしはギータ。サイカで情報屋をいとなんでおります。あなたとウルス王子のことは、ゾイアから聞きました。そうです、あのゾイアです。わしのところに来て、あなたたちの消息しょうそくを調べるよう依頼しました。その時点では、あなたたちは北長城きたちょうじょうに向かっているとわかり、ゾイアに伝えました。その後、あなたたちがスカンポ河をくだって沿海えんかい諸国に行ったと知りましたが、最早もはや手遅れでした。結果、ゾイアはあなたたちにえず、北長城にとどまりました」

 ギータはくやしそうにくちびるみ、話を続けた。

「もし、わしがもっと早くに情報をつかんでおれば、ゾイアは沿海諸国に向かい、あなたたちを助けることができたかもしれませぬ。わしは、後悔しました。そこで、タロスと。おお、そうです、今あなたが乗り移っているのは、タロスなのです。かれが、あなたたちを救いたいとわしのところへ情報を求めて来た際、いっそわしも行こうと決めたのです」

 ギータは早口にそれだけ言うと、果たして通じているのかと、相手を見た。

 ウルスラの目をしたタロスは、深くめ息をいた。

「そうだったのね。でも、もういいの。わたしは決めたのですから。ありがとう、わたしたちを心配してくれて。タロスの意識が戻ったら、このままバロードに戻るように言ってくださいな。わたしには、ここでやるべきことがあるからと」

「あっ、ちょっとお待ちを!」

 次の瞬間、タロスは再び白眼となり、その場にくずれるように倒れた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ