表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
126/1520

120 交差する糸

 その頃、バロードを出たタロスは、一先ひとまず自由都市サイカを目指していた。

 少しでもウルスの情報が欲しかったのだ。

 ベゼルから餞別せんべつとしてもらった馬に乗り、緩衝かんしょう地帯を南東にくだって行った。

 途中どこにも寄らなかったため、ニノフとボローが好意で用意してくれた食料と水が徐々に心細くなったが、それが底をつく前に、商人あきんどみやこ、サイカが見えるところまで辿たどり着いた。

 都市をぐるりとかこむ城壁に唯一ある門の前には、長槍ながやりたてを持った門番が両側に立っている。

 タロスは馬をり、通行証つうこうしょうを差し出した。

 ニノフの口利くちききでバロード共和国が発行した、正式なものである。

 門番がそれをあらためていると、タロスの頭上から大きな声が聞こえて来た。

「おまえ、戻って来たのかい!」

 タロスは驚いて上を見た。

 アーチ状の門の上は矢狭間やはざまがあり、さらにその上に門楼もんろうがある。

 その門楼から突き出した露台バルコニーから身を乗り出すようにして、一人の女がタロスに手を振っていた。

 年齢としの頃は三十代なかばほどであるが、まとっている真っ白な長衣トーガは、身分の高さを思わせた。

 遠目とおめでも、キリリとした美貌びぼうの持ち主であることが見て取れる。

 だが、すぐに女は自分の見間違みまちがいに気づき、「あら、ごめんなさい」とあやまった。

「でも、ちょっとだけ話をさせておくれ。今りて行くからさ」

 そう言うと、女の姿が消え、バタバタと階段を走る音が聞こえた。

 門番は飲み込み顔で、「どうぞ、中にお入りください」と丁重ていちょうまねき入れた。

 わけもわからぬまま、タロスが門をくぐって中に入ったところへ、ちょうど女が階段から下りて来た。

 女は失礼なほどまじまじとタロスの顔を見つめ、「なんと、まあ」と声を上げた。

「まるで双子ふたごのようだね、こりゃあ。目の色と髪の色は違うけどさ。ああ、ごめんよ。まだ名乗りもしていなかったね。わたしはライナ。この街を仕切ってる女さ。あんたは?」

「タロスだ。わたしにているというのは、闘士ウォリアのガイアックという男のことだろうか?」

「ううん、違うよ。わたしの知ってるのはゾイアって男さ」

「すると、ニノフが言っていた、北方警備軍の男かな」

 ベゼルから聞いた自分がたたかった相手のガイアックという闘士と、ニノフの窮地きゅうちを救ったゾイアという千人長は、タロスの中では結びついていなかった。

「へえ、そんなに何人も似た男がいるのかい? だったら、一人ぐらい、わたしの婿むこになっておくれよ」

 タロスの驚いた顔を見て、ライナは吹き出した。

「冗談だよ。立ち話もなんだ。ちょっと飲みながら話そうじゃないか」

 馬を門番にあずけさせられて、強引に屋敷やしきまで引っ張って行かれた。


 応接間に座らされ、薬草茶ハーブティーでも飲ませてくれるのかと思いきや、出てきたのは泡立あわだ麦酒むぎざけであった。

「いや、これは」

 タロスが断ろうとするのを、「別に、酔わせて手籠てごめにしやしないよ!」と、豪快ごうかいに笑い飛ばされた。

「そんなことより、あんたがサイカに来た理由があるんだろ? 場合によっちゃ、相談に乗るよ」

 そう言うと、自分から先にグッと麦酒のさかずきけた。

 タロスは迷ったが、相手がこのサイカの実質的な支配者であることは、まわりの人間の対応を見てよくわかった。

 覚悟を決めて、自分も麦酒を飲みした。

 ライナは、「おお、いい飲みっぷりじゃないか!」と喜び、おわりを持って来させた。

 さらに一杯ずつ飲んだところで、タロスはおもむろに切り出した。

「実は、人を探している。十歳の金髪の少年だ。瞳はコバルトブルー」

 麦酒の杯を口に近づけていたライナの手が、ピタリとまった。

 また、タロスの顔をジロジロと見た。

「あんた、本当にゾイアじゃないんだね?」

 タロスは苦笑して、「そのつもりだが」と答えた。

 ライナは天井を見上げて、「偶然にしちゃ、出来過できすぎだね」とひとごとのようにつぶやいたが、応接間の外に向かって「ちょっと、誰か!」と叫んだ。

 如何いかにも用心棒ようじんぼうという風体ふうていの男が駆け込んで来て、「姐御あねご、どうした!」と言うや、タロスをにらんで、剣のつかに手を掛けた。

馬鹿ばか勘違かんちがいするんじゃないよ。頼みがあるから、呼んだのさ。ひとぱしりして、ギータを連れて来ておくれ。愚図愚図ぐずぐず言うようなら、今後の商売を考えさせてもらうよって、おどかしな!」

承知しょうち!」

 タロスは不審ふしんな顔で、「ギータとは、誰だ?」といた。

「情報屋さ。ゾイアから同じような依頼を受けたらしい。あんたと何かつながりがある気がする。もっとも、情報屋だから、金を払わないとくわしいことは教えちゃくれない。だから本人を呼ぶのさ」


 やがて、情報屋のギータがやって来た。

 タロスはボップ族とは聞いていなかったため、最初は子供かと思ったが、顔にしわの多く、むしろ老人のようだった。

 その一方、目がクリッとして黒目勝くろめがちなため、おさなくも見える。

 無理やり連れて来られたらしく、不機嫌ふきげんな顔であったが、こちらを見てパッと表情が変わった。

「おぬしは、タロスだな?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ