10 攻城戦
慌ただしく兵士たちが駆け回る音の合間に、ドーン、ドーンと腹に響く振動が伝わってくる。
「こりゃあ、随分でっけえ投石機を使ってやがるな。城ごとぶっ壊すつもりかよ。こんなとこ、長居は無用だな」
喋りながらもロックはゾイアの牢を開け、中に入った。
「さて、入口の鍵は、おいらの読みどおりだったが、こっちは合ってるかな?」
そう呟くと、一回り小さな鍵を出した。
「鍵束から外して盗ったのか?」
驚くゾイアに、ロックが自慢げに「あたり前だろ!」と鼻をヒクつかせた。
「鍵束ごと盗っちまったら、すぐに気づかれるじゃねえか。必要なもんだけを選んでるのさ。ま、この鍵だけ小ちえから、間違いないと思うけどな」
ゾイアの手枷に差し込むと、カチャリと外れた。
「へへっ、大当たりとござい。足は自分で外しな。ほれ!」
ロックがポンと投げて寄こした鍵を受け取ると、ゾイアは頭を下げた。
「すまぬ」
「礼は、無事にここから抜け出した後でいい。うまいこと敵が攻めて来たから、ドサクサに紛れて逃げられると思うが、何しろガルマニア軍だ、一筋縄じゃいかねえだろう。おっさん、多少は腕が立つんだろ?」
「よくわからぬが、相当に強いようだ」
ロックは苦笑し、「なんだよ、変な謙遜しやがって」と、あくまでも冗談と受け取った。
二人が牢を脱出する少し前。
クルム城の見張り台に立っていた兵士は、わが目を疑った。
少し欠け始めた月の照らす中を、北の方から歩いて来る一団が見えたのだ。
凡そ二十人ぐらいだろうか。特に甲冑なども身につけていない。
最初は戦で村を焼かれた難民かとも思ったが、それにしては堂々としている。
兵士は何か変だと感じながら見ていたが、ふいに、集団までの距離感とかれらの大きさに違和感があることに気づいた。
兵士の目が正常なら、普通の人間の三倍ぐらい身長がある。
「巨人?」
思わずそう呟いたが、すぐに大慌てで非常事態を告げる鐘を鳴らし、悲鳴のような叫び声を上げた。
「敵襲だあーっ!」
その直後、ヒュンと空気を切り裂く音がするや否や、すぐ傍にドーンと激しい音を立てて、兵士の頭より大きな岩が落ちて来た。
それも一個や二個ではない、雨あられと振って来る。
恐らく、ギガンたちが力任せに投擲しているのだ。
「報告せねば!」
言い訳のようにそう叫ぶと、兵士はサモス千人長の許へ走った。
サモスが寝室として使っている部屋の前に来ると、憚らず扉を叩いた。
「申し上げます! 敵はギガン約二十名、特に武器は持たず、大きな岩を城内に投げ込んでおります!」
さすがにサモスも起きて着替えていたらしく、自ら扉を開けると、「狼狽えるな!」と一喝した。
「ギガンといえど、たかが二十名。千人隊が守るこの城がそう易々と落ちるわけがなかろう!」
「はっ! 申し訳ございません!」
「それより、ギガンはどの方角から来た?」
「それは、ええと、あ、北でございます」
「ならば、ギガンは陽動だ。南の城門が狙われる。兵を集結させよ!」
「ははーっ!」
その間にも、次々と岩の落ちて来る音が響く。
サモスが不安そうに天井を見上げた、まさにその時、爆発のような激しい音と共に天井を突き破り、サモスの胴体ほどもある岩が落下して来た。
「いかん。ここは危ないな。奥の間の方が良かろう。いずれ投げる岩が無くなるはず。それまでの辛抱だ」
サモスが独り言ちて、奥へ繋がる扉を開きかけたところへ、今度は伝令が駆けこんで来た。
「申し上げます! 城門が破られました! 敵が入って来ます!」
「何をやっておる! 北方警備軍が大きく動いたとの報告は聞いておらんぞ。となれば、巨人傭兵以外は、精々百人程度のはず。わが千人隊が後れをとるとは、何事か!」
「はっ、申し遅れました。敵は北方警備軍に非ず!」
「なんだと! ならば、何者だ!」
「野盗団にございます!」
サモスの顔が怒りで真っ赤に染まった。
「余計にあり得ん! たかが野盗団に城門を破られたというのか!」
「ただの野盗団ではありませぬ! 『荒野の兄弟』にございます!」
サモスは口を開いたまま、立ち尽くした。