表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
115/1520

109 探索行(12)

 橋にけられた火は、通路のゆかオーク材をめるように燃え広がり、かさなって倒れていたマゴラ族たちも、たちまち炎に包まれた。

 それに気づいて北方側に戻ろうとする者のところへ、後から後から新手あらてのマゴラ族が殺到さっとうして来るため、横の三角形に組まれた鉄の板の隙間すきまから、悲鳴を上げながら何人も谷底たにそこへ落ちて行った。

 一方、その三角形の頂点をつなぐ細い鉄の板の上を走っているゾイアは、燃え上がる炎とけむりに視界をさえぎられながらも、何とか向こう岸まで辿たどり着いた。

「すげえな、千人長!」

 感嘆の声を上げるペテオに、髪を幾分いくぶんがしたゾイアは、「すまん」とびた。

「えっ、何がだ?」

「途中で、借りた剣をくしたようだ」

 それを聞いて、ペテオはき出した。

「何言ってんだ。元々あんたが、剣をったおれに貸してくれたもんじゃねえか。いいってことよ。それにしても、よくあんな場所を走れるもんだな」

「なんとなく、走れる気がしたのだ。床は油まみれであったしな。それより、ほかのみんなは無事か?」

「ああ、念のため、この先に固まって待ってる。マゴラ族も火が消えるまでは、追って来れないだろう。行こうぜ」

「ちょっと、待ってくれ」

 ゾイアは近くのれた木の枝を何本か折り、つぼに残っていた石油いしあぶらなすり付けると、そのうちの一本にまだ燃え続けている橋から火を移した。

 松明たいまつわりであろう。


 先に行った四人は、隧道ずいどうの前で待っていた。

 馬三頭は荷物を乗せて、立ち木につないであった。

 ロックは、ゾイアと同じように、木の枝に油をみ込ませて火を点けたものを持っていた。

「なんだよ、おっさんも、おんなじこと思いついたのかよ!」

 気がくことを自慢じまんしていたらしいロックは、ちょっと残念そうに言った。

「ああ。隧道が見えた時から、明かりが必要とは思っていた。だが、自分で気づいたおまえは、やはり、大したものだ」

 ロックは、すこし照れたように「まあな。さあ、行こうぜ」と先に歩き出した。

 アーロンが苦笑しながら、「ちょっと待て。馬を連れて来る」と言うと、マーサ姫とレナも馬のところへ行った。

 ゾイアは、もう一本の木の枝に火を移してペテオに渡し、小声こごえささやいた。

「ロック一人では危ない。おまえも先に行ってくれ」

「それはいいけど、千人長は?」

「万一に備え、一番最後に行く」


 ロックとペテオを先頭に、馬を連れた三人、ゾイアと続いて隧道に入った。

 隧道は、馬に人が乗っても、ギリギリで天井に頭をこすらない高さにつくってあったが、用心のため、馬は手綱たづなを引きながら歩かせている。

「どうやってこんなにでっかい穴を掘ったんだろう?」

 先頭を行くロックが、なかひとごとのように聞くと、ペテオがわずらわしそうに「どうせ、魔道だろう」と返事をした。

「でも、魔道じゃ、こんなの無理だよ」

「だったら、ほら、例の鉄の巨人ギガンとやらに、やらせたんだろうさ」

「ソウダト、キイテイル」

 いきなりレナが答えたため、二人はビクッとした。

 馬を引く組の先頭は、今回はレナであったのだ。

 ペテオは「おどかすんじゃねえよ!」と怒ったが、ロックの反応は違っていた。

「だとしたら、その鉄のギガンって、どこに行ったんだろう。蛮族たちがリードみなとを攻めた時も、その後、『あかつきの軍団』のとりでに入ってからも、そんなもののうわさは、一つも聞いてないよ」

 その時、隧道の奥から、ガシャン、ガシャンという音が聞こえて来た。

 ペテオはブルッと体をふるわせた。

「おいおい、冗談じょうだんじゃねえぜ。まさか、ここにいるってのか」

「おいら、ちょっと見て来るよ!」

 そう言った時には、ロックはもう駆け出していた。

「おい、待て、危ねえぞ!」

 ペテオが呼び掛けるのに、「大丈夫。危なそうなら、すぐ逃げるから!」という返事が、木霊こだましながら聞こえたが、その先で隧道が二つに分かれ、左に曲がったため、姿が見えなくなった。


 走りながら、ロックは一度目を閉じ、すぐに開いたが、目全体が真っ赤に光っていた。

 そのまま、身体からだを空中に浮かせて進む。

 隧道は、大きな地下の空洞くうどうつながっていた。

 いや、単なる空洞ではなく、どことなく廃都はいとヤナンの地下神殿を思わせるつくりである。

 その正面の、一段高い舞台のような場所に、それはた。

 身長は常人の五倍ほどあり、体全体に甲冑かっちゅうまとっているように金属におおわれているが、蛮族たちの言うような鉄ではなさそうである。

 それが巨人どころか、生き物ですらないのは、その顔に当たる部分を見れば明らかだった。

 それは、機械からくりであった。

 ロックは、いや、ロックに憑依ひょういしている者が、叫んだ。

「おお、機械魔神デウスエクスマキナ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 109 探索行(12)まで読みました。 いつものことではありますが、戦いのシーンが臨場感たっぷりで、読んでいて心踊りました。 激しさがしっかり伝わってくるところも良かったです。 また、地形…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ