表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/1520

9 脱出

 どうやって脱出するつもりなのか、ゾイアがたずねようとした時、ロックは「しっ! もうすぐ見回りの時間だ!」とささやいた。

 その言葉どおり、間もなく監視役かんしやく衛兵えいへいの足音が聞こえてきた。二人いるようだ。

 ロックは小声で「ちっ、人数を増やしやがったか」とき捨てるようにつぶやいた。

 足音は石牢いしろうが並ぶ部屋の前でまり、ガチャガチャと入口のかぎを開ける音がした。

 入って来たのはやはり二人だった。両名とも、かわ鉄片てっぺんを組み合わせたガルマニア式の簡易甲冑かっちゅうを着ていた。

 一人は腰に幅広はばひろ長剣ロングソードし、もう一人はやりを手にしている。

 長剣の方がゾイアの牢の前に来た。赤毛に茶色の瞳、はばの広いあごという典型的なガルマニア人の顔をしている。

「目がめたようだな。だいぶさわいでいたようだが、はらったのか?」

「違う! 再三再四さいさんさいし言っておるように、われはただ子供をさがしているだけなのだ。おまえたちの中に、金髪でコバルトブルーの目をした、十歳くらいの男の子を見たものはおらんのか?」

「知らんな。その子供がこの城に来たのがおれたちがめ込んだ後なら、大方おおかた、城に火の手が上がっているのを見て逃げたのだろう。それより、おまえに伝えることがある」

「われに?」

「城内をさわがせた罪により、明日死刑と決まった」

馬鹿ばかな!」

 衛兵の顔に、いかりとも軽蔑けいべつともつかない表情が浮かんだ。

「馬鹿はおまえだ! ガルマニア兵に怪我けがわせて、ただでむとでも思ったか!」

 ゾイアはなぐりかかろうとするかのように前進したが、両手両足の鎖が伸び切ったところでガチャンと音がしてまった。

 ゾイアの剣幕けんまくに、長剣の衛兵は一瞬ってしまった。

 その屈辱くつじょくらすかのように、後ろに立っている同僚どうりょうに「槍を貸せ!」と手を差し出し、槍を受け取るや、石突いしづきの方でゾイアの胸板むないたを突いた。

「ゲホッ!」

 胸を押さえてうずくまるゾイアに、衛兵は「身のほどを思い知ったか!」と嘲笑あざわらった。

「ふん。これでしばらくは大人しくなるだろう。さて、次だ」

 衛兵はとなりのロックの牢の前に移動した。

「おい、コソ泥。し上げられた宝剣ほうけん以外の盗んだものは、どこにかくした?」

 ロックは自分の牢の鉄格子てつごうしつかみ、食って掛かった。

「はあ? 盗んでねえって言ってんだろ! あの宝剣はあずかりもんだ!」

うそを申すな。カリオテのロックという名で、窃盗常習せっとうじょうしゅう人相書にんそうがきが出回っておるぞ。さあ、白状はくじょうしろ。他の財宝はどこに隠した?」

「ははあん、そういうことか」

 ロックは、おまえの魂胆こんたんはわかったぞとばかりにニヤついた。

「な、何がだ?」

「しらばっくれるんじゃねえや。おいらが宝物を隠してたら、自分が取るつもりだな? お生憎あいにくさまだったな。おいらはった物はすぐに売っぱらう主義なんだ。なあんにも残っちゃいねえよ」

 衛兵の顔が怒りと恥辱ちじょくに真っ赤になった。

「馬鹿なことを申すな! これは取り調べだ。ああ、もういい。せっかく明日の処刑を日延ひのべしてやろうかと思ったが、最早もはや酌量しゃくりょう余地よちはない!」

 怒りにまかせて、まだ手に持っていた槍を突き入れようとしたが、気配をさっしたロックが飛び退く方が早かった。

「逃げるな、コソ泥!」

 尚も槍を構える衛兵を、さすがに同僚がめた。

「もう、よせ! 千人長にバレたら、大事おおごとだぞ!」

「ふん、仕方ない。明日は特等席でおまえたちの処刑を見届けてやる!」

 憎々にくにくしげに言い捨てて衛兵たちが去った後、ロックの「もういいかな」というつぶやきが聞こえた。

 カチャリと錠前じょうまえの開く音がし、忍び足でロックが牢から出て来た。

「おい、おっさん、大丈夫か?」

 倒れたままのゾイアに声を掛けたが、様子がおかしいことに気づいた。

「おっさん、随分ずいぶん毛が濃いな。っていうか、おい、おめえ、人間か?」

 言われて顔を上げたゾイアは、まだ半分くらいのところで変身が止まっていた。それでもロックを驚かすには充分じゅうぶんだった。

「ば、化け物!」

「待て、すぐに戻る」

 ゾイアの言葉どおり、徐々じょじよに獣毛は短くなり、顔も平板へいばんになってきた。

「いってえ、どういうこった?」

「今は、説明する時間がしい。今の騒ぎのあいだに牢のかぎうばったのだな? ならば、すまぬがわれも出してもらえぬか?」

「あ、ああ。元々そのつもりさ。頭数あたまかずは多い方がいいからな。だが、おいらをおそったりしないだろうな?」

「無論だ。少なくとも、先程さきほどの衛兵よりは道理どうりわきまえているつもりだ」

「なるほどな」

 ロックはふところから鍵を出した。

「あいつらめやがって、こちとら盗みの玄人くろうとなんだぜ。さてと、おいらのが六番だったから、おっさんのとこは、この五番の鍵のはずだ」

 ロックが鍵を差し込んだ、その時、外から非常事態を知らせるかねひびいた。

「う、うそだろ。もうバレたのか?」

 ロックは首をすくめたが、すぐに「敵襲てきしゅうだあーっ!」という叫び声が、城の彼方此方あちらこちらからがったのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ