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とおい むかしの 海のおはなし

作者: 倉本保志

今回は、童話ふうにおはなしをすすめることにいたしました。自分が他人と違っていたって、それを自ら卑下する必要などありません。むしろ、その方が、新時代に対応できる可能性をしっかりと持っているのかもしれないのです。他人と違う自分に自信をもって今日をしっかりと生きていきましょう。

 

とおい むかしの 海のおはなし


むかしむかし、それはもう、大昔のことです

まだ、地球上に人間はおろか、恐竜さえも、いいえ、その先祖でさえ

生まれていなかったころ、海の中には、大変奇妙な、まあ、奇妙というのも

今の物差しで測ったところの奇妙さでございますから、当時としては、最新の

高度な生き物たちが住んでおりました。

彼らは、海老のようなカラで表面を覆われていて、体にはたくさんの節があり、

ちょうど、石の下などに隠れていたりする、団子虫の様相をしていました。

体の大きさは、まあ、団子虫よりかはかなり大きく、昔 あ、ここでいう昔というのは今から、200年ぐらい前のことですから、至極、最近 ということになってしまいますが、江戸時代 当時のお金として利用されていた、小判くらいの大きさでありました。

小判というたとえは、その生き物を形容するのに非常にピタリとくるのではないかと思われます。

といいますのも、この生き物、体の厚さがあまりなく、ちょうど小判に足が何十本もついたような格好でありました。

その生き物が、当時の海の浅瀬で、自分たちよりも小さな生き物や海藻を食べたりときに、大きなサソリのような生き物に逆に食べられたりして、細々と暮らしておりました。

彼らは、海岸で見かけるフナ虫たちのように、仲間で集まって生活していました。

ときには、自分の体の何倍もあるような生き物の死骸を仲良く分け合って

食べたり、そしてわが身に危険がせまったりした時などは、集団のうちの一匹

がいち早くその危険をみんなに知らせて、全員が一斉に、ささと、石の下に隠れ

たりして、いわば、原初の、ゆるい集団生活のようなかんじで生きていました。

そんな中、ひとりだけ、ぽつんと寂しそうに過ごしている、その、小判のような生き物がいました。

他の仲間たちは、彼のことを、ウ二リンとよび、彼をなぜか嫌っていました。

ウ二リンが、近くに来た時は、まるで彼を避けるかのように、わざと他の場所に

集団で移動したり、大切な餌を食べに、ウ二リンが近づいてきたときなどは、

頭にある小さな触覚のようなところで威嚇し、ウ二リンを寄せ付けないようにもしました。

食餌を拒むというのは、生死にかかわることですから、これは、集団における、かなり酷い、いじめです。

最近よく、教育問題として我々人間社会でも注目されているいじめ ですが、実は生き物にとって、本来備えられている、いわば本能的なものであり、このような何億年という太古の昔から、あらゆる生き物たちの間に存在するものでした。

そして、ウ二リンが、いじめられるのには、やはり、原因がありました。

彼は、他の仲間たちとは様相がすこし、違っていたのです。

ウ二リンには、体全体に茨のトゲのような突起があり、幼齢の頃には

さほど目立たなかったため、集団で仲良く生活もしておりました。

他の仲間たちと同様、ウ二リンは 脱皮を繰り返し、少しずつ大きくなるにつれそのトゲも段々と大きくなっていきました。

そのトゲの大きさに、まるで比例していくかのように、徐々にウ二リンは、

仲間たちから、除けもの扱いをされるようになってしまったのです。

一人なってしまったウ二リン、そんな中でも、彼には、僅かながら、希望がありました。

ひとりだけ気の許せる友達ができたのです。

ウ二リンは彼のことを、オニリン とよび、いつも一緒に過ごしました。

オ二リンは、少し前に、別の海からここに流れ着いた、いわばよそ者で、

頭のところに大きなとげが、2本、ちょうど角のように突き出ていました。

その容姿からなのか、別の海からきたよそ者だということなのかは、はっきりと解りませんが、オニリンもやはり、ここに住む他の仲間たちからいじめを

受けていて、ウ二リン以外に彼と行動を共にするものはひとりもいませんでした。


はたしてどれくらいの月日が流れたでしょう・・・?

いつものように、この小判に足の生えたような生き物たちは、浅瀬の比較的温かい

この海の中で、悠々と、過ごしていました。

以前この海に、自分たちを食べにやってきていた大きなサソリのような

生き物は、もうすっかり姿を見せなくなってしまい、ここらでは、彼ら

を餌にする恐ろしい天敵ともいえる生き物たちは、あまり姿を見せなくなっていました。

いつものように、ウ二リンとオニリンは、ほかの仲間たちが食い散らかした

死骸の残りを、二人で仲良く、食べていました。

いきなり、すう と黒い大きな影が彼らの頭を上を通り過ぎ、どこかへ

消えてしまったかと思うと、すぐに戻ってきて、また二人の頭の上を、

泡沫とともに通り過ぎていきました。

「・・・一体、なんだろう・・・?」

ウ二リンとオニリンは顔を見合せて呟きました。何しろ見たこともない

大きさです。

「ぼくらを食べに来たのかも・・・?」

「やばいよ、オ二リン・・・今すぐに逃げよう・・」

ウ二リンとオニリンは、慌てて、岩陰に隠れようとしました。その時です。

少し向こう側にいた、仲間めがけて、その黒い影は一直線に、しかも、すごい勢いで突進したのです。

バババ、バババリリリイイ

大きな音とともに、仲間たちは、海底の砂泥とともに巻き上げられ、ふらふらと枯葉のように下に落ちてきます。それを狙うかのように、その黒い大きな影の生き物は、ワニのような口を大きく開いたかと思うと、ガッポリと彼らを呑みこんでしまいました。

仲間たちは、あっという間にその生き物の餌食になったのです。

大きな生き物は身体の半分くらいあるかと思われる大きな口で、次々に彼らを、食べていきます。

運よく、一度目の、その怪物の攻撃を回避できた、他の仲間たちは、急いで岩陰に逃げていきます。

しかし、最近、敵から襲われることもなく、逃げる必要があまりなくなっていた

彼らは、自分の足がひどく遅くなっていることに気付いていません。

つぎつぎに、襲われて、バリバリと、あっという間に食い尽くされてしまいました。

その大きな生き物は、まだ食い足りないのか、辺りを何度も旋回し、とうとう、

岩陰に逃げようとする、ウ二リンとオニリンの姿をとらえました。

猛スピードで上から急降下する、ワニのような大きな口が、二人を一度に捉え、

呑み込もうとします。

もう、おしまいだ・・・

ふたりは、いよいよ自分が死んでしまうのだと観念し、抵抗をせずにじっとして

いました。あるいは、恐怖のあまり、気絶していたのかも知れません。

その刹那、

ガリリ、ガリリイイ、

何か、砂を噛んだような音がしたかと思うと、そのワニ口の生き物は二人を プッと吐き出して、向こうの方へ行ってしまいました。

二人は、舞い上がった砂で視界の悪くなった海のなかを静かに、ゆっくりと落ちていきました。

そこは、すでに、彼ら、小判のような生き物にとって、地獄のような惨状でした。

頭を無残に食いちぎられ、わずかに足をばたつかせている仲間、体の下半分を食われそれでも必死に、岩場に隠れようとする仲間が、僅かながら海底にいました。

おそらく、あのふたりも・・・


しばらくして、ようやく水の濁りも消え、先ほどのホロコーストが、まるで幻影で

あるかのように、もとの静かな海に戻りました。

ウ二リン、オニリン、そして数多くの仲間の死骸のうえに、砂が、降り積もって

その、悲惨な殺戮現場をすっかり隠してしまっています。

ゴソソソ ゴソソ

砂泥の上の塵芥が、僅かに動くのが見えました。

それは、まさしく、頭の角が折れて、しまったオ二リンと、しっぽの部分をすこし食いちぎられてしまったウ二リンのからだでした。

「・・・大丈夫かいウニリン・・・・?」

「ああ、大丈夫・・」

「オ二リン・・きみのほうは・・・?」

「角が取れちゃったけど、平気だよ・・」

ふたりは、命が無事であることを喜びました。それと同時に、全滅してしまった多くの仲間たちの為にたくさんの涙を流しました。


やがて、時が過ぎ、ウ二リン、オニリンは、子供をたくさん産み、この海にも以前のような賑やかさが戻ってきました。

そして、彼らの、子供たちのからだにも、やはり多くのトゲや、大きな角が、ちゃんと、生えているのでした。なかには、角や、トゲのないもの達もいましたが、仲間はずれにすることもなく、敵から身を、しっかりと守ってあげるのでした。

彼らは、悲しい出来事をくぐり抜けて、本能を拠り所とすることのない新しい生き方を見つけたのでした。      

                             おわり




この作品はあくまでも童話風小説であり、童話ではありません。ジャンルの選択でいつもしっかりと当てはまる選択肢がなく、今回は 童話というジャンルにしています。純粋に童話を書いていらっしゃる皆さん、畑違いの場を荒らすようなまねをするつもりはありませんが、その点はご容赦のほどをお願いいたしまするうううう。

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