この美しい空の下で君を見た
夜空を見る。それは僕にとっての唯一の趣味であり唯一の楽しみだ。
雨の日でも曇りの日でも夜空だけは美しくて、嫌な事を忘れさせてくれる。
僕は人とどう接して良いか分からない。人の心は汚く醜い。信用し過ぎればつけ込まれ、信用をしなければ避けられていく。僕はあまり人とは関わりたくない。でも、空は違った。空はいつでもどんな時でも美しくて清らかだ。僕はこの空を見ているだけで幸せになれる。
───僕にはこの美しい空だけがあれば良い。
今日は8月30日。一年に一度、夏の終わりを告げるように、沢山の大輪の花が咲き一瞬で散っていく日。
この大輪の花が咲く日、それは僕には少し憂鬱に感じる日でもある。
花火は好きだ。この美しい夜空に咲く大輪の花火はこの夜空に負けないくらい美しい。でも、精一杯輝いているのにすぐに消えてなくなってしまう花火は僕にはどこか儚く憂鬱に感じてしまう。
憂鬱な気持ちを抑え、溜め息をつき公園のベンチに腰をかけ、再び夜空を見上げる。今日はこの空に美しい大輪の花が咲きほこるのか。
「あのぉ、そこでは何がみえるんですか」
僕は反射的に声の聞こえる方を見る。そこには水色の浴衣を着た綺麗な少女がこちらを見てたたずんでいた。
「星ですよ。綺麗な星が見えます」
雲一つ無い夜空に光輝く無数の星たち。あぁ、今日の空はは一段と綺麗だ。
「そんなに綺麗な星を私も見てみたいです」
少女は空を見上げてそう言った。
「見てみたい?あなたは今見ているじゃないですか」
僕の発言に首を横に振る少女。
「私は目が見えないんです」
「すみません。あまり、聞かれたくはなかったでしょ」
「いいえ。それより隣に座らせていただいても良いですか」
「良いですよ」
少女はゆっくりと僕の座っているベンチに歩いてくる。だが、途中で立ち止まり僕に声をかける。
「すみません。詳しい場所までは分からないので、少し手を貸して頂けますか」
「良いですよ」
僕は少女の手を優しく掴みベンチの方へ誘導する。少し肌寒い夜に暖かみを感じさせる少女の手。久し振りに感じる人の肌のぬくもり。こんなにも心地良いものだったなんてすっかり、忘れていた。
「そこですよ」
「ありがとうございます」
少女は僕の指示に従い、なんの躊躇いもなくベンチに腰かける。人はここまで初対面の人を信用できるものだろうか? 少なくとも僕には出来ない。僕は、何がこの少女をそこまで信用させるのかが不思議でたまらなく感じた。
「怖くないんですか。人に頼る事って、人はそんなに信用できますか」
「いいえ。怖くありませんよ。だって私は人を頼らなくては生きていけない自信があります。私を生きさせてくれてる人達を信用するのは当たり前じゃないですか」
少女のさも当然のように前を向き明るく答える姿に僕は言葉を失う。この少女の考える事はやはり分からない。でも、僕は彼女の生き方に少し感心ができる。信用をするのは当たり前か……。
再び見上げる空も美しかったが、少女のセリフは頭から離れず、空を見ることにあまり集中する事が出来なかった。
ヒュー、ドン! ヒュー、ドンドン!
気が付けば、花火は天高く打ち上がり大輪の花を咲かせていた。
「花火は綺麗ですか」
「あぁ、綺麗だよ。空を覆い尽くす程沢山の花が咲いているよ。とても綺麗だ」
「それは羨ましいですね。私も見たかったです」
少女は見えないはずの目を開け花火を見ようとしている。その少女の瞳は一点の淀みもない綺麗な瞳だった。あぁ、綺麗だよ。君の心もこの花火もこの星空も今のぼくには全てが美しくて尊く見える。
僕たち以外には誰もいない公園に響き渡る花火の音。
彼女の目には一体何が見えているのだろう。僕は目をゆっくりと閉じ、花火の音に耳を澄ます。
僕に見える世界は彼女には見えない。逆に僕には、見えない世界を彼女は見ている。僕はそれを体験してみたかったのかもしれない。結局、僕には何も見えなかった。
僕は少女に問いかける。
「何が見えますか」
「私は何も見えませんよ。でも、優しいあなた達の心は見えます」
「僕の心は綺麗に見えますか」
「はい、とても綺麗に光輝いていますよ」
「そうですか」
彼女は少し微笑みながら答える。
綺麗な心か、僕は彼女の答えに安心したのか嬉しかったのかは分からないが、気が付けば僕も彼女のように微笑んでいた。
その後何発の花火がこの空に散っていったかは分からないが、この日に見た花火は今までで一番美しかった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。かなり文章力が無いですがこれからも頑張って書きます。
読んで頂きありがとうございました。